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02-02-04 道具屋さんだ!

 店の中は、カイタの想像していたとおりの『道具屋』だった。


「おお!」


 思わず声を漏らしたカイタに対して苦笑いを浮かべるラヴィと店主。


「まったく」

「うちの店に入った『あらひと』さんは、なんでみんな同じような感じになるのかねぇ」


 カイタは親しげにカウンターの中の女性と話すラヴィを見て一瞬怪訝な顔をするが、すぐにその女性を見てもう一度感嘆の声をあげた。


「おお」

「あたしを見ても同じ様な感じになるんだよねぇ」

「カイタ、失礼よ」

「あ、すみません」


 少しふくよかだが、太っているとは思いはしない程度に肉付きの良い女性が、苦笑いではあるがニコニコとこちらを見ていた。


「初めまして。カイタといいます。本日初めて『はらへど』にやってきた、紙級の新人冒険者です」

「おやご丁寧にどうも。こちらこそ失礼したね。『オードリー道具店にようこそ』。まずはこれを言わなきゃ始まらないのにね」

「いえ、ありがとうございます」


 扉の前で一度お辞儀をしてから奥のカウンターに進むカイタ。

 人が二十人くらいは余裕で入れそうな店内。壁に備え付けられているように見える棚にはきれいに品物が並べられ、奥のカウンターにはレジらしきものと、ガラスでできたショーケースのような物がある。

 心の中で感嘆しつつキョロキョロ周りを見るのを抑えながら進むカイタに笑いかける女性。


「良いよ良いよ、ゆっくり周りをごらん。何が面白いのかはあたしには分からないけど、面白いんだろ?」

「いえ、その、ちょっと、思い描いていた『道具屋』が目の前にあるので、ちょっと感動してしまいまして」

「あっはっは!感動かい!そんな大層なもんじゃないんだけどねぇ」


 面白そうに、そして嬉しそうに笑う女性。年の頃はカイタやラヴィの母親と同じくらいだろうか。成人した子供がいてもおかしくない年齢に見えた。


「さすがラヴィちゃんの連れだね。面白い!」

「オードリーさん!」


 突然幼なじみの名前をちゃん付けて呼んだ女性に驚くカイタ。しかしその事に気付く様子もなく二人は楽しそうに会話する。


「だってあんたも最初は似たようなもんだっただろ?」

「あそこまで酷くないですし、私は可愛いって思っただけです!」

「一緒、一緒」

「もぅ!」


 終始笑顔で会話する二人を不思議そうに見ているカイタにやっと気付く二人。


「ああ、悪いね。ほっぽっといて」

「い、いえ、別に」

「私の名前はオードリー。この道具屋の店員さ」

「え?店員なんですか?」

「ああ。店主は別にいるからね。今奥で休んでるけど、店主に用事かい?」

「あ、いえ、品を探しているだけなので、大丈夫です」


 どこか腑に落ちない顔で会話するカイタを見て、オードリーが眉間に皺を寄せた。


「あたしに、何か気になることでも?」

「いや、その、店名にオードリーとあって、お名前もオードリーと伺ったので、店主さんなのかなと思ったので」

「ああ、そういうことかい」


 途端に笑顔になるオードリー。とても嬉しそうな笑顔だが、何故今の会話で笑顔になるか分からないカイタの困惑は増していくだけだ。


「ここは、オードリーさんの旦那さんが開いたお店なのよ」


 カウンターに手を突いて立っているラヴィが口を挟む。


「もう、ちょーラブラブでね、店を出すときに一番大事な名前にすれば、同じくらいの愛情を持って店も大事にできるだろうって言って、このお店を開いたんだって。愛のなせる事よねー」

「な、なるほど」

「やだよラヴィちゃん。そんな事言って」

「だってホントじゃないですか」

「凄いですね」

「ホント、凄い愛情よね!」

「あ、ああ、うん」


 カイタが心の中で「仲違いとか離婚とかしたらどうするんだろう」と思いつつ言った「凄い」であったが、ラヴィは逆方向に解釈して頬を染めている。


「もう良いだろ、それで、あんたは何がほしいんだい?」

「あ、えっと、増血剤と、矢車菊と、透水です」


 話を促され、冊子を確認しながら必要な物を告げるカイタ。


「また変な組み合わせだねぇ。ぞうけつざいは、どっちだい?」

「え?どっちというと?」

「ああ、あんたは知らないのかい」


 オードリーがカウンターを数回叩くと、目の前に透明なウインドウがうまれる。


「『ぞうけつざい』ってのは、二つあるんだよ。『増血剤』と、『造血剤』のね」

「おお!」


 目の前のウインドウに現れる二つの小瓶。一つには『造血剤』、もう一つには『増血剤』と書かれていた。


「それは映像だけの見本だからね、触っても取れないよ」


 思わず手を出しかけたカイタにオードリーの注意が飛ぶ。そしてそれを見てくすくすと笑うラヴィ。


「何だよ」

「なんでもない!」

「ラヴィちゃんも最初に見たとき手を出してたねぇ」

「ちょっ!オードリーさん!」

「誰でも一度はやるから一回目は笑っちゃだめだよ。二回目から大笑いしておやり」

「はーい」

「いや、二回目も大笑いは止めた方が。というか、ラヴィと仲良いですね」

「今日の紫日にあったばかりだけど、意気投合してね。うちの息子が結婚してなきゃ嫁にほしいくらいだよ」

「オードリーさんが色々教えてくれたおかげでクエストをサクサク進められたのよ。舞と剣も教えてくれた依頼を受けたら覚えることができたし」

「教えたのも手配したのもうちの旦那だよ。あたしは何もしてないさ」

「そんな!オードリーさんが口添えしてくれたから、グレゴリーさんも手を貸してくれたんですよ!」

「本当にラヴィちゃんはいい子だねぇ」


 カウンターに身を乗り出してオードリーに話しかけるラヴィ。オードリーは彼女の頭を撫でながら、カイタを見た。


「幸せにしなきゃ許さないよ」

「はいぃ?」

「あんた、ラヴィちゃんの彼氏なんだろ?」

「違います違います!幼なじみで、仲間なだけです」


 あわてて否定するカイタと、顔をそむけつつ頬を膨らませるラヴィを見て、オードリーが苦笑いを浮かべた。




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