02-02-30 心からの言葉
「えー!」
文句の声を上げたのはトクタだけだったが、カイタとラヴィも同じことを考えていた。それぞれに友人達に相談する気満々だったのだから、当然といえば当然なのだが。
しかしそんな事をマジリオは知らないため、とりあえずトクタに指を突きつけた。
「自分で考える!っていうか、そうじゃないと威力が弱くなるから、ちゃんと自分で考えること!」
「はーい」
ふてくされたようにトクタが答える。返事をしつつ友達である二人の顔を見るが、二人とも笑顔で手を振っていた。
「はいはい!三人とも離れて離れて!座っても良いから気分を落ち着かせて、魔力を身体に満たす!」
「はい」
「はい」
「はーい」
マジリオを真ん中に、上から見ると正三角形の頂点にそれぞれ立つ三人。そして三人とも地面に座った。
座り方はまちまちだが、三人とも自分にとってリラックスできる座り方をしていた。
「よしよし」
三人の身体に満ちる魔力を見ながらマジリオは満足げに頷く。
けれどすぐに飽きたようにうろうろと歩き始めた。
「自分のこころにーしょうじきにー」
時にくるくると回り、
「魔力を身体にめぐらせてー」
時にスキップをし、
「身体能力を強化した自分を想像しつつー」
目を閉じている三人の顔を覗き込んだりしながら、
「心の肥に、みをまかせー」
周囲をうろつくマジリオ。
三人は最初その気配に苛ついていたが、徐々に静寂の中に身も心も置くようになり、身体を満たす魔力に心をゆだね始めた。
「光よりも早く」
三人に、マジリオの声が届く。
「鋼よりも堅く」
魔力の中に生まれる暖かな光。
「鬼神のごとき力強さと」
それがゆっくりと彼らを満たす。
「舞姫のようなしなやかさ」
外からの言葉に誘われたおもいが、溢れ出す。
「思い描いた自分に導く為の言の葉を、紡げ」
そして三人の口から、言葉が溢れた。
「我が身体に魔力よこもれ」
三人が口にした同じ言葉を聞き、満足げに頷くマジリオ。
「どういう、こと?」
自分の身体を動かすことに躊躇している三人。しかしラヴィが、それでも自分達が同じ言葉を放ったことに驚き、口を開いた。
「実はね、身体能力を上げる魔法はまだ未成熟な魔法なんだ」
「未成……熟?」
「火の球や水の球みたいに、目に見えて分かりやすくない魔法だから」
「でも……」
次いでカイタが口を開く。
「そ、魔法として存在はする。そして、魔法言詞も、まだ決まっていない。だから、自分で決めることが出来る」
「でも、俺達……」
そしてトクタも口を開いた。
「今君たちがやったのは、かなり突貫ではあるけれど、正式なやり方の一つだ。そして、何故だかこのやり方で魔法を覚える者は、似たような言葉を使うようになる。その中でも、今君たちが口にした言葉は、一番能力向上を見込める言葉だよ。自分達を、誉めて良いくらいに」
マジリオは優しい笑顔を見せて、三人の顔を順番に覗き込む。
「君達は身体能力を向上させる魔法を手にする事が出来た。もちろん、自分でも分かってると思うけど、実際に使えるようになるのは、今君たちの身体を駆け巡っている魔力を制御してからだけどね。これからそれを練習するわけだけど。まずは、言っておこうかな」
再び中央に立つマジリオ。そして自分を見る三人の視線を受け止め、ゆっくりと回転して三人を見回しながら口にした。
「カイタ、ラヴィ、トクタ。おめでとう」
それは優しく、今までに内容な安らぎを与えるような声であり、マジリオも柔らかく微笑んでいた。
けれど三人は、何故か身震いをした。
「悪い、もう一度、言ってくれるか?」
「サツカさんと戦わせてください」
真剣な顔でマサオに話すシーシア。
マサオは思っていなかった展開に心の中で顔をひきつらせつつ、表面は平静を装ってシーシアに聞く。
「まずは、何故そういう結論にいたったのかを教えてもらえるか」
「あ、はい」
短剣を両手で持ち、胸の前で抱くようにしながらシーシアが話し出した。
「私の戦闘は、ちょっと特殊だと思ったんです」
「新人では、少ないだろうな」
「ですよね。それで、思ったのは、凄く早く動けるわけでもない、姿を隠すくらいしかできない私って、あの、その、暗殺者系、なのかなって……思いまして」
何故か少し恥ずかしそうに話すシーシア。
マサオはそんなことよりも驚きで口が少しあいている。
「え?あ?お?そ、それで、つまり、感覚をつかむ為に、サツカと、戦いたいと?」
「はい!そうです!」
「いや、シーシアちょっと待て!」
「でも、それしか思い付かなかったんです!」
「いやいやシーシア。ちょっとまて、ちょっとまて。よく考えろ」
「考えました!」
「いやいやもっと考えろ」
「確かに私達は未熟ですが、でも、サツカさんなら大丈夫だと思うんです!」
表情を引き締めて断言したシーシア。
「いや、そのでもとかサツカなら大丈夫とかの意味が分からない」
なんとか冷静に会話しようとしているマサオだが、所々感情が漏れ始めている。
「サツカさん、確かに当てていませんけど、わざとはずしているだけですよね」
「おそらくな」
「ですから、ねらいは正確だと思うんです!」
「え?なに?自分が当たるつもりか?!」
「当たりませんよ!だから、サツカさんなら大丈夫です!」
「じゃあそれをかいくぐって、近寄るつもりか?」
「何発も矢はいらないと思います。一本、多くても二本、それまでに私が近付けば、狩ることが出きると思うんです」
「狩るとか言うな!」
「あ、すみません。駆除ですね」
「なお悪い!」
「え?だってさっき、マサオさんも駆除って」
「黒鼠はそうだ!」
「はい!だから黒鼠です!」
「……ん」
「黒鼠を狩るために、サツカさんと戦わせて下さい。サツカさんが矢で注意を引きつけて、私がそのすきに忍びよれば、いけると思うんです!」
シーシアが必死にマサオに話す中、マサオはじっとシーシアを見つめていた。
「マサオさん?ダメ、ですか?」
「えっと、それは、黒鼠を駆除するために、サツカと共闘したいっていってるのか」
「はい」
「シーシア」
「はい」
「おまえ、まわりから言葉が足りないって言われなるだろ」
「え?なんで知ってるんですか?」
頭を抱えてしゃがみこんだマサオ。
「え?どうしたんですか!?」
そんなマサオの行動にどうすればいいのか分からないシーシアが、慌てたようにサツカを呼びに行こうとした。
「さ、サツカさんを」
「呼びに行かなくて良い!」
マサオが感情のままに叫んだ。




