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02-02-26 名前

「カイタが盾持ち片手剣。君が片手剣のみで、そっちが片手剣かっこはじめ細剣かっことじるだねー」


 マジリオに連れられてサツカ達と離れたカイタ、トクタ、ラヴィ。

 横に並ばされた三人を、マジリオがじろじろと見て武器の確認をしていた。


「その呼び方なんとかなりませんか?」

「ん?」

「片手剣、かっこはじめ細剣かっことじる。ってやつです」

「あー。確かに面倒くさいよねー」

「細剣じゃだめなんですか?」


 そして自分の使う武器の名称についてラヴィが聞く。


「基本的に細剣っていうのは刺突剣か、刺す攻撃を前提として作った剣を言うんだよね。君の使っている片手剣かっこはじめ細剣かっことじるは、刺突にも使えるけど基本的には片手剣を軽く持ちやすくして、威力は落ちる分切ることに着目した剣だから、細剣とはちょっとちがうんだよなー。細剣は切ると言うより裂くに近いし。片手剣かっこはじめ細剣かっことじる自体、女性の冒険者向けに作られた歴史の浅い片手剣で、まだあんまり流通もしてないんだよね」


 腕を組み、唇を突きだして唸るマジリオ。


「今まで細い片手剣って無かったんですか?」

「無いよ。意味がないからね」


 にっこりと笑うマジリオ。


「意味が無い?」

「うん。だって片手剣の良さって、盾を使いつつ剣を使えるってことだからね。僕や君みたいに盾を持たないで片手剣だけ持ってるのが異質なんだよ?つまり、しっかりとした盾を持てる人が使う威力のある、片手で使える剣なんだよね」

「あー。それで、街の人は変な顔してたのか」


 自分の姿を見直しながら呟くトクタ。


「するだろうねー。片手剣だけで戦うのなんて、僕くらいの体格の人だけだし、君は普通に盾を持っていてもおかしくない体格だからね。あ、それでもまれだよ?だいたいマサオみたいに短剣か片手槍とか選ぶから」

「普通の細剣は?」


 鞘から引き抜かれているラヴィの武器をみつつカイタが聞いた。


「速度重視、威力よりも回数重視、の戦い方か、よほど相手の急所を突く正確性に自信のある人かなー。ま、細剣にも切ることを両立させている剣もあるけど片刃がほとんどだから、両刃の片手剣を細くしたそれとは違うんだよねー。僕みたいな体格で片手剣を使うのは、重さを使って威力を強くしたいってのがあるから、細くしたり軽くしたりするのは違うんだよね」

「それでは、片手細剣とかどうです?」

「あー。そうだね。それなら言いやすいかな。うん!それでいこう」


 笑顔で手を叩くマジリオ。


「簡単だなー」

「うん。だって、別に名前なんて区別できれば何でも良いからね。冒険者にとって武器は獣や魔物を殺す道具なんだから」


 笑顔で言い放ったマジリオに、三人は少しだけ顔をひきつらせた。


「でも、武器を大事にするのは良いことだよ?固執するやつにろくなやつはいないけど、自分の命を守る物であるのは事実だからね。今持ってる武器は初心者用のものでこれから買い換えたり作ったりすると思うけど、自分にあった武器は大事にした方が良い」

「マジリオさんの武器も思い入れがあるんですか?」

「これ?これはさっきギルドで買った安価品」

「え?」


 ラヴィの問いかけにあっけらかんと答えつつ剣を振り回す。


「黒鼠程度ならこんなもんで充分だよ。僕の『ジルフギア』を黒鼠なんかで汚したくなからねー」


 片手剣をジャグリングよろしく振り回し、投げるマジリオ。


「それでもジルフと同じくらいの重さと長さのを選んだけど、やっぱり違うんだよね。当然だけどさ」


 つまらなそうに片手剣を放り投げ、掴み、振り回す。「武器に固執するやつにろくなやつはいない」は自分のことじゃないのかと、三人は思っていた。


「ところでさ?」

「はい?」

「なんか言葉遣いが丁寧になってない?」


 ラヴィを見ながらつまらなそうに言う。


「教えてもらうわけですから、それに対しての礼儀ははらいますよ」

「えー」

「それに」

「何、何?」

「私は自分を名前で呼ばない相手と親しみを込めて会話できるほど出来た人間ではないので」


 睨みつけるようにマジリオをじっと見たラヴィ。

 その視線を真っ向から受け止めてマジリオが嗤う。


「そういうの、嫌いじゃないけど」

「どうせ、認めてないやつは名前で呼ばないとか言うんでしょ」

「そんなこと言わないよー」

「別に気に入られたいとは思わないけど、名前を呼ばれないのはムカつくので」

「ふーん」


 ラヴィが手に持った抜き身の片手細剣を持ち上げる。


「絶対に名前を呼ばせてやる」

「肩に力が入ってると、まともに戦えないよ?ラヴィちゃん」

「は?」

「お?」

「へ?」


 困ったように片手剣を弄ぶマジリオ。

 自分の名前をふつうに呼ばれ思わず変な声を出したラヴィ。二人の会話を聞いていたカイタとトクタモ思わず声を漏らした。


「別に気に入るとか気に入らないとかじゃないよ?ただね」


 マジリオが恥ずかしそうに三人を見る。だがその雰囲気を簡単に信じるほど三人はバカではなく、続く言葉を警戒して、それでも聞き漏らすまいと一見少年のマジリオをじっと見た。


「忘れちゃうんだよね。だから、このあと会った時に忘れてても怒らないでね」


 そう言って三人に笑いかける。


「だってさ、長いこと生きてるといろんな人に出会うんだよ。でもさ、取るに立らない人を覚えてても仕方ないからさ、そういう相手は忘れちゃうんだよね」


 ラヴィの目がつり上がり、トクタも表情を引き締めた。


「もちろん一度覚えても忘れちゃう人もいるけど」


 カイタをちらりと見てから、三人に視線を向けた。


「名前を呼ぶと覚えたと思われちゃうから、呼ばないようにしてるんだよね」


 そしてニンマリという言葉が似合うような笑顔をした。


「君達のことは、覚えられるかな?」







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