02-02-02 異性の幼なじみ?
サツカが「謎解きゲームというより脱出系か。これをクリアしないと街の外に出られないわけだし」とぶつぶつ呟きながらも、街で一番高い時計塔から用水路沿いの赤い水車を探している頃、カイタはラヴィと合流していた。
「遅い!って言いたかったけど、そうでもなかったわね」
書状で連絡を取り合って落ち合った冒険者ギルドの出入り口。恐らくは大勢が出入りしているだろうからすぐに見つけられるか不安だったが、すぐに彼女を見つけられることができ、カイタはほっとしていた。
そしてカイタが彼女を見付けるより先に、キョロキョロと周りを見ている彼を見つけていたラヴィは、自分を見付けて駆け寄って来た彼に対して一回指を突きつけるが、すぐ戻して笑いかけている。
「お待たせ。……それは良かった」
前に一度遅刻してラヴィにかなり怒られた事のあるカイタは、心底ほっとしたように声をかけ、そっと呟く。同じマンションなんだからロビーで待ち合わせにすれば良かったのにと思いつつも、駅前の時計の前で怒られ続けたのは良い思い出、ではなく、彼にとっては理不尽な思い出になっていた。
「べ、別にそこまで待ってないわよ」
今回は怒ることもなく、笑いかけた自分に対してはにかむ程度は笑いかけてくれる幼なじみにほっとしつつ、周囲を見た。
「どうしたの?」
「いや、今日はナンパとか居ないんだなっておもって」
初見では性格のきつさが分からないため、現実世界で萌香が男に声をかけられる率はかなり高い。MMOの世界でならどれだけ目を引くかと思いきや、特に注目されてはいないようで安心しつつも不思議に思う。
「何言ってるのよ。カイタも[仮面]は作動させているでしょ?」
「お、そうだった」
自信の顔を周りからは違う顔に認識させる[仮面]。目の前にいる幼なじみが普段と何ら変わらない容姿であるためすっかり忘れていたカイタだったが、そういえばと思い出した。
「俺達がお互いが分かったのは、幼なじみのたまものだな。これならトクタも大丈夫で安心した」
「……そうね」
カイタは何故か目の前の幼なじみからどす黒いオーラを感じたような気がしたが、すぐに霧散したから気にしないことにした。どうせトクタが何かやらかしたんだろうとすら考えているほどである。
周りを見回せば美男美女が沢山いて、これなら仮面で抑えられているなら目立つこともないだろうと納得した。
「結局カイタは片手剣なのね」
腰にぶら下げられたら剣を見るラヴィを見るカイタ。その腰には鞘に入れられた剣がある。
「もえ」
「ラヴィ!私の名前はラヴィよ!」
「お、おう」
思わず本名を口にしようとしたカイタを制するラヴィの視線はつり上がっていた。
「ご、ごめんなさい」
カイタも通常のMMOであればこんなミスはしないが、目の前にいるのがあまりにも普段通りの幼なじみの為、思わず口にしてしまったのだ。
「ら、ラヴィは……」
「何よ」
そして普段名前で呼んでいる幼なじみをいきなり謎の名前で呼ぶという行為になんとなく躊躇したカイタを見て、彼女はため息を付いた。
「あーもう、ちょっと待って」
そしてメニューを出して操作する。
すると肩にかかるくらいだった焦げ茶色の髪が金髪になり、更に赤やピンクのメッシュが入った。
「こんなもんかな」
驚くカイタに対してドヤ顔をするラヴィ。
「金髪の私はラヴィ。それでどう?」
微笑みながらくるりと一回転するラヴィ。少し長くなった髪の毛と、ツーサイドアップにしているリボンが揺れた。その所作は舞いと呼ぶにも相応しいほどで、あまりいない金髪とあいまって、周囲の視線を集めてしまった。
「う、うん。じゃあ行こうか」
腰に手を当てて胸を張っているラヴィの左手を掴んで歩き出す。
「え、や、ちょっと!カイタ!?」
「どこか二人きりになれるところ知らない?」
「え?な、何、何?突然!?」
「いいから」
「そ、それそれそれならそこを右に」
「右だね」
ラヴィの手を引っ張ってずんずん歩いていくカイタ。
「金髪が好みだったの……?」
ラヴィの呟きはカイタの耳には届かなかった。
「何怒ってんだよ」
「べーつーにー」
個室のある飲食店に入った二人だったが、今は高い衝立で区切られたスペースのソファに二人並んで座っていた。二階の一番良い場所にあるその席からは、下の通りを歩く人を見下ろせるようになっていた。目の前のテーブルには細長いグラスとコーヒーカップが置かれている。
「あのままいたらまたナンパされたりしてたかもだぞ?」
「あーりーがーとーおーごーざーいーまーすー」
「まったく」
横でふてくされて肘掛けにもたれているラヴィ。それを横目に戸惑うカイタ。
「だいたい、そんな姿であんなことしたら視線集めるってことくらい分かってるだろ」
「わーかーりーまーせーんー。って、その姿であんなことって何よ」
「……分からないのか?」
「さっさと言いなさい」
じろっと自分を見るその視線に促され、カイタは口を開く。
「仮面を作動させているっていっても美人なのは多分変わらないから、まず顔。確かに周囲にも美女が何人も居たけど、それに負けてないだろうから安心しないこと。あと金髪」
一息入れ、コーヒーに口を付ける。そしてカップを持ったまま話を続ける。
「髪の色を変えたのは技能?アイテム?とりあえず今のところ髪の色を変えているのはほとんどいないみたいだから、目立つ。あとなんか一回転したやつ。そんな簡単な格好でも凄く綺麗だったから、周囲の男はもちろん女の子もこちらを見てる人が何人かいた。それも技能か何かか?基本見られることに慣れているだろうけど、当分はこちらの方が注意した方が良い」
カップをテーブルに戻して隣を向くと、姿勢良く座り直ししたラヴィがいた。
「……お?」
「ちょっそんな、突然綺麗とか世界で一番美人とか、男も女も視線を釘付けとか」
「いや、誰もそこまで言ってない……」
「カイタがそこまで言うならきをつけようかなー」
「ああ、うん、そうしてください。落ち着いたらパーティー勧誘とか交流好きも出てくるだろうし」
「はーい」
機嫌の良くなった幼なじみにげんなりしつつも、これで話が進むとほっとしたカイタだった。




