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02-02-23 初めての狩り

20181222 タイトル修正 02-02-22 → 02-02-23

「だねー」


 短剣を手にしたマサオの横に並ぶマジリオ。


「マサオ、どっちにする?」

「……俺の教育はいらないぞ?」

「久し振りの親子共闘なのにー」

「……左」

「よろしい」


 最後にマジリオが低い声でほめると同時に、二人の姿がかき消えた。


「お?」

「え?」

「あそこです!」

「あそこ!」


 カイタとトクタが消えた二人に驚くとほぼ同時にシーシアが指差し、数瞬遅れてサツカが指差す。


「っ!」


 シーシアとサツカの指さす先でマジリオが片手剣で土から這い出た黒鼠の首を切り裂く。


「!」


 赤紫色の血が舞い、首と胴体が別々にゴロリと落ちる。


「ぐっ」


 ラヴィがくぐもった声を出しながら自分の口を押さえた。

 その横でマサオは、同じように土から這い出てきた黒鼠の脳天に短剣を突き刺していた。




「これが黒鼠だ」


 マサオに呼ばれ、恐る恐る近付く五人。

 そしてマサオが短剣に突き刺したままの地面に転がした黒鼠を観察する。

 短剣が刺さったままのためそれ程血は流れ出ていないが、子犬よりも大きな鼠を目にして全員何も話さないでいる。


「駆除の証明は、この角を持ち帰ることだ」


 マサオが探検を引き抜くと、赤紫の血で塗れた刃が現れる。

 再び口を押さえるラヴィ。他の四人も程度の差こそあれど眉をひそめ顔をしかめている。

 マサオはそれには触れずに話を続けた。


「駆除の証明はこの角で行うから、殺した後は基本自分で剥げ」


 説明しながら黒鼠の額に付いている小さな突起をつまみ、短剣の先で器用に剥ぎ取った。


「それは……?」

「これは『間石』」


 手のひらの上にのせ、五人に見えるように差し出した。

 顔を近付ける五人。


「ませき?魔石?」

「獣から魔獣になる間に作られる石、としての『間の石』、『間石』だ」

「間石……」

「間石」

「獣の体についていて、さっきは角って言ってましたけど、石なんですか?」

「額についているときは形状から角と呼んでいる。だが、剥ぎ取ると、角と言うよりも石に見えないか?」

「それは、まあ……」


 目の前の『間石』は某赤と黒の宇宙船チョコレートと同じくらいの大きさで、辛うじて透明と呼べる程度には透明だが、黒よりもグレーに近い色で少し濁っている。


「それ程価値はないが、駆除や討伐の証明として利用した後は、個別に買取もしてもらえる。物によっては錬金術などの素材にも使えるから、売らずに自分で使う者もいるな」

「素材……」

「お前達の持つ攻撃では砕くことも難しいほど硬いから、戦うときは狙いからはずした方が良い。主観としては切り離した後の方が硬く変化しているように思えるが、誤差範囲だな」


 間石を見ながら頷く五人。


「さて、それでは……親父」

「はーい!」


 六人の様子を少し離れた場所で見ていたマジリオがスキップするように近付く。


「まずはカイタ、トクタ、ラヴィを任せる。シーシアは俺が基本を教えるが、状況によってはそっちに行かせるから頼む」

「りょー」


 手を挙げて答えたマジリオ。そしていたずらをした後のような笑みを浮かべた。


「そっちは本当に大丈夫?」

「……大丈夫だ。……難しいときは、代わってくれ」

「りょうかーい」


 マサオが漏らした弱音に一瞬驚くマジリオだったが、すぐに笑顔で再び手を挙げた。

 それを見ていたサツカは、自分の指導に何かあるのかと不安な気持ちを少し覚え、他の四人もサツカを見た。




「さて、シーシア」


 シーシアとサツカを連れて四人から少し離れた場所にやってきたマサオ。

 周囲を観察し黒鼠の存在を感じてから立ち止まり、シーシアに呼びかけた。


「はい」


 緊張はしているようだが、もうマサオ相手に名を呼ばれた程度ではうろたえることもなくなったシーシアは直立不動で返事をした。


「緊張するな……と言っても無理だと思うが、体が固いと至急の動きに対応出来ないこともある。自然に自然体でいられないようなら、意識して自然体でいられるように意識しろ」

「……はい」


 噛みしめるように返事をした後、目に見えて肩の力を抜き雰囲気を和らげるシーシア。

 一歩離れた場所で二人を見ていたサツカはそれに驚くが、マサオは特に驚くこともなく話を続けた。


「それで良い。短剣は小回りが利き速度に乗りやすいが、攻撃には接近する必要があるし、威力も弱くなる傾向にある」

「はい」

「大きな敵や複数で当たる場合は手数で攻めるのも良いが、小さな敵や自身と同じ程度の相手ならば、一撃で倒すのが一番だ。それが無理なら動きを封じる、もしくは阻害させる攻撃をしなければ、次の一手につなげられない可能性もある。にげられるならまだ良い。獣が死に物狂いで攻撃してくると、力の差があろうとも万が一があることもある」


 ずっとシーシアを見ていたマサオが、サツカに視線を向ける。


「これはサツカ、お前にもいえることだ。特に矢で一撃で殺すのは、今のお前では難しいだろう。少しの傷では、敵がお前に襲いかかってくることも多々あるはずだ。遠距離の優位性をどれだけ確保して戦うかが重要になる。そのためには、相手の動きを封じる、阻害する攻撃が必要だ」

「はい」


 返事をしたサツカを見て頷いた後、シーシアに視線を戻す。


「遠距離攻撃ならば、向かってくるまでに多少の準備をする事も可能かもしれん。だが、近接戦闘では瞬間の判断が必要になる」

「……はい」

「黒鼠はお前達でも一撃で殺せる可能性の高い獣で、治癒力が高い分、少しの傷を受けたら逃げることが多い。攻撃力も弱いから万が一攻撃を受けても倒されることはないだろう」


 マサオの説明を聞く二人。

 緊張感は増しているが、体が固くなるほどではないようだ。


「と、ここまでが説明だ。まずはシーシア。実践だ」

「はい」

「あの小さい白い花が咲いている場所の右が、少し盛り上がり始めている。おそらくはあそこから出てくるはずだ。出てきたら、気付かれないように近付き、脳天に刺せ。さっき俺が見せたやり方だ」

「……はい」


 マサオの言葉を反芻しつつ、短剣を強く握る。しかしすぐに深呼吸をして体の力を抜いた。

 そして、黒鼠が地面から這い出た。


「いけ」

「はい」




 その数分後、シーシアの持つ短剣が、一匹の黒鼠の脳天を突き刺した。


 


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