02-02-21 ギルドのお仕事
聞くに耐えない言葉の数々に、思わずラヴィとトクタが武器を手にすると、いつの間にか移動していたマジリオがその手を上から押さえた。
「ダメだよ?君らがやったら問題が大きくなる可能性がある」
今までマジリオからは聞いたことのないような落ち着いた声。
五人の視線を独り占めにしたマジリオは、ここぞとばかりににっこりと笑った。
「それに、こう言うときのために冒険者ギルドは、『ギルド』になったんだと思うから任せておけば良いよ」
「え?」
「それはどういう」
「ほら、来たよ」
ラヴィの声を遮るように告げたマジリオの声で、五人が再び門を見ると、大通りを小走りにやってくるギルド職員が見えた。
「あ、アイ」
「アヤさん!」
「ク、が、いる……」
サツカの呟きに被せるようにトクタが喜びの声を上げた。
門前ではアイクやアヤを含めた七人のギルド職員が門番に詰め寄っている冒険者に話しかけていた。
「なあカイタ」
「お?」
「あそこの職員の中にトクタのタイプっている?」
「あそこに?」
そっとカイタを少し離れた場所に移動させて聞く。ラヴィが気付いてちらっとを見たが、サツカの台詞を聞くと呆れた顔をして門前に視線を戻した。
「三人ともタイプかな」
「は?」
七人のうち三人が女性だったため全員がタイプと言っているが、サツカから見るとどうみても三人は方向性が違う。共通しているのは三人ともきれいだったり可愛かったりすることだった。
「えっと、それはつまり」
「あ、でもちょっとつり目の彼女は苦手かも」
つり目?と思って改めて見た先で、サツカの中でつり目に該当するのはよく知るアイクだけだった。
「えっと、つまり?」
「たれ目気味の可愛いか美人で、スタイルが女性らしい人が、トクタのタイプ」
「アホだな」
「何を今更」
カイタが笑顔で言ったとほぼ同時に、説得をしていた男の職員に殴りかかろうとする一人のプレイヤー。
「!」
思わず五人とも武器を構えようとしたが、それよりも前にプレイヤーが消えた。そして一枚の紙がひらひらと舞い落ち、男の近くにいたアイクがその紙を拾う。
「え?消え?た?」
唖然としたシーシアが口にしたが、思ったことは他の四人も同じであり、すぐにマサオを見た。
「いや、今のは俺も知らない」
五人の視線がマジリオに移り、マサオも横を向いた。
「えー。どうしようかなー」
「知らないのか」
「知らないのね」
息子とあったばかりの新人冒険者に図星を突かれ、頬を膨らませつつ横を向く。
「別に僕ギルドの職員じゃないしー」
マジリオの呟きは、門番に外に出せと詰め寄っていた男達の怒鳴り声でかき消された。
「な、なんですか!」
「何事?」
仲間が突然消えたことに、恐らくはギルドの職員達が何かをしたと考えた男達が、武器を持って、それは決して構えてと言えるような姿ではなく、武器を振って職員達に向かう。
それを見たカイタとトクタ、そしてサツカとラヴィが駆け出した時、門前にいた冒険者は一人残らず消えた。
「……また?」
走るのをやめたラヴィの呟きが示すとおり、先ほどと同じくき消えた後には紙が舞い、それを職員が拾っている。
四人は走るのはやめたが動きは止めず、門番に向かって頭を下げている職員達に近寄った。
「アイ」
「アヤさん!」
「ク……」
サツカがアイクを呼ぶのとほぼ同時に、トクタがアヤの名を呼んだ。
「あら、トクタさん」
「サツカさん?え、マジリオ・アザルベル様!マサオ様!」
振り返ったアヤがトクタの名を呼んで手を振る。共に振り返ったアイクはサツカに向かって微笑みながら会釈した後、その後方にいるマジリオとマサオに対して背筋を伸ばしてお辞儀をした。
四人が職員達と会話できる距離まで移動すると、その騒動を周囲で見ていた他の冒険者や住人も集まってきた。
「皆様、お騒がせ致しました」
アイクが集まってきた者を見回した後に、そう告げて頭を下げた。
紙を拾い終えた他の職員達も同じ様に住人や冒険者に向けて頭を下げる。
そして最初に頭を上げた男の職員が続けて説明を始める。
「こちらに住む方々に大きなご迷惑をかけ、更にこちらの指示に従わなかった『あらひと』は送還いたしました。今後も『あらひと』と問題が発生した場合は、ギルドへご一報頂けますよう、宜しくお願い申し上げます」
「『あらひと』の皆様、今回行われた冒険者に対する送還に関しましては、詳しい内容を改めて通達させていただきますので、お待ち下さい」
「ですが、今回のように規則の守れない方に関しましては強制送還はもちろん、ひどい場合には『はらへど』への来訪禁止処分等の処置を行わせていただきます」
「『あらひと』同士のいざこざならまだしも、『つしおみ』の皆様への問題行為に関しましてはギルドとして厳正に対応させていただきますので、宜しくお願い致します」
集まった者達がざわつく中、更に別の職員が続いて説明を始め、ざわめきは更に大きくなる。
「住人の皆様、今後ともより良い関係を築けるようギルドとして人力を尽くして参りますので、何卒よろしくお願い申しあげます」
職員達は住人に対して頭を下げと、住人は納得顔で離れていった。何人か職員に労いの声をかけている。
「なんか、凄いな」
集まっていた冒険者の一人がぼそりと漏らした言葉に、何人かが頷いた。




