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02-02-14 アザルベル……薬?店?

「魔力を使って魔法を実行するわけではないのですか?」


 思わずサツカが口を挟む。アイクから聞いているのはバーの長さが関係している程度であるため、しっかりと聞いておきたかった。


「魔力が無ければ、魔法を現象として実行することは出来ない。だが、魔法を使ったからといって、魔力が減るわけではない。魔力というのはさっきも言ったとおり気力、体力やろその時の体調によって変わってしまう」

「あ、あの、つ、つまり、凄く調子の良いときは魔力はずっと最高だけど、病気をしていたりケガをしていたりして体調が悪かったりすると、魔力はずっと低い状態ということですか」

「そういうことだな」


 シーシアの確認に相槌を打つマサオ。


「ということは、元気な状態なら魔法自体は使い放題って事ですか?」

「使い放題……そうだな。理論上は、そうなる」

「理論上?」

「魔法というのは、多少なりとも精神を使う。使えば、心や身体が疲労するだろう」

「そうすると、魔力が下がる」

「そういうことだ。それに、そいつの素質によって使える魔法の制限はどうしてもあるし、苦手な魔法を使うと疲労も大きい。どんな魔法も同じように使える奴など、今この世界にも十人いないだろうな」


 少しだけ悔しそうにマサオが告げる。


「それは、調べられるんですか?」

「いや、自分で体感して覚えていくしかない」

「それは……」

「ちょっと……」

「それも含めて、まずはお前達に魔法を使えるようになってもらう」

「え!?」

「……はい」

「なんだ、魔法は嫌か?それならそれで」


 思わず驚きの声を上げたシーシアに、マサオが少しだけ嬉しそうに話しかけるが、彼女はすぐに否定した。


「ち、違います!た、ただ、ここで習うとは思わなかったのでちょっとだけ、びびっくりしただけです!」

「そういえば、ここは『薬店』か」


 この流れを予想していたサツカは普通に受け入れていたが、シーシアは予想出来ていなかったための驚きだったようだ。


「サツカさんが普通に受け入れていたことの方が私には不思議です」

「んー。それは、まあ、ね」


 自分のレア能力や友人のことを頭に浮かべつつ愛想笑いを浮かべるサツカ。マサオはそんなサツカの顔を見て何かを諦めたようなため息をついた。


「この世界での『薬』がどのようなものかは後でまとめて教えてやるから、まずは魔法を使えるようになれ」

「はい」

「ははい!」


 そういうと二人の返事を聞きつつ袋に手を入れるマジリオ。


「利き手を出せ」


 素直に右手を出した二人に、ピンポン球程度の大きさの黒い球を乗せる。


「その球は、魔力を使う補助をしてくれる。まずはそれを持った状態で使えるようになれ」

「はい!」


 元気良く返事をしたシーシアの横で、じっと自分の手の中の球を見るサツカ。


「サツカさん?」

「どうした?」

「あ、いえ、何でもないです。分かりました」


 二人に声をかけられて顔を上げる。その手はぎゅっと球を握っていた。

 マジリオは小さく溜息を吐き、説明を続ける。


「魔法自体を使うのは、難しいことではない。公開されている魔法ならば、全員が使えると言っても良い。もちろんそれが戦闘に使えるとは別の話だが、想像が正しければ現象として生み出すことは問題なくできるだろう」

「公開されている魔法?」

「ああ。魔法はすべて魔法言詞を組み合わせた呪文によって現象としてこの世に存在させる。魔法言詞は無数にあると言われているが、その中でも基本的なものは公開されているんだ」

「呪文ということは、他の人が使っている呪文を聞いて覚えれば、使えるのでは?」

「公開されている魔法言詞ですら、しっかりと伝える事が出来る者が教えなければ、使えるようにはならない」

「それじゃあ、公開されていない魔法を使えるようになるには?」

「大きくは二通り。魔法師に師事して教えを請うか、自身で本を読み、調べ、理解し、使えるようになるか。本は書店で買うか、図書館で読むことが出来る物もある」

「図書館……」


 サツカの脳裏に友人の顔が浮かぶ。


「ああ、この街にもある。王都やザールガイトには負けるが、蔵書数はかなりのものだ」

「図書館……」

「とはいえ、今から教える魔法が使えなければ決定的に魔法の素質が無い可能性もあるからな」


 マサオの顔に、中庭に来てから初めて笑みが浮かぶ。逆にサツカとシーシアの顔は緊張で引き締まった。


「まずは、基礎の魔法言詞からだ」


 そんな二人の顔を見て、マサオがニヤリと笑った。





「『水の』『球よ』、『飛べ』」

「『水の』、『球よ』、……『飛べ』」


 池の側で呪文を唱える二人。右手で渡された球を握りしめ、唯一立てた人差し指の先に意識を集中している。


「言葉と共に頭の中で現象を想像するんだ。目は閉じるな。世界の中に現象を創造しろ」


 池から水ではない水、水蒸気でもない、原子や分子とも何か違う、いわゆる『四元素の一つとしての水の力』と呼ぶのが一番しっくりするような何かが指先に集まるのを感じるが、形を成す前に霧散する。


「よし。それで良い。後は練習あるのみだ」

「はい」

「はい」





 水の球を飛ばすのには多少時間がかかったが、そこで感覚を掴んだのか、その後の石、火、風の球はそれほど時間をかけずに作ることが出来、二人ともその球を無難に空に飛ばすことが出来るようになっていた。

 しかし威力は小さく、とても戦闘には役立ちそうもないというのが二人の思いだった。


「使えるようになるのが早いな」


 しかしマサオは威力よりも使えるようになったその早さに驚いている。


「そうですか?」


 サツカの感覚では全部で一時間。最初の水だけで三十分以上かかっていたため、充分時間がかかったと思っており、それはシーシアも同じ思いだった。


「魔法は、基本的にある程度自我が確立してから教えるようにしている。それは、想像力、或いは妄想力が落ちる前、そして自身を抑制する力、律する能力が芽生えてから教えるようにしているということだ。だから今まで親など周りが魔法を使っていて身近にあったとしても、どうしてもどこかで自身に対する魔法が使えるかどうかという気持ちや、使えなかったらどうしようと思う不安な心があり、使えるまでに日数を必要とする事が少なくない」


 マサオが「妄想力」と言った時に苦笑いを浮かべたサツカとシーシア。


「だからこの場で形を創りやすい水が出来ればまあ良いかと思っていたのだが、まさか全部出来るようになるとはな」

「この球のおかげでは?」

「それで出来るのは補助だけだ。一を二にする手伝いは出来ても、零を一にすることは出来ない」

「そういうものですか……」

「さて、思ったよりも早かったが、お前達、時間は大丈夫か?」

「え?あっ」

「ああっ」


 白み始めた空を見て、慌てて時間を確認する二人。


「丁度お客も来ているようだし、一度戻るか」


 時間を確認して表情を曇らせた二人を見て、マサオが建物に戻るよう促した。








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