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02-02-10 暗闇の行程

 サツカの目には薄暗く映る通りを歩くサツカとシーシア。

 シーシアにとっては暗闇であり視界が悪いこの道を歩くに当たり、サツカは一瞬手をつなごうかとも思ったが、いくら何でも会って一時間も経っていない同年代と思われる女性と手をつなぐことははばかられ、今のような状態で歩いていた。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい。少しだけ暗さにも慣れた気がします」


 サツカの左後方、彼の上着の腰の部分を摘まんでいるシーシア。

 その姿は互いがそれなりの年齢と見た目をしているせいで、ある意味手をつないでいるよりもそれらしい様に見えるのだが、周りに人がいない事と本人達が気にしていないため特に問題はなかった。


「前と方向は俺が見てるので、確認できる範囲で周囲と足下だけ注意してて下さい」

「はい、ありがとうございます」


 サツカ一人ならば普通に歩くことはもちろん走ることも可能な道であるため、シーシアの歩調に合わせると言うよりも恐る恐る歩く彼女の歩調に会わせるためにかなりゆっくりと歩いているため、歩きながら自分の目のことを考え始めた。


「(目関係の技能は[空の目]と[射手の目]、そして[指揮者の目]。指揮者じゃないだろうから、空か射手かな。暗闇でも相手を狙える射手か、暗くても確認出来る空か。そういえば[鳥の目]もあるみたいだけど、やっぱり鳥目なのかな)」

「あの……」

「はい?」

「あ、いえ、何でもありません」

「はい。(しかしそうなると、[指揮者の目]というのはどういう能力なのか、検証が必要だな。さらに言うなら[指揮]もどうにかしたいけど、これはパーティーを組んでからになるだろうし)」

「あ、あの!」

「はい。なんでしょう」

「あ、いや、その、はい……」

「はい?なにか、ありましたか?」

「あ、いや、その、実は、暗くて、黙って歩いているのがちょっと……」

「ああ、すみません。怖かったですか」

「あ、もちろんサツカさんが怖いとかじゃなくて、暗いので」

「いえいえ、こちらこそ気が付かず申し訳ないです。そうですよね。やっぱり怖いですよね」

「すみません。リアルではそんなことないんですけど、なんかここは……」


 そう言いながらサツカの服を掴が力が強くしてしまうシーシア。


「リアルではそんな事無いんですか?」

「はい。お化け屋敷とか大好きですし。暗いところもそれ程怖いと思わないので、逆に親には気を付けろと叱られるくらいで」

「あはは。そうですね。夜道とかは注意しないと」

「姉や従兄弟にも言われます。そんなに頼りないとは思ってないんですけど」

「自分で思うほど、周りは信用してくれないんですよね」

「そうなんです!ほんともう。それでいて二人ともどこか行っちゃうし」

「このゲームは一人で?」

「いえ、姉と従兄弟も一緒です。ただ二人とも違う街に居て。二人は同じ街だから合流したみたいなんですけど」

「心配していそうですね」

「二人がこの街にくるまで外に出るなって言われました。クエストもクリアするなって」

「それはまた」


 忌々しげに呟くシーシアに、苦笑いを浮かべるしかないサツカ。

 そして目的地である『マルツコート通りの果て』まで半分ほど進んだとき、前方にぼんやりと光る建物が見えた。


「シーシアさん、あれも見えませんか?」

「え?あ!見えます!」

「半分まで進むと見え始めるみたいですね」


 『マルツコート通り』は最終的に建物が鎮座していて行き止まりであり、袋小路の様になっている。

 どんな建物が建っているのかと思っていたが、この距離では荘厳な造りのように見えていた。表通りで見た豪奢な造りではないが、歴史のある意味ある造りのように見える。


「あれが果てなのかな」

「他に開いている店とかも無さそうですし、私の目的地もあそこみたいです」


 近付くにつれて、通りの果てに存在する建物の放つ明かりが道を照らしてくれているのか、シーシアでも周囲を確認できるようになっていた。

 既にサツカの服も離しており、今は隣に並んでいる。


「あ、ありがとうございました」

「え?」

「ここまで連れてきてくれて。独りじゃ無理でした」

「でも、クエストクリアしてもいいの?」

「もう、サツカさんまでやめて下さい」


 そして唇をとがらせてじろっと横にいるサツカをにらむ。


「はは」

「いやもう笑い事じゃないですよ」


 シーシアが前向いたまま少しうなだれる。

 その猫背の姿を見て、サツカは笑みを深めた。


「ゲームの中でくらいと思うんですけど」

「リアルの世界で説得しつつ、こちらでもしっかりと遊ぶしかないね」

「はい。頑張ります」


 そしてその後もたわいのない会話を続けていた二人だったが、建物の前にたどり着いたときには言葉をなくしていた。


「サツカさん……」

「はい」

「こんな大きさでしたっけ?」

「いや、もっと大きいかと思っていたんだけど」


 失礼なことを話す二人だが、それも仕方ないことで、道の途中から見た建物の高さと、今目の前で見ている建物の高さが、二人の中で一致していなかった。簡単に言えば、六階以上の高さがあると思った建物が、三階分の高さ位しかないのである。


「もしかして、幻術とかでしょうか」

「そういえば」

「何か?」

「いや、地図で見たよりも遠かったような気がしてたんだ。ゆっくり歩いていたからそんなもんかと思っていたんだけど」


 振り返り、自分たちのやってきた道を見る二人。

 しかしシーシアの前には暗がりしか見えない。


「すいません。私にはやっぱり暗がりしか見えてなくて……」

「俺はなんとか曲がり角まで分かるけど、ゲーム補正なのか、そういう謎系ミッションなのか」

「謎解きですか!?」


 自分の目ではちゃんと確認できず意気消沈していたシーシアが、目を輝かせて周りを見た。


「そういう魔法なのか」

「魔法かー」


 が、サツカの続いた言葉に途端に勢いがなくなる。


「本当に好きなんだね」

「小学生の頃、一番最初に姉さん達と建物の中を周遊するタイプの謎解きに行ったんですけど、それがスゴく楽しくて。あと、自分で言うのも何なんですけど、謎もサクサク解けて。今考えれば子供向けで、姉はともかく従兄弟は花を持たせてくれてたんだと思うんですけど、それでも二人に頼られたり、二人が分からない謎を私が解けるのが楽しくて」

「なるほどね」

「魔法とかも楽しいし、せっかくのゲームだから楽しみたい気持ちももちろんあるんですけどね」


 照れ臭そうに笑いつつ、人差し指でこめかみを掻く。


「シナリオにその作家が参加しているな、魔法を使った謎解きや、ここならリアルダンジョン脱出とかも可能性が」

「ですね!」

「あるかもしれないので」

「そうですね!腐らず頑張ります!」

「あ、うん。頑張ろっか」


 急激にテンションの上がったシーシア。謎解き関係の話題を出せば元気になるだろうと思っての会話だったが、ここまでとは思ってなかったサツカは一瞬かなりひいた。が、すぐに今までの会話を考えればこんなものかと思い直し、笑顔は崩さずに会話出来ていた。


「じゃあ、ここで話していてもなんだし中に入ろうか。自分はここで正解だけど……」


 サツカは話しながら建物の外観をもう一度確認する。目に映るのは、扉の横にある大きな杖と杯。そして扉自体が本のように見える。


「シーシアさんもここで大丈夫?」

「あ……はい」


 扉に掛けられているプレートを確認するシーシア。そこにはこの建物の名前が記載されていた。


「『アザルベル薬店』。ここであってます」





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