02-02-13 アザルベル……薬店?
「だが、彼らは『あらひと』で『新人冒険者』だ。そして、まだ『紙級』だから、外にも出られない」
頭を抱えて俯いているマサオであったが、そのままの姿で顔だけ父親に向けた。
「誰でも最初は新人だ。『あらひと』だろうが『つしおみ』だろうが、関係ない」
肩をすくめるマジリオ。
「戦闘能力のことを言っている。研修を受けて武器を使えるようになっているのと、実際に武器を使うのとは雲泥の差がある事くらいは分かるだろう?」
「誰にでも最初はある」
「最初がここである必要は無い」
「それはまあ、確かにないな」
「ならば!」
身体を上げるマサオ。
「だが、ギルドは俺にやらせたいみたいだぞ?」
「親父が勝手にそう考えているだけだろうが!」
「空気読めよ」
「親父が言うな!」
「なーんてな」
にっこりと微笑んだマジリオが、懐から一枚の封筒を取り出してひらひらと振った。
「なんだよそれ」
「ドルドア君からのお手紙!」
「はぁ!?ドルドアから!?いつ!?」
マジリオの手から手紙を奪い、中から取り出して広げるマサオ。
「さっき緊急連絡用の鳥が持ってきた。あ、ストックから二匹持ち帰らせたから、補充宜しく」
「おーまーえーはー」
中身を読む前に父親を一睨みする。
「あ!さっきもそうだけど!親をお前とか言っちゃダメだぞ!」
「言わせてるのはおまえだろ!」
マサオはもう一睨みしながら強く叫ぶが、すぐに視線を手紙に向けた。
「失礼しちゃうよねー」
頬を膨らませつつシーシアに向かってにっこりと微笑むマジリオ。
だが彼女は曖昧な愛想笑いで逃げた為、今度はサツカに向かって小首を傾げるマジリオ。
「ねー」
見た目少年、それなりの容姿のため一部の相手なら需要はありそうだが、サツカには効かなかった。
「ギルマスから何のメッセージが届いたんですか」
少しだけ固くなった口調でサツカが返すと、マジリオは今まで見せなかった人の悪そうな笑みを浮かべた。
「あ、やっぱり君は知ってるんだね」
「……何をですか?」
「ドルドア君が冒険者ギルドのギルマスだってことをさ」
「!」
「普通の新人冒険者は、知らないことだと思うよ?ってことは、一人目はやっぱり君で良いみたいだな」
思わず漏らしてしまったことが悔しいのか、サツカは眉間にしわを寄せつつ対応を考えるが、思いつく前にマサオが声を上げた。
「おーやーじー」
地の底から響くような声。今までの声と彼の姿からは想像出来ない声だが、確かに彼がしゃべっているのをサツカとシーシアは驚いた表情で見ていた。
「本気か?」
「んー。ギルマスから直接依頼されちゃってるし」
「どうせお前が言い出したんだろうが」
「ひどいなー」
「……違うのか?」
「んー?少し、見所がありそうな子はよこしてとは言ったよ?ほら、ここの件もあるからさ」
最後の言葉でマサオの肩が揺れる。
「ギルドに恩を売るのも良いかと思ったんだけど」
「……分かった」
「マサオならそう言ってくれると思った!」
「俺の服を着てる件やさっき飲まされた睡眠薬に関しては、後でじっくり聞くからな」
「えー!」
「ちっ」
不機嫌そうに舌打ちしながら立ち上がり、サツカとシーシアを見る。
「失礼した」
「あ、いえ」
「だ、大丈夫です」
会釈程度だが頭を下げたマサオを見て、慌てて立ち上がる二人。
「二人に聞いておきたい事がある。答えたくなければそれでも良い」
「なんでしょう」
サツカが答え、シーシアが頷く。
「武器は使えるか?」
その意味に気付いたシーシアが唇を強く結んだが、サツカはさらりと答えた。
「ギルドの講習は受けました。その後この依頼を終えたら石級に上がれるはずです」
「……分かった」
「わ、私も同じです!ギルドの武器の講習は終わって、大丈夫だろうって太鼓判も押されました!」
「え?」
続けて申告したシーシアに、思わず驚くサツカ。
「え?」
「え?」
そしてそれに反応するシーシアとマサオ。
「あ、ごめん。ちょっと意外だったので」
「あー。はい、よく言われるので、大丈夫です」
笑顔で返すシーシア。サツカは「よく言われる?」と少し気になったが、マサオが話し始めた為頭の隅に追いやった。
「二人とも戦闘の基礎が出来ているというなら、良いだろう。ついてきてくれ」
二人に対して目配せし扉に向かうマサオ。
シーシアは返事をしてから慌ててそれに続き、サツカは一度マジリオを見てからそれに続いた。
「さって、それじゃあ部屋の準備と、次のお客さんを迎える用意をしようかな」
サツカと目があった瞬間は不敵な笑みを見せて三人を見送ったが、すぐに笑顔になって部屋を出るマジリオだった。
サツカとシーシアが連れてこられたのは、奥に続く廊下の果てから外に出た、中庭だった。
マサオは取ってくる物があると言って戻っていった為、今中庭にいるのは二人だけであり、そのため二人は思う存分周囲を観察していた。
中庭と言っても充分広く、大きな樹と小さな池、端にはかまどもあり、テーブルやイスもあるところを見るとここでバーベキューなどでもしていそうだなとサツカとシーシアは小声で話している。
「待たせた」
後ろからから声をかけられて慌てて振り向く二人。マサオが白い袋を持って立っていた。
「さて、二人とも魔法はまだ使ったことはないということで良いな?」
「はい」
「は、はい」
赤い月の光りが柔らかく降り注ぐ中、真剣な顔です自分達を見るマサオに返事をする二人。
「そうか……自分の中にある魔力に関しては聞いているか?」
「それは……少し、教わりました」
「そうですね、少し……ですね」
「少し?」
「はい」
「はい」
顔を見合わせてなんとなく苦笑いを浮かべたサツカとシーシア。それによって互いがチュートリアルで担当AIと似たような事を話したのだろうと推測していた。
そんな事は分からないマサオは怪訝な顔をしたが、すぐに気を取り直して話を続ける。
「魔力とは、自分の持つ気力や体力、生命力から生まれる複合的な力だ」
「はい」
「はい」
左上に出している気力のバーを意識しながら聞く二人。
「魔力が無い状態では、魔法を使うことは出来ない。だが、魔法を使えば魔力が無くなる訳ではない」




