02-02-29 そんな魔法
向かって左からトクタ、カイタ、ラヴィと地面に寝そべる三人。
「まずは、自分の中の魔力を感じるところからやってみよー」
マジリオが三人の周りをうろうろしながら話す。
「[魔力操作]を意識して、心臓の鼓動の奥にある魔力の鼓動、血と共に流れる魔力、身体に満ちる心の力を感じよー」
つまらなくなってきたのか、くるくると回ったりスキップを始める。
「心のざわつき、肌が毛羽立つ感覚、手足が温かくなったり、身体が浮いているような気分」
目を閉じている三人の顔をのぞき込み、その前で変顔をするがもちろん反応はない。
「そんな感じが出てきたら、それがそうかもー。ちがうかもー」
三人が心の中でイラッとした瞬間、三人それぞれに感覚が芽生えた。
「意識して右手と目に魔力を集めて、そしたら目を開いて自分の手や互いの手とか目を見てみてー」
カイタがゆっくりと目を開き、自分の手を顔の前に手を掲げる。
「カイタが出来るのは分かってたけど、二人も出来たのはちょっと驚きかな」
マジリオはカイタだけに聞こえるように囁く。
「何故、俺が出来るって?」
「まだ魔力操作が未熟だから、使えるってことが外からも分かるんだよね。あと、グーム君から連絡貰ってたから。あ、でも、君がうちの店にきたのはギルドが勝手にやったことだからね?」
「……マジリオさんは、ラギロダさんの弟子なんですか?」
上半身を起き上がらせながらカイタが聞く。二人は魔力操作に難航しているのか、そんなカイタの動きには反応しない。
「んー。弟子とはちょっと違うかな。色々教えてもらったけどね。今の君と同じって感じ?カイタも教えてもらったけど弟子ではないでしょ?」
「まあ、そうですね」
光る自分の手を見ながら話すカイタ。ゆっくりとその光を移動させる。
「そうそう。カイタは武器に纏わせることも出来るんだよね?」
「はい」
「それはまだ後でね」
「了解です」
「宜しく」
カイタから離れ、ラヴィの顔をのぞき込むマジリオ。
「ラヴィ。目の方はそれくらいで良いから、もう少し手の方に意識を。右じゃなくて左手でも良いよ」
「……はい」
ラヴィは小さく返事をし、まずは両手に意識を向ける。
「トクタは逆に、もうちょっと目に意識を。まずは顔とか頭全体でもいーよ」
トクタは寝たまま少し頷く。
と、同時にマジリオとカイタの目には、トクタの顔がぼんやりと光り出すのが分かった。
「んー。やっぱり物覚えが早いよね。君らが特殊なのか、『あらひと』がそうなのか」
マジリオのつまらなそうな呟きに、なんとなく三人は心の中で苦笑した。
「こんなに早く出来るのは予想外だけど、出来ちゃったので次に進みまーす」
少しつまらなそうに話すマジリオに、三者三様の視線を向けるカイタ達三人。
「魔力操作によって、魔力を感知することが出来るようになったので、魔力を使って身体機能を上げるわけでーす」
「魔力操作が必要な理由が分からないですけど」
「魔力の感知が出来ないと、一度外に出した魔力をもう一回身体に取り込む魔法になっちゃうから、無駄が多いのでーす」
「で、魔力を感知できるようになるには、[魔力操作]が必要だと」
「せいかーい」
両手を上げるマジリオ。
見た目少年のためはた目からは微笑ましいが、中身が親父だと知っている三人は、やっぱりなんとなくイラついた。
「で、どうすれば?」
「足が速くなるにはどうしたらよいと思う?はい!ラヴィ!」
「また私!?えっと……足に魔力を込める?」
「ちょっと正解だけどぶー。間違いでーす」
「本当にムカつく」
睨みつつ唇を噛んだラヴィに対して笑顔で返し、今度はカイタを見た。
「では次カイタ!」
「おー。足を早くしたくても、足だけを鍛えるんじゃなくて身体のバランスとかが大事だから、まずは身体全体の強化?」
「!おお!」
本当に驚いたように声を出し、カイタの腹に軽く拳を入れるマジリオ。
「正解!」
「おう!何故!」
拳を入れられたカイタは実は全く痛くはないが、なんとなく身体を曲げて痛い振りをする。
それを見た二人も演技であるのは分かっているため呆れた顔をするだけで反応はしない。
「身体全体に意識した魔力で満たして、身体機能を強化する。で、時に応じて足だけとか、腕だけとか、部分的に更に強化したりする」
三人の顔を見回しながら話すマジリオ。最後にラヴィを見て、にっこりと微笑んだ。
「やっぱりムカつく」
「と、言うことで、次は身体全体を光らせてみよう!」
マジリオはラヴィの呟きを無視して、三人を見ながら片手をあげて元気よく指示を出す。
「はい!」
「はい」
「……はい」
そしてトクタ、カイタ、ラヴィと返事をした。
「もう出来てるしー」
頬を膨らませてつまらなそうに呟くマジリオ。
「だからなんで苦労した方が喜ぶ」
「その方がおもしろいから!」
三人は心の中で絶対一度殴ると誓った。
「さて、ここまでくれば、後は身体能力があがることを想像しながら呪文をきめるだけだね」
一度ため息をついて気分を整えた後、マジリオは普段の笑みを浮かべて話を進めた。
そのため息についても三人はイラッとしたが、外に出さない程度には三人とも大人だった。
「因みに、身体能力をあげるとこんな事が出来るようになるかもしれません」
その瞬間、マジリオは足首だけの跳躍で十メートルほど飛び上がった。
「!」
「お!?」
「え?!」
三人が見上げた上空でマジリオは手を振り、そのまま落ちてくる。
「!」
「!」
「!」
「ちゃくちー」
マジリオは足首と膝を使って着地し、一回転してポーズを決めた。
「こんな事や、さっきみたいに素早く動いたり、重いものを持てるようになりまーす!ただ!」
人差し指を立て、三人に向かって突き出す。
「必ず全員が同じ力を持てる訳じゃありません!さっきの火の球の
大きさみたいに、想像力と、資質によって得られる基本の能力は変わります!」
「!」
「!」
「!」
「魔法を発動させる鍵となる言葉、『個人的魔法言詞』は、自分自身と語らって言葉を決めるように!」




