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02-01-04 カイタと賢者の石

「なっている?」


 猫の座るいすの前、床に直接座って話を聞く体勢になっている犬とぶた。丸い背中と尻尾が可愛い。


「ああ、つしおみの人達の間ではそう言われている」

「実際は違うのか?」

「ゲームなんだから、何かしらのルールがなあるのは当然だろ?ただ」


 猫が冷めた口調で続ける。


「そのルールに個人の隠しパラメーターが関わっているって事だろうな」

「隠しパラメーター?」

「ああ。おそらくは能力だけじゃなく技能の取得にも関わってるだろうな」

「何故そう思うんだ?」

「海藤……」


 あれ、かなり呆れられてる?


「最初から持ってる技能がある以上、個人の経験や性質、或いは体質なんかが隠しパラメーターとして設定されていると考えるのは当然だろ?」

「そりゃそうか」

「それじゃあ章太、能力を得る為のルールを解明するのは無理なのか?」

「いや?そうでもないさ。さっきの【剣豪】を持った人達でいうなら、何の技能を持っているか、どんな武技を使えるか、そしてこちらの世界でどんな経験があるか、これを調べればいいだけだ」


 猫の台詞に微動だにしない犬とぶた。


「そんな調査、僕はやらないけど」


 こてんと座ったままの姿勢で横に倒れる二匹。

 うん。今はそんな気分。


「それより海藤、魔力石の件だが」

「いやまて章太、その前に能力の件だ。お前は何の能力を持っているんだ?」

「ん?ああ、【図書館】だけど」

「図書館?」

「図書館?」


 おお。ハモった。

 それにしてもこいつらしいけど全く想像のできない能力がきたな。


「どんな能力なんだ?」

「行ったことのある図書館の本をどこでも読むことの出来る能力」

「お前らしいと言えばお前らしい能力だな」


 隣で犬が言っているので、とりあえず心の中で頷いているとぶたも頭を上下に振っている。

 お、頷いてる?と思ったら寝やがった。ここのキャラ自由すぎませんか?運営!


「戦闘には使えなそうだな」

「いや、拡張性は高いと考えている。ま、成長したらお楽しみだな」

「そうか」

「で、司は何の能力を得たんだ?」

「ああ、俺は【指揮】ってのがあった」

「指揮?」

「ほう」


 章太とはハモらなかった。

 そこは繰り返すとこじゃね?


「集団戦闘時に効果がありそうな能力名だな」

「多分そんな感じだ。少ないが前例はあるみたいだから、調べてみるつもり。チュートリアルで確認はしたけど、全部の効果は話されてない気がする」

「分かった。こちらでも調べてみよう。後で細かい内容をメールしてくれ」

「頼む」

「で、海藤は?」


 こっちにふってきたし。

 っていうか、絶対分かってるよな。猫の目が笑ってるし!


「装備以外無かった」

「そういえばさっき能力自体分かっていなかったくらいだからな」


 おー。むかつく。でも猫の目が可愛くなってる。チシャネコの目みたい?三日月型だ。


「といっても、それが普通だろう。最初から覚えていても成長を感じられなくてつまらない」

「お?」


 お?章太がフォロー?


「はらへどは個人のレベル表示が無いから、技能やギルドのランクを上げることで、目に見えやすい達成感を得るしかないからな。能力が追加されたりするのも成長として楽しめる」

「おー」


 だよなー。


「スタートダッシュには向かないだろうけど」

「おー」


 別にいいし。スタートダッシュしなくても。

 最初と今、この二つの「おー」の違いを分かってもらえると嬉しい。


「章太もあんまりいじめるな」

「それはこの後の話による」

「お?なんかあったか?」

「魔力石のことだ」


 そこにまだ引っかかってるのか。


「錬金術師の作った魔力石で、間違いは無いんだな?」

「ああ」

「それ、誰かに言ったか?」

「チュートリアルAIは知ってた」

「ほかの誰にも言わない方が良い。出来れば見せないようにもしろ」


 ?何その機密感。


「錬金術師が練習で作る石だって聞いたけど?」

「ああ、やっぱりな。尚更止めておけ。見せるのなら何か他の物と言った方が良い」

「章太、何を知ってるんだ?」

「古今東西、錬金術師と呼ばれる者はある一つの物を求める傾向にある。なんだか分かるだろ?」


 猫が真剣な顔で犬とぶたに話しかけてくる。

 章太がそこまで真剣?錬金術師?いやでも練習って言ってたよな?なんか聞きたくないかも?


