02-02-16 結局そういう話はみんな好きらしい
「あの、俺は、その、」
「なんですか?魔力操作って。聞いたこと無いなー」
技能である[魔力操作]に関して言い当てられうまくごまかす言葉が出てこないカイタ。その横で座り直したラヴィが満面の笑顔で質問するが、目の奥が笑っていない。
「あー!そっか。魔力操作も技能か。そりゃ言い当てられたら警戒するよね。ごめんごめん」
と、こちらは見た目は本当に笑顔になるマジリオ。もちろん見ただけがすべてではないのだが。
「んー。でもね。冒険者なら[魔力操作]は必須だから、そこら辺はわかって当然と思っておいた方が良いと思うよ。あ、でも君が使えるだろうって分かったのは、君が冒険者だからっていう推測からの当てずっぽうではないから、僕を警戒するのは正解なのか」
困ったように腕を組んで首を傾げるマジリオ。一つ一つの動作が舞台のように大げさで、見た目の良さも重なり演劇のように見えてしまうのも、カイタとラヴィが彼を警戒する一つの要因だろう。
「んー。難しいね」
そして二人に対して微笑むのも、二人は愛想笑いさえ浮かべない。
「でも、ま、仕方ないか。もうすぐ店主と一緒に君らのお仲間さんも来るから、そこでまとめて話そうかな!店主が!」
おまえが話さないのかよ!と、心の中でカイタとラヴィの叫びが重なった。
「待たせた」
カイタとラヴィが扉の開く音に気付いて目を向けると、そこには目の前の少年とほぼ同じ姿の少年が立っていた為、二人共に少しだけ驚いていた。カイタが心の中で「ビジュアル設定もう種類が切れた?」等と思っていたが、言葉には出さなかったので問題なかった。
「大丈夫だよー。楽しくお話ししてたから」
「お前には言ってない」
「ひどいなー」
部屋に入り、頬を膨らませた銀髪のマジリオの横に立ち頭を下げた金髪の少年に見える男、マサオ。それを目の前でやられ、カイタとラヴィも慌てて立ち上がった。
「ここの店主をしているマサオという。よろしく頼む。どうせこいつがまた変なことを言って困らせていたのだろう。先に謝罪させていただく」
「お、いや、ま、大丈夫です」
「……ご兄弟ですか?ほんと、もうちょっとしつけて下さい。うるさかったです」
「ちょっ!ラヴィ!」
「なによ。事実でしょ」
「それはまあそうだけど」
「楽しくお話ししてただけなのにー」
「申し訳ない」
マサオは会釈程度に下げていた頭を深く下げる。
「父がすまなかった」
「あ、いや、もう、え?」
「え?」
「これは、父親だ」
疲れたように呟くマサオ。
「え?お?え?マジですか?」
「いや、うそ、なにその設定」
「俺も冗談なら嬉しいんだが」
「ひどいなー」
驚きを隠せない二人。顔は上げたがうつむき気味にため息を吐くマサオ。そんな三人を見ながらマジリオは頬を膨らませて抗議するが、それに対応するものは誰もいない。
「ま、いっか。マサオ、二人は?」
「そうだな。二人とも、すまなかったな。もう良いぞ」
開けたままにしておいたドアに向かって、実際はその外で待っている二人に向かって声をかけた。
「失礼します」
「しし失礼、しま、す」
中に入り、一度止まるサツカとシーシア。
そしてサツカを見て動きが止まるカイタとラヴィ。
「つかっいっ!」
思い切り隣のカイタの頭を叩くラヴィ。
「な、何を!」
頭を押さえて抗議するが、されたラヴィは無視してサツカを見ている。
「サツカ!なぜここに!?」
「あ、そっか。サツカだ!」
「よっ」
サツカは二人に向かって軽く手を振りながら中に入り、その後ろを三人を見ながら続くシーシア。
「もう、驚きが渋滞してるわよ」
「サツカはそれほど驚いてないな」
「マジリオさんはもう慣れたし、廊下にいても二人の声が聞こえたから。最初聞こえたときは驚いたよ」
「そっか。で、そちらの彼女は?」
「あ、は、はい!」
サツカの後ろで隠れるようにしていたシーシアが、慌てて横にでる。
「し、シーシアです!」
「こんばんは。ラヴィです」
にっこりと微笑んで挨拶をしながら、横にいる幼なじみの脇腹を肘でつつく。
「あ、うん。カイタです」
「それで、サツカとはどういう関係?」
「サツカ!こんなかわいい子をどうやって引っ掛けた?!」
「いや実はちょっと心配してたのよ。見た目も中身もそれなりなのにあまりにも女っ気がないから」
「おまえら!」
興味を隠さずに言葉で詰め寄る二人に思わず声をなくすサツカとシーシア。
マサオは四人を見て呆れ顔で首を振る。
「なんだよー。やってることは僕も同じなのにー」
そして聞こえたマジリオの言葉に、珍しく心から同意した。
ソファーには端からラヴィ、カイタ、サツカ、シーシアと座り、その対面にマジリオとマサオが座っている。
ひとしきり言い合いをしたあと、マサオの仕切りで互いの状態とマジリオとマサオの親子関係を確認していた。
「とにかく話を進めるぞ」
「失礼しました」
サツカが頭を下げると、横の三人も同じ様に下げた。
「もう良い。それでだ、お前達にはこれから二つやってもらうことがあるが、まずは確認しなければならないことがある」
「はい」
マサオの話に答えるサツカ。
先程の言い合いで、いつの間にか話を進めるのはサツカに決まったようだ。
それを興味深げに黙って見ているマジリオ。
「まずはやってもらうことだな。俺は本当は反対なんだが……」
マサオがちらりと隣に座る父親を見ると、彼はにっこりと微笑んだ。思わずため息をもらした後、改めて四人を見た。
「錬金術で、『増血剤』をつくってもらう」
「錬金術でですか?」
「薬術ではなく?」
思わず問い掛けたラヴィに視線を向け、マサオが少しだけ笑みを浮かべた。
「なるほど、この中では一番この世界を知っているのは君のようだ。しかし……そうだな、その辺は実際に錬金術を行いながら話すことにしよう。それで良いか」
「はい。説明していただけるなら」
ラヴィの堅い答えに少し驚きつつも笑みを浮かべるマサオ。
「納得してもらえる説明が出来るよう、こちらも努力しよう。さて、薬を創るには材料が必要だ。シーシアとカイタ君が納品してくれたものがあるが、それでは足りない。そこで、四人にはそれを取りに行ってもらいたい」
「採取ですか?」
「いや?魔物狩りだよ」
軽く告げたマサオの台詞に、四人は思い思いに驚きの声を漏らした。




