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02-02-09 月は出ているか?

20181207 タイトル修正 02-02-08→02-02-09





 ひとしきり自己嫌悪でうずくまっていたシーシアであったが、おもむろにすくっと立ち上がる。その表情は少しすっきりとしていた。


「自己嫌悪は無くなりませんが、言ったものは仕方ありません……よね」

「そうだね」

「それに、時間ももったいないですし。時間をとってしまって、申し訳ありません」

「大丈夫ですよ。塔に登ってた事を考えればこの程度の時間」

「ありがとうございます。ただあの……出来れば、内緒でお願いします」

「それはもちろん」


 歩きながら頭を下げるシーシアと、苦笑いを浮かべるサツカ。

 自分の年齢がこのゲームをやれる最低年齢である十五歳である以上彼女は同じ年齢か年上なのだが、サツカは何となく年下に接するような対応をしてしまっていた。

 シーシアもそれは感じているはずなのだが、特に反発することなく会話している。


「それで、そんなに暗かったの?」

「はい。外灯の数も他の通りと比べて少し少ない気もしましたが、時間が悪かったのか月明かりがそれ程照らしてくれてなかったみたいで」

「月明かりか……」


 曲がり角で立ち止まり空を見上げるサツカ。赤い月が輝いている。


「今は、『赤夜(あかよ)』か……」

「四十八時間の間に交互に空に昇る青い月と赤い月。その間に八時間ごとに三回昇る太陽。ログインの時間や体感二倍速に合わせる為だと思いますけど、面白い設定ですよね」


 同じ様に立ち止まって空を見上げていたシーシアが、そのままサツカを見る。視界に映るのは、目を見開いたサツカの顔。


「?どうしました?」

「い、いや、何でもない」


 まさか「急にまともなこと言うからびっくりした」などと言うことも出来ず曖昧な笑顔で曖昧な返答をしたサツカ。シーシアは少し不思議そうな顔をしたものの、すぐに微笑みを返したあとにまた空を見る。


「深夜零時を起点に『紫夜(むらさきよ)』『青朝(あおあさ)』『青日(あおひ)』『青夕(あおゆう)』『青夜(あおよ)』『紫朝(むらあさ)』『紫日(むらさきひ)』『赤夕(あかゆう)』『赤夜(あかよ)』『赤朝(あかあさ)』『赤日(あかひ)』『紫夕(むらゆう)』『紫夜(むらさきよ)』で一周とか、覚えるのも大変ですよね」

「え?」

「はい?」

「あ、いや、その、そう、もう覚えたんだ」

「はい!」


 サツカの質問はうがって聞けば失礼であり、実際サツカはシーシアがすでに覚えている事に驚いて聞いているので充分失礼なのだが、彼女はそれに気付かずに笑顔で答える。


「謎解きのキーになりそうな言葉だったのですぐ覚えました!」


 返答に納得して「あー。なるほどね」と呟いたサツカ。それを不思議そうに見たシーシアであったが、特に気にすることなく笑顔で頷いた。


「あ、もうすぐですよ。あの角を左に曲がると、『マルツコート通り』です」

「ありがとう。どうだろう。まだ暗いのかな?」


 丁字路の下の部分。と言うのが一番わかりやすいだろうか。

 地区としては西地区になるのだが、町の中心にある領主館、冒険者ギルドやその他のギルド支部が軒を連ねる南中央通り、街で一番高い時計塔等から近い。

 道の両側には立派な商店や一軒家、或いは豪奢な集合住宅や宿屋が軒を連ねており、恐らくは馬車が通るであろう広い道とその両側には歩道もある。街灯も一つ一つが充分な明かりを灯し、更に本数も充分だった。

 だが、サツカが曲がり角を向くと雰囲気は一変した。


「え?」

「暗いですよね」

「……ですね」


 言うならば、田舎のシャッター商店街の深夜とでも言うだろうか。馬車がすれ違うためには両側に人が寄らないといけないだろう広さの道。その両側には商店や宿屋、或いは集合住宅であったであろう建物が軒を連ねているが、どこも暗く営業しているようには見えない。

 可能性として今は夜であるため営業していないだけだと思えないこともないが、その雰囲気や店の汚さを観察してしまうと、それは希望的観測としか言えなくなってしまっていた。

 道の両側には街灯も備えられているが、今サツカ達がいる通りと比べるとぼんやりと灯しているだけだ。


「暗い、ですよね」

「暗い、ですね」


 同じ事を二度言うのは大事なことだからですと思いつつ、サツカは道を進もうとした。


「あっ」

「え?」

「あ、す、すみません」


 だが後ろから非難するような短い叫びに似た声をかけられ、思わず立ち止まり振り返る。そこにいるのは頭を何度も下げるシーシア。


「えっと?」

「あの、い、行くんですか?」

「え?行かないんですか?」

「でも、暗いですよね」

「いや、暗いといっても街灯はあるし、進めないと言うほどでは……あっ」

「どうかしましたか?」

「あ、いや、その……」


 改めて通りを見るサツカ。自分の目には、暗いは暗いが通りの先が見えないほどではなく、歩くことに関して全く問題が無い。

 けれど、もしその視界が自分の技能によるものであったとしたら。

 その考えにいたり、そっと道の入口から数えて三つ目の街灯の下を指さす。


「シーシアさん、あそこにゴミ箱があるの見えますか?」

「え?どこですか?」

「左の、手前から三つ目の街灯の下に」

「いやいやいや。街灯は何となく分かりますけど、下なんか真っ暗ですよ?!」


 心底驚いた顔でサツカを見るシーシア。

 それを聞いて、心の中で唸るサツカ。自分が見えすぎているのか、彼女が暗闇に弱いだけなのかが分からないからだが、何となく自分が見えすぎていると思っていた方が色々と良い気がしていた。


「リアルでも結構夜目がきく方だからかな。俺はあれくらいまでならちゃんと見えるけど」

「あー。そう考えると、私は鳥目気味かもしれないです」

「そんなところまで強調しなくてもいいのにね」

「本当ですよ。夜目とか技能でありませんかね?」

「どうだろう。技能はその事象を鍛えれば手に入れられるって言ってたから、暗闇を見続けてれば得られたりするのかな」


 サツカは一応ごまかしつつ自分は見えていることを話し、どうやって進むのが一番良いか考え始めた。




 


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