「もしかして、賢者の石?」


 空気読め犬。


「そうだ」


 簡単に認めるな猫。


「で、でも練習って」

「そりゃ一発で作れる訳じゃない。何度も何度も練習して最高の物を造り、そしてそれを超える石を造り、更に超える石を造り……錬金術師はその繰り返しが一番の仕事とのことだ」

「い、いやでも」


 食い下がる!そんな重たい物いらない!いや、能力としては持っていたいけど、希少価値が高すぎる物はパス!


「通常賢者の石は、錬金術師が自分の魔力を固めてつくるらしい」

「はいきたこれ!」

「なんだ?」


 おお、猫が不機嫌まっくす。

 でもここで話しておけば不安を解消出来る!


「俺が貰ったのは魔石を加工して作ったって言ってた!だから違う!」

「……()()、自分の魔力を固めてつくるらしい。だが、そうやって作った賢者の石は自分や自分の魔力と性質が似ている人しか使えない。そこで、()()()、使えるように、()()を、加工して、つくる事が、増えているらしい」


 文節ごと区切って強調して言わなくても聞こえてるよ。ねーこー。


「まじかー」


 頭を抱えてくるくる回るぶた。

 くるくる回るのはデフォルトなんだなー。うん。現実逃避。


「ま、そうはいっても、気軽に渡されたのならそこまで純度の高いものでもないだろう。海藤は、賢者の石で何をして魔力操作を会得したんだ?」

「ただ持ってた。あー、三つもらったから、それをこう手のひらでくるくる回す感じ?」

「前に見た映画で胡桃回してた感じか?」

「おー、うん。あんな感じ」


 前に四人で見た映画を思い出す。トクタが開始三十分で寝てた。


「それだけで?」

「おー。なんかあの石が俺の魔力を少しずつ吸い取ってくれて、身体が、身体から魔力が出る感覚を覚えた。らしい」


 確かそんなことを言っていたような。


「なるほど。魔法師が魔力操作を覚えるやり方と似ているな。魔法師の方がもっと厳しいし面倒だが」

「章太はもうやったのか?」

「一回だけ。こちらに戻る前にでやらせて貰った」

「そっちが正式なやり方なのかな?」

「どうだろう。何を目指すのかにもよるかもしれないな。魔法師には魔法師の、錬金術師には錬金術師の、冒険者や騎士にはその職業なりのやり方があるかもしれない」


 猫が顔を擦りながら話す。明日は雨か?とか思わないと撫でたくなって危険だ。


「因みに魔法師はどんな方法なんだ?」

「まず魔法で生成した水に身体を浸けて、その中で更に水の魔法を使い、不純物の無い自分の魔力を帯びた『魔力水』を作る。後はそれにまた浸かったり、同じ事をして魔力水を作ったり、作った魔力水に両手を浸けて魔法をまた使ったり、足湯みたいにして足を浸けながら勉強をしたり、とのことだ」

「え?ってことは」

「ああ、魔力水を作ってきた。魔法師ギルドに魔力水を作る専用の施設があるんだ。その施設はギルドの会員以外でも有料だが使えるらしいから、司がやるならアルハイトの魔法師ギルドに言ってみると良い」

「んー」

「おー。なんかめんどくさそうな」


 まず水の魔法も使えなきゃいけないし、ハードル高そうだな。あ、でも初歩みたいだしそこら辺は作りやすいのか?


「海藤の持つ魔力石と違って自分専用だし、インベントリがあるから持ち歩いたり保管もそれほど苦でもないが、つしおみの人達は色々苦労して工夫しているみたいだな。ま、何よりいくら同性の魔法師が指導してくれているとはいえ、一人裸で魔法で水を作り続けるのは流石に恥ずかしかった」


 ん?

 



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