02-02-32 プレイヤーだから
サツカの目に映る二匹の黒鼠。勿論[空の目]を使って探し出したその二匹を細くした後、三人は場所を移動した。
「まだ大丈夫ですか?」
「まだ、気付かれてはいない。一匹が草を食べていて、一匹が周囲を警戒している……みたいだけど」
「それじゃあもう少し進みます」
「そう……だね。うん。大丈夫。進もう」
実は[空の目]は立ち止まっている状態でしか使用できないのが世間一般に知られている為、移動しながら使えているサツカが特殊である事をどう伝えるか考え、マサオの眉間にしわが寄った。
「どうかしましたか?」
「あー。いや、サツカ、戦闘の場において何が出来るのかを隠すのは難しいが、何の[技能]を使っているか、持っているかはちゃんと隠すようにな」
「え?ん?あ、はい」
「……ちゃんとしろよ」
「はい」
サツカは自分が特殊である事を知ったからといって高飛車になるような性格ではないと思ってはいるが、逆に思い悩むような気がした為この程度に抑えた忠告だった。多少本当に分かっているかが判別出来ない返事だったが、マサオは無理矢理自分の中で納得した。
言われたサツカは何度も言われたことのため何故改めて忠告されたのか一瞬考えたが、とりあえず今はやるべきことに目を向けた。
「シーシア、ストップ」
「はい」
サツカの目に映る、黒鼠を中心とした水色の円。説明があったわけではないが、その円が黒鼠の警戒域だろうと考え、その数倍の位置で数歩先を行くシーシアに指示を出した。
実はサツカの技能[視野]は、[空の目]と[射手の目]の能力値上昇による能力値の上昇していた。それによって移動中の[空の目]の使用と、技能数値的にはまだ及ばないがその機能的にはマサオの持つ[視野]と同等の力を使えるようになっている。
「え?」
サツカの目の前に浮かぶメッセージウインドウ。
『個体名〈シーシア〉を指揮しますか?』
『はい』『いいえ』
矢で狙うのに充分な距離まで近寄っている状態で起きた新しい要素に思わず動きを止めるサツカ。目の前にいるシーシアを見ると、真剣な顔で、けれど期待に満ちた瞳でこちらを見ている。
シーシアの位置からも豆粒状態だが黒鼠が見えている訳だからそちらをちゃんと見ていろと思わなくもないが、今はそれよりも自分の前にでているウインドウの方が問題だった。
「[指揮]は、組んでいる仲間を『指揮』する技能だ」
いつの間にかすぐそばまでよってきたマサオが囁く。
「!ま、マサオさん」
その小さな声に驚いて身体を震わせたサツカ。
「何のために周囲を見ているんだ。ちゃんと見ていろ」
「はい」
大きな声は出さなかったが、その身体の震えから驚いていたのは分かっていたらしく、言外で「何のための[空の目]だ。ちゃんと意識していろ」と言われ、大人しく返事をする。
マサオはこちらに来ようか迷っているように見えるシーシアを手振りと目でそこから動かないように指示を出しながら、サツカに対して口を開いた。
「世間話だ。技能の[指揮]は、組んでいる仲間を『指揮』する技能だ。ここでいう『指揮』の中の力に、指揮者が指示した内容を遂行するために能力の上昇をする作用がある」
「……はい」
「遠くにいる相手に自分の声を届けることも出来る。これは最初は一方通行だがな」
「!最初は……?」
「技能は、鍛えれば強化や出来ることが増える」
「!はい」
「あと、この『指揮』は、一方的にする指揮と、相手の了承を得てからする指揮がある。一方的にする方が能力の上昇は低いし、声を届けることも出来ない。出来るのは少しの能力上昇と位置の把握程度になる。あと、自分よりも高位の者を一方的に指揮することは出来ない」
「高位の者?ですか?」
「ああ。簡単に言えば、俺や親父、ギルドの教官なんかを一方的に『指揮』する事は出来ない。例えお前が立場的に上位だとしても」
「いや、俺の方が立場的に上位になることなんか」
「無い訳じゃない。戦闘能力と作戦立案能力は別だからな」
「!」
「『指揮』は存在が隠されている技能ではないが、そうそう出現する技能でもない。話すときには気をつけるんだな」
「シーシアには、どうすればいいと思いますか?」
「自分で考えろ」
「……そう言うとは思いましたけど」
「なら聞くな」
「もしかしたらの奇跡にかけてみました」
「負けたな」
「……はい」
サツカが噛み締めながら返事をする前に後方に移動しているマサオ。
今回はちゃんと意識していたため驚かなかったが、せめて返事はちゃんと聞いてほしかったと思うサツカだった。
「話すか、話さないか」
こちら心配しているように見ているシーシア。
正直なところ、すでに彼の中で話すことに戸惑いはない。自分をあれだけ信じてくれた彼女にならば、別に技能の一つや二つバレても良いとは思っている。だが、話すことによって何かデメリットが、彼女にとって負担にならないかどうかを考えていた。
「……ま、いいか」
が、答えはすぐ出たためシーシアを手招きした。
「どうしました?」
「俺の技能で、シーシアの基礎能力をアップさせることが出来るらしい」
「え?え?え?でも!え!?」
「技能の名前は内緒だけど、そういうことが出来るんだ」
「あ、は、はい」
かなり慌てたシーシアであったが、名前を知らなければ、自分が姿を消す能力を知られているのと同等なのかと思い、なんとか自分の中で納得してサツカの話に耳を傾けた。
「ただ、それにはシーシアの同意が必要なんだ。良いかな?初めて使うから、ちょっとどうなるか説明は出来ないんだけど」
「私だけなんですか?サツカさんは?」
「自分に使うことは出来ないみたいなんだ。技能のレベルが上がれば分からないけど」
「あ、横の数値」
「うん」
「私だけ……ですか……。その方が、サツカさんが安心って事ですよね?」
「んー。それもある。でも、正直どんな技能か使ってみたいってのもあるかな」
「!サツカさんもそんな風に思うんですね」
「そりゃ、俺だってこのゲームのプレイヤーなわけだから」
「あ、そうか。これ、ゲームなんですよね」
「そうそう。ゲームなんだよ」
顔を見合わせて笑みをこぼす二人。
「じゃあ、お願いします」
「ありがとう。じゃあ、やってみるね」
サツカが視界の隅に移動させておいたメッセージウインドウを正面に戻し、『はい』をタップした。
『個体名〈シーシア〉に、指揮する事を伝えますか?』
『はい』『いいえ』
更に現れたウインドウを見て、再度『はい』をタップする。
「え!?」
サツカの前には『確認中……』と書かれたウインドウが現れた。
「サツカさん。メッセージが来ました。書状とかじゃなくて、直接ウインドウが開いて『個体名〈サツカ〉より指揮下に入らないか要望が来ております。指揮下に入りますか?』っメッセージが出て、はいといいえが出ました」
「じゃあ、『はい』を押してもらえるかな」
「はい」
シーシアが何の迷いもなくタップした瞬間、サツカの目の前に新たなウインドウが開いた。




