02-02-03 はじめてのおつかい?
「ラヴィはもうクエストは終わったのか?」
「後は報告だけ」
「報告だけ?」
「ええ」
グラスに刺さったストローを咥える幼なじみにたいして不思議そうな顔をするカイタ。それを見たラヴィは眉をひそめてストローから口を離した。
「何変な顔してるのよ」
「いや、報告だけならやって来ちゃえば良いのにって思ってさ」
「……まだサツカとトクタからのメッセージ読んでないの?」
「お?」
慌てて[書状]を確認するカイタ。
そして、先程友人達を承認した後に送られてきていた何通ものメッセージを確認する。
「おー」
「トクタから、街歩きクエストが終わったら、今度は外に出るためのクエストの可能性。終了処理をした後に何人かでまとめられて受ける可能性があるから、それなら一緒に出来るようにって事よ」
「なるほど」
「ま、サツカが言うには、もしそんなクエストがあったとしても、ログイン時間の問題もあるから強制ではないと思うって言ってるけどね」
改めてストローを咥えるラヴィ。琥珀色の液体がストローの中を満たし、ストローから口を離すとグラスの中で氷が音を立てた。
「今それも読んだ。それもそうだ」
メッセージを確認しながら幼なじみの話を聞いていたカイタだったが、返答を送っていると追加でメッセージが来たことに気付く。
「お?」
「今度は何?」
「いや、皆に返答してたらまた運営からメッセージが来た」
「え?」
グラスを起き、慌てて自分も[書状]を開く。
「私には来てないみたい。最初の[書状]クエストの報酬じゃないわよね?あれはあれで有益だけど」
「いちいち技能を開かなくても書状をすぐ呼び出せるようになったからな。今度は[伝言板]?」
「何それ」
自分のメニューを開いたままカイタに近寄るラヴィ。肩に手を置いて頬が触れる距離に寄り添ってメニューを覗こうとするが、もちろん見えない。
「見えるようにして」
「おー」
メニューを操作して可視状態に変更する。
「えっと……?本当だ技能に[伝言板]がある。メッセージ見せて」
「おー」
どことなくぎこちなくカイタがメニューを操作して[書状]の中のメッセージを開いた。
「なになに……?メッセージ五十通突破の報酬?あんたいつそんなに……あ、そうか。あんた『了解』ってメッセージ送ってきた後に、改めて違う話とかメッセージ入れてくるもんね」
「はっはっはー」
「何その変な笑い方。そ、れ、で?[伝言板]の機能は…… …… …… 結局の所ラインね」
「へ?」
「短文メッセージばっかり入れるから、ラインが使えるようになりましたって事よ」
「でも相手も持ってないと」
「[伝言板]の中に招待って機能があって、メッセージを承認しあってる相手なら、それで使えるようになるみたいね」
カイタから離れるラヴィ。
そして動かないでいるカイタに不信の目を向けつつ口を開いた。
「ほら、さっさと全員招待する!これは使える機能よ!」
「おー」
なんとなく疲れた表情をしたカイタが五人を招待し、全員が無事に[伝言板]を使えるようになった。
二人が店を出た時、赤い月は真上にあり時刻は三十五時を過ぎていた。
普段ならばそれほど人が歩いていない街路にも、今日はあらひと達が絶えず歩いている。そのほとんどの者が手に冊子を持っており、それはカイタも同じだった。
「まずは何をするの?」
「えっと……『増血剤』と、『矢車菊』と、『透水』を手に入れろって」
「ということはおつかい系なのかな」
「おつかい系?」
「最初の街歩きクエストたけど、パターン的には大きく三つに別れるみたいなのよ。おつかい系、謎解き系、依頼系。と言っても全部の要素が含まれてはいて、比重がどれが多いかってことみたい。とりあえず近くの道具屋に行ってみましょうか」
「おう」
ラヴィの指示に従って道を進むカイタ。
「ラヴィは何系だったんだ?」
「私は依頼系かな。おつかいもあったけど、どちらかというとその場で何かをすることが多かったから。その中で舞ったりしてたら技能の[舞踏]と、[細剣]が手に入ったわけだけど」
「司に聞いたけど」
「サツカね?ここ右」
「ん。サツカにも聞いてたけど、このクエストで得られるようになっているのかな」
「多分ね。それこそサツカや久美子みたいにいっぱい[技能]持って無かったから、恐らくは一定数までは救済処置じゃないのかしら」
「そういえばそんな話になったってサツカも言ってたな」
「そうそう」
「ところでさ」
「何?」
「くみさんってこっちでの名前何?」
「名前?クーンだけど?」
「さっきから久美子って言ってる」
「……!」
立ち止まるラヴィ。
数歩進んで振り返ったカイタをじっと睨む。
「え?俺そこでにらまれるの?」
「ここよ。道具屋」
カイタを見つめながら右にある建物を指差すラヴィ。
「お、おおう」
「間違えてたら直球で指摘しなさいよね。サツカみたいな指摘の仕方やめて」
そして少し頬を膨らませて先に店に入ろうとする。
「ほーい。ストレートに指摘すると逆ギレすることえるからなー」
微妙な返事以外は小声だったが聞こえたらしく、扉に手をかけたラヴィが振り返る。
「何か言った?」
「いえ!何でもありません!」
「まったく」
ラヴィは直立不動で敬礼をしたカイタを一瞥してから改めて扉を押す。その頬が少し膨らんでいるのを見て、カイタはニヤニヤしながらそれに続いた。




