02-02-28 どんな魔法?
「つーかーれーたー!」
大の字になって寝転がるトクタ。剣は持ったままで、地面に突き刺したり転がしてしまったりというようなことはなかった。
「大丈夫?」
駆け寄ってきたカイタとラヴィが息を荒くしているその顔を上からのぞき込む。
「つかれたー」
「それで、取得出来たの?」
「まだ見てないー」
「さっさと見なさい!」
「だー!」
十分間程度だが、先ほどとは違い一人で、しかも総数も三人で受けたときより多く飛んできた小石を避け、弾いたトクタ。その疲労は計り知れない。しかしそれでも言われたとおりにステータスウインドウを開く。
「あー。白に変わってる」
そして目の前にある画面に燦然と輝く[魔力操作]をみて、ほっとした声で答えた。
「え?付いちゃった?」
「何でつまらなそうなんだよ!」
そばによって話しかけてきたマジリオに対し、思わず素で突っ込んでしまうが、本人は全く気付かずカイタとラヴィが苦笑いを浮かべた。
「えー。だってこれで特訓終わっちゃうし。もうちょっと手加減するべきだったかー。つまんない」
「ふざけるなー」
「ふざけてなんかないよー。ま、でもこれで次に進めるからいっか」
あっけらかんと笑ってトクタに笑いかけた後、カイタとラヴィにも笑顔を見せた。
「じゃあ次に進むよー。はい、立った立った!」
踊るような軽い足取りで三人から離れるマジリオ。
トクタはカイタに手を借りて立ち上がった。
「魔法はね、魔法言詞に込められた意味をちゃんと理解し、それによって起きる現象を正確に想像出来ていなければ、世界に対して創造し、現象とする事は出来ない」
マジリオが三人の顔を見回しながら話す。
「公開されている魔法言詞は、その中でも分かりやすい、世界に対して現象を起こしやすい魔法を使うための言葉なんだよ。魔法師や世界に生きる者が、この世で使い続けて、分かり易くした魔法なんだ」
「分かり易くした?」
「うん。例えば、『火の』『球よ』『生まれろ』」
右手人差し指を立てて唱えると、小さな火の球が指先に浮かぶ。
「想像しやすいのはもちろんだけど、これは今までの魔法師が何年も使い続けて、この世に慣れさせて、魔法師と呼ばれるほど魔法に精通していなくても使えるようになった魔法なんだ。そして」
左手も前に出し、手のひらを上に向ける。
「『火の』『球よ』『生まれろ』」
手のひらの上にサッカーボール大の火の球が生まれる。
「想像さえしっかりしていれば、同じ魔法言詞を使って大きさの違うものを生み出すことも出来る。『消えろ』」
二つの火の球が消え、三人の驚いた顔が残った。
「どんなに魔法言詞を覚えても、その言詞に適合した現象を想像できなければ、この世に現象として創造する事は出来ない。分かった?」
「はい」
「はい」
「はい」
「よろしい」
三人の返事に満面の笑みで答えるマジリオ。
「さて、話を黒鼠の苦情に戻すけど、素早い黒鼠を駆除するには出来なきゃいけないことがある。それを、覚えてもらう」
「はい」
「はい」
「はい」
三人の表情から驚きと困惑が消え、新しいことを覚える期待の喜びが漏れた。
「ま、話の流れと覚えた技能から分かってると思うけど、魔法を、魔法言詞を使えるようになってもらうわけだけど……ラヴィちゃん」
「はい」
「すばしっこい黒鼠が、土から出てきたのを見付けました。普通に向かったら逃げられます。さて、どうする?」
「え?火の玉をぶつける!?」
「魔法で倒す。あとは弓とかの遠距離攻撃だね。確かに一つの手だけど、せっかくだから持ってる武器で駆除したいかな。カイタはどうする?」
「おー。じゃあ、姿を消して近寄ってとか?」
「姿を消す魔法かー。魔法だとかなり高位の魔法師でないと無理かな。技能でも似たようなのはあるけど、あれは素質がないと無理だしねー。次、トクタ」
「地中に逃げる前に近寄る!黒鼠より素早く動く!」
「おー……」
「トクタ……」
こぶしを突き出してニヤッと笑うトクタ。それを見た横の二人があきれたような個上を漏らす中、マジリオはトクタの顔を指差した。
「正確!」
「え?」
「おお?」
「ほれみろ!」
得意気に胸をはって横の二人に身体を向けるトクタ。
「もちろん早く動くだけじゃなくて色々やってもらうことはあるけど、その大元は早く動くことだからね」
「つまり、早く動けるようになる魔法を覚えるって事ですか?」
「うん。そういうこと。『我が身体に魔力よ満ちろ』」
三人の目の前から消えるマジリオ。
驚く三人。
カイタの肩が軽く叩かれた。
「こういうことだよ」
「お!」
「え?」
「を!」
「こんな事が出来るようになる」
振り向いたカイタの驚きの声につられて振り返った二人も声を上げる。
そしてニコニコと笑いかけるマジリオから一歩離れた。
「あ、なんか傷付くー」
「びっくりして引いただけです」
「そっか!ならいーや!」
眉をひそめたマジリオだったが、ラヴィの言い訳で笑顔に戻った。
「じゃ、練習始めよっか!」
「はい!」
「とは言っても、実はこの魔法には決まった魔法言詞は無いんだよね」
舌を出して小首を傾げるマジリオ。
中身おじさん見た目かろうじて美少年のてへぺろにげんなりする三人。
「どういうことですか?」
「魔法言詞は、魔法をこの世に現象として存在させる為の鍵となる創造の言葉なんだよ」
マジリオが言葉を止め、三人の顔を見る。
「はぁ……えっと……」
不思議顔で思考を停止させている幼なじみ二人の顔を横で見て、ため息をはきつつ口を開くラヴィ。
「魔法言詞は、外に向かって魔法を使うときに必要なもので、自分にかける魔法に関しては、魔法言詞は必要ないってことですか?」
「もうちょっと!半分正解!」
「はんぶんー?」
期待を込めて自分の顔を見る二人の男の顔を睨みつつ、更に彼女は考える。
「前提として、魔法を使うには魔法言詞が必要。この世に魔法を現象として創造するには、想像とそれに対応した魔法言詞が必要」
ラヴィの呟きにマジリオが驚きつつ笑みを漏らす。
「でも、早く動くには魔法言詞は必要ない、じゃなくて、決まった魔法言詞は、必要ない。魔法言詞は外に向かうときは、決まった言詞を唱えなければならない……」
うつむき加減に呟き続けていたラヴィの動きが止まり、そっと目の前のマジリオに視線を向ける。
「自身の体の中で、この世に現象として創造する必要のない、自身の身体の中だけで完結する魔法は、自分でやりやすい言葉を決めて、魔法として使うことが出来る。と、いうことですか?」
ラヴィの視線を真っ正面から受け止めたマジリオは、一瞬大きく目を見開いて驚きを見せた後、目を細めた笑顔を見せる。
「うん!正解だよ!ラヴィ」




