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02-02-19 ギルド前での攻防

「……良いのか?」

「はい。問題ありません」

「サツカにそう言われる相手というのにも興味があるが……。もし既にギルドに提出するところまできていたら、ラヴィと同じくそれも追加になるが良いのか?」

「問題ありません」

「そ、そうか」


 かぶせ気味に返答したサツカに驚きつつ、とりあえず納得した様子のマサオ。


「ならば早く呼んだ方がよい。外に出る前に覚えてもらうこともあるからな」

「はい」

「それでだが、『あらひと』はある程度の時間で元の世界に戻らないと行けないと聞いているが、お前達はまだ時間は大丈夫なのか?」

「あっ」

「おっ」


 すっかり忘れていた様子のカイタとラヴィが、慌てて時間を確認した。






 城塞都市アルハイト冒険者ギルド前。

 現実世界で一時間ほど時間をおいて再び『はらへど』にやってきた、カイタ、ラヴィ、サツカ。そしてトクタがいた。


「なんかお前らだけ楽しそうなクエストやってたんだな」


 一人しっかりと防具まで装備しているトクタが言葉と声色は不満気味に、けれど笑顔で話している。


「自分だって満喫したみたいだな」

「へっへっへー」


 胸当て以外にも両手の前腕部と両足のすねには革で出来ている防具が巻かれ、頭にはスカーフを被っていた。


「海賊の下っ端みたい」

「うるせえよ!頭だけだろ!」

「直剣タイプの片手剣じゃなくて、海賊が持つみたいな曲剣にしたら?」

「ああ!パイレーツ……カト、カタ、なんだっけ?」

「しねーよ!」

「なんだつまんない」


 カイタとトクタは腰に片手直剣。ラヴィは鞘に入れた細剣を腰にぶら下げている。トクタ程ではないがカイタとラヴィも基礎防具の胸当ては付けており、冒険者らしい装いをしていた。


「サツカのは、なんか薄い?」

「防具でもあるけど、装備と言うか、弓を引くときに胸のボタンや袷の飾りとか金具が弦に引っかからないようにするための意味も有るからな」

「弓道女子は付けてたよなー」

「それなりに堅いけど、初期装備としては一番弱いかもな」

「弓使い、特にサツカみたいに大きい弓を使うプレイヤーは、基本遠距離だろうから、近接戦闘の事は考えてないのかも」

「そういえば、弓と魔法ってどちらが遠くまで飛ぶとか優位性の設定はどうなってるんだ?」

「遠距離魔法攻撃と遠距離物理攻撃の違いとか?」

「そこら辺は使い勝手で見ていくしかないかもな」

「それで、装備しないの?弓と矢」

「でかくて邪魔だから、とりあえず街中ではこれで良いかなと思ってさ」


 腰に付けた短剣を触るサツカ。これも鞘におさめられている。


「あれ?サツカって短剣もつかえるんだっけ?」

「つかえると言うほど習ってはないけど、弓術師のサブウエポンは短剣や短槍が多いみたいだから、それなら短剣の方かなと思って」

「短剣を習うとか何を言ってるんだかと思うけど、あんたの家じゃそういうものなのね」

「はは。マシロも似たようなもんだよ」

「そういば久美……、クーンもそんなようなことを言ってたわね」

「彼女の所はもっと凄いんじゃないかな?我が家の師は、全員彼女の親族のはずだし」

「……そうなの?」

「ああ。知ったのはつい最近だけと」

「今度詳しく聞いておく」

「あ、あの!」


 雑談していた四人にかけられる声。


「すみません!遅れました!」


 武器と防具をしっかりと装備したシーシアが、駆け足でやってくる。


「いや、まだ時間前だから気にしなくて良いよ」

「おはよう。シーシア」

「あ、おはよう、ございます?」


 はらへどでの時間はまもなく四十時。こちらでは赤朝から赤日に変わる頃で、挨拶的に「おはよう」は正しいのだが、現実世界では夜七時を回ったところであったためなんとなく違和感のある返答をしていた。


