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01-01-03 カイタ・シートーン 3

「出た出た出た!」

「あーはいはい。良かったな」


 右手の掌を上に向けて「火の球」と唱えて三回目、やっと硬式野球の球くらいの大きさの球が浮かんだ。


「こ、これでどうするんだっけ!あ、『飛べ』!……おう、……消えた」

「……」


 手の平の上に浮かんでいた火の球が霧散する。

 盛大なため息が横から聞こえるが、聞こえなかったふりをして少年をみる。


「消えた……」

「行動詞が遅かったからだろ」

「そういうことか……」


 少年が説明してくれたところ、魔法は基本的には『属性詞』と『形状詞』と『行動詞』を唱えることで発動するらしい。

 少年が俺にのしかかっていた狼を倒すために使った『火の球、飛べ』は、『属性詞・火』、『形状詞・球』『行動詞・飛べ』で、火の球を見えている目標に飛ばす魔法らしい。


「じゃあ成功したところで街に向かって」

「まだ飛んでない!もうちょっと!もうちょっと!」

「……はぁ」


 あからさまなため息を無視してもう一回唱える準備をする。

 手の平を上に向けて右手を伸ばした。


「『火の球』!」


 手の平の上に熱が集まり、火が生まれ、球の形になる。

 至近距離なのに、温かいくらいで熱くない。


「『飛べ』!」


 手の平の上の火の球が、ゆっくりと上に上がり、上がりながら小さくなり、少し見上げたくらいの場所で消えた。


「……消えた」


 少年を見ると、かかとを地面に着けたまましゃがんでいる。

 あ、ヤンキー座り。

 とか思うと見上げてにらまれた。

 何だっけ。メンチ切られるとか言うんだっけ。


「早く行かないと街に着くの夜になる」

「歩きながら練習って……最初は集中してやった方が良いんだよね。はい。進みます」


 話の途中で更に目つきが悪くなった少年に、逆らうのは無理です。


「たった数回で使えたんだから、才能がない訳じゃないだろ。俺は二十回くらいかかったし」

「そうなんだ!」

「五才の時だけど」

「……そうなんだ」


 上げて落とすのはやめてほしいです。


「んじゃ行くぞ」

「はーい」


 立ち上がって歩き始めた少年の後ろに続く。

 根拠はないけどもうちょっとでなんか掴めそうな気がしたんだけどなー。


「……」


 ため息が聞こえたと思うと、少年が立ち止まって腰につけた鞄、ポーチ?、を開けて何か探している。

 小さい鞄なのに時間かかるなーと思ってると、手を突っ込んだ。


「!」


 肘まで鞄の中に消えてるけど、どう考えても体積にあってない。


「これ、『収納鞄』。さっき話したやつだよ」


 おそらくは目を大きく見開いてアホ面を見せていただろう俺に、冷静に話しかける少年。

 思い出さなかった自分にちょっと自己嫌悪していると、少年が透明な石を三つ手に乗せて差し出してきた。


「ほら、これ」

「え?」

「ほら」

「あ、うん。……なに?これ」


 受け取ったのは一見すると大きめのビー玉。

 透明な真球……ではないと思うけど、かなりまん丸の球。が、三つ。

 感触はガラスともゴムとも違う、硬いような柔らかいような、冷たくはないけど温かくもない、不思議な玉。


「こんな感じでまわす」


 そう言って少し濁った同じような球を三つ持った少年が、器用に手の平の中で球を回す。


「う、うん」


 見よう見まねで球をぐるぐると回す。


「なに?これ」

「魔石を精製してある程度の大きさに固めたもの」

「ふーん。……へ?魔石?」


 回すのが結構難しくて一瞬聞き流してしまうが、聞き慣れないけど読み慣れた言葉に反応した。


「魔石?もしかして魔物の中の石?あ、さっきの狼に手を突っ込んでたのって!」

「それも知らないのか……。どんな世界で暮らしてんだよ」


 もう呆れ疲れたように肩をすくめる少年


「あはは。知識としては知ってるけどね」


 ラノベからの知識です。

 なんて事は言わないけど。


「まぁ良いけど。で、それは魔物の種類とか強さで魔石の大きさとかが違うんだけど、それを錬金術師が精製して固めたのがそれ。『魔力石』」

「『魔力石』?」


 改めて手の中の石を見る。

 回すのをやめてしまうと少年の視線が怖くなったので、慌ててまた回し始める。


「魔法を使うには魔力を使う。まぁ火の球程度の魔法ならよっぽどの事がなければ魔力切れを起こすことはないと思うけど、もしもの時のためや、魔法使いが自分の容量を超えた魔法を使いたい時に魔力を貯めておくんだ」

「へー」

「で、『魔力石』に魔力を貯めるには、自分の身体から魔力のみを外に出す事が出来ないといけない。普通に生活しててもにじみ出てるけど、それは消えちゃう使えない魔力だから、意識して出すか、意識しなくても使える魔力を体外に出せるように練習しなくちゃいけない」

「練習……もしかして、コレが?」


 今度は回転を止めないで凝視した。

 少年が回転させている『魔力石』の向こうでニヤリと笑ったのが見えた。


「そ、練習の一つ。何故練習になるのかを知りたければ街で錬金術師にでも聞いてくれ」

「え?教えてくれないの?」

「じいちゃんに教え込まれたけど時間がかかるから面倒臭い」

「あっ……そう」

「とにかく、それを持ち続けると魔力の放出が、回し続けると魔力操作が上達して、解放されてる魔法言詞を使った魔法でも、充分使える魔法になる」


 少年が魔力石を回すのが早くなる。


「ってわけだ」


 すると回している魔力石がぼんやりと光り始めた。


「透明な石が透明じゃなくなれば、半分くらいたまった証拠。まずはそれを目指すんだな。で、こうなればほぼ充填完了」


 どや顔がムカツク。


「あん?」

「何でもないです」


 ヤンキー怖い。


「それなら移動しながらでも出来るから、それで満足しときな」

「あ、でも」

「『魔力石』は、錬金術師が錬金術の練習で作るようなもんだし、街売りの値段もさっき殺したアイウルフから取った魔石を売ればおつりがくるくらいだから気にする必要ない。ほら、とっとと歩く。早く街に着きたいだけで、おまえの為じゃないから気にするな」


 少年のツンデレとか……。誰得だよ……。

 運営にその趣味の人間が?


「なんか言ったか?」

「ありがとう!俺がんばるよ!」

「お、おお」


 若干引き気味になった少年と共に、再び街に向かって歩き始めた。



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