「なんか、おかしいわよね」

「はい。変な感じです」


 微笑むラヴィとシーシア。自然に笑いあう二人を見て、仲良くなったようで良かったとサツカが思っていると、そのわき腹をつつかれた。


「なに?」

「紹介、紹介」


 真横に移動してきていたのは目を輝かせたトクタ。思わずサツカの目が据わる。


「ああ、今するよ」

「早く、早く」

「……彼女、人見知りだから気を付けろよ」

「善処する」


 不安しか覚えない返答を聞きつつ、心の中で「宇佐木がいるから大丈夫かな」と思いながらシーシアを呼んだ。


「シーシア」

「はい」

「こいつが今日一緒に狩りに出る俺らの友達で」

「トクタです!宜しくお願いします!」


 トクタが直立不動のまま腰を九十度に曲げて右手を差し出す。


「武器は片手直剣です!」

「あ、は、はい!」


 勢いに流されてその右手を握るシーシア。


「し、シーシアです。武器は短剣です」

「同じ片手武器ですね!奇遇ですね!気が合いますね!」

「え?は、はあ」

「俺のことはトクタって呼んで下さい!同じ片手武器の仲間同士、仲良くして下さい!」

「こ、こちら、こそ」

「俺はシーシアさんと呼んで良いですか!」

「あ、はい、どうぞ」

「ありがとうございます!じゃあシーシアさん!お近付きの印にまずは向こうでお茶でもほぉ!」


 トクタのわき腹に突き刺さるラヴィの細剣。と言っても鞘に入れられたままであるため棒で突かれたと同じなのだが、しっかりと踏み込んで突かれたためかなりの衝撃だったようで、トクタはわき腹を押さえて石畳の地面に座り込んでしまった。


「てめぇ、なに、しやがる」

「あんたこそ何バカなことやってるのよ。これから訓練だってのに、そんな所行けるわけ無いでしょ」


 鞘におさめたままの細剣で自分の肩をたたきながら話すラヴィ。


「だからって、いきなり攻撃するかボケ」

「私が鞘から抜いて攻撃してたら死んでたわよ。ちゃんと注意しなさいね」

「お、ま、え、は」

「トクタさん、大丈夫ですか?」

「はい!大丈夫です!」


 勢いよく起き上がるトクタ。そしてシーシアに笑いかけた。


「さんとかいらないので、トクタって呼んで下さい!」

「いえ、そんな。まだお会いしたばかりですし」

「そうですよね!これから知っていけば良いんですよね!」

「は?はあ……」


 戸惑ってはいるが、トクタの邪気のない笑顔を見てなんとなく微笑んでしまうシーシア。


「はぅ……」


 思わずシーシアの手を取ろうとしたトクタの手に振り下ろされるラヴィの細剣。


「おいこら!」

「何?」

「それはしゃれにならないからな!」


 鞘から抜かれた細剣を握っているラヴィを見て、トクタの顔が青ざめた。


「遅くしてあげたでしょ?ちゃんと避けられたじゃない」

「そういう問題じゃねえだろうが!」

「じゃあどういう問題だって言うのよ?」

「武器を人に向けるなって言ってるんだよ!」

「んー。でも躾は必要だし」

「なんで俺がお前に躾られなきゃいけないんだよ!」

「保護者として?」

「お前はカイタの保護者だけやってりゃ良いだろうが!」

「な、ば、な、なにを、バカなこと言ってるのよ!カイタは関係ないでしょ!」

「ふふふ」


 トクタとラヴィが言い争いをしている中、それを呆気にとられて見ていたシーシアが突然笑い出した。


「シーシア?」

「シーシアさん?」

「あ、すみません。なんか、二人とも仲良いなって思って」

「だれが!」

「だれが!」


 そろってしまった台詞に互いの顔を見るトクタとラヴィ。

 それを見てシーシアが再び笑う。


「ちょっと!シーシア!」

「シーシアさん!これは違うんです!」

「ごめんなさい、おもしろくてつい」


 そんな事をしている三人を少し離れた所で見守るサツカとカイタ。


「な、カイタ」

「お?」

「トクタの好みのタイプって」

「ロリ巨乳。おとなしめで背の小さな巨乳さん」

「……シーシアがドストライクなのか」

「ドストライクだった」

「シーシアごめん」

「忘れてたなー」


 二人には、ただ見守るしか出来ることがなかった。

 


 

 




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