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02-01-03 カイタと魔法

「お?」


 こいつは何を言いたいのか。


「いや、なんか、すごく自然だったんだ」

「今のAIってあんなもんじゃないか?」

「いや、そうなんだけどさ」

「中の人でもいるとか?」

「可能性はないかな?」

「おー」


 確かに最初に出会ったラズロアをはじめ、ラギロダさんもグームも自然すぎてAIと会話してる風には思わなかった。でも微妙な違和感というか話の通じない所があったからそんなもんだと思うけど。


「チュートリアルだけで二千人以上が一度に来てて、九割以上がチュートリアルAIを利用したとして、更に受付とか街の人とかもいるんだよな?」

「だよな……いや、ごめん」

「王様とか超主要人物に中の人がいる可能性はなきにしもあらずだけど、流石に序盤でホイホイ出てはこないだろ」

「うん」

「何かあったのか?」

「いや、凄い会話が自然でさ、ボケとか突っ込みとかてんどんとか」

「……お笑い芸人の技能?」

「いらないなー」


 ぶたと犬が向かい合って笑いあう。

 俺と同様司も苦笑いを浮かべてるんだろうな。似たような技能が設定されていても驚かないと思って。効果は分からないけど。


「楽しそうだね」


 っと、誰だ?

 入室チャイム、鳴ったっけ。


「章太。お疲れ」

「おお、章太か」


 いつの間にか離れた丸イスに猫が丸まっている。

 正確には猫型デフォルメキャラなんだけど、なんか普通に猫っぽい。


「二人はどこまで進んだ?」


 こちらに寄ってくるでもなく、二匹みたいに踊るでもなく、丸まったまま話しかける猫。

 最初章太がこのキャラにしたときはイメージじゃなかったけど、今だと分かるあいつの性格の猫感。


「俺はチュートリアルが済んで弓の戦闘訓練が終わったところ」

「海藤は?」

「あ、俺はチュートリアルが終わって冒険者ギルドに登録したところだ」

「ん?遅くないか?ああ、また何かやったのか。何をやらかしたんだ?」


 俺が何かするのは確定なのかよ。今回は事実だから仕方ないけど。

 猫がイスから降りてこちらにやってくる。


「おー。それがだけどさ……」

「俺が説明するよ」


 どう説明すればいいのか悩んだところに司が出してくれた助け船。ラッキーと思いつつ任せる。いや、別にめんどくさいとか思ってないから。




「それは興味深いな」


 犬から俺と司の状況を聞いた可愛い猫が、ニヒルに言い放つ。

 違和感有りすぎて逆にハマってる、章太クオリティ。というか、猫が一番会話と動作に適合してる気がする。


「色々聞きたいところだけど、先ずは僕の状況を説明をしておこうか?」

「ああ、頼む。章太はどこからスタートなんだ?」

「僕は、『学術都市ザールガイド』に送られた」

「『学術都市』?」

「ああ。学園都市とでもいうのか、中央にでかい図書館を配置して、その周りを学校や研究所が囲んでいる面白いところだよ」

「章太らしい所にというか」

「あってる場所に行ったなと言うか」


 つまらなさそうに話す猫を、立ち尽くして見ている犬とぶた。


「そしてチュートリアルが終わった後、冒険者ギルドと魔法師ギルドに登録した」

「は?」

「え?」


 いきなりの発言にぶたと犬がフリーズする。


「二つのギルドに登録?」

「もう出来るのか?」


 司が先に復活したので、俺もなんとか質問する。しかも魔法師ギルドって。


「出来た。というよりも、冒険者ギルドで魔法師に魔法を習っていたら、教官の魔法師に勧められて登録だけした」

「章太、俺より何かやらかしてないか?」

「……失礼な。海藤じゃあるまいし」


 猫がギロリとぶたを見る。でも負けない、頑張れぶた!


「いや、お前のその言動の方が失礼だぞこら!さっきだって何かやらかしたって決めつけてたし!」

「僕は経験と実績からくる予測。海藤はただの妄想。まったく違うな」

「なら、俺が言う分には良いよな?なにをやったのかさっさと言おうか」


 毛を逆立てた猫とぶたの間に立つ犬。司ナイスだ!


「……司には言われてもしょうがない」


 猫が大人しく丸くなった。

 今度司に何を言えば大人しくなるか聞きたいところだけど、流石に教えてはくれないだろうな。


「でも、本当に何かをしたわけじゃない。その魔法師に気に入られたのは、公開されている魔法言詞を全部一発で覚えて使えたって事くらいだ」

「魔法ごんし?」

「いや、それ充分スゴいだろ」


 聞き慣れない言葉に反応した司と、ついさっき聞いた言葉に反応してしまった俺。そういえばそこら辺は「初歩の魔法を教わった」位にしか話してなかった。


「ん?海藤は魔法言詞を知っているのか。って、そうか。さっき言っていた初歩の魔法というのは公開されている魔法言詞のことか」

「チュートリアルの前に会った奴に教わったんだよ。結局使えたのは『火の球、飛べ』だけだけど。あ、でもその時に色々教わって、魔力操作も少しは出来るようになった」


 踊り始めたぶたをギロッと見る猫。

 ……あれ?


「それは、技能としても覚えたって事だよな。僕はまだ[魔力操作]は覚えてない」


 あ、気にしてる。

 立ち上がろうとする猫の手を掴む犬。


「司、手、離して」

「いやいやまだ聞きたいことあるし。その魔法ごんしとか?魔法師ギルドのこととか?」

「魔法言詞に関しては、冒険者ギルドで教えてくれる。魔法師ギルドは入るつもりがなければ関係ない。だから」

「その魔力操作ってのを、カイタがどうやって覚えたのか聞かなくて良いのか!?」

「!」


 猫が立ち上がろうとするのを止め、ちらりとぶたを見た。


「どうやって覚えた?」

「あ、いや、魔力石ってのを貰って」

「魔力石?」


 猫がイスに座り直すのを確認して、犬がその横でくるくる回り始める。


「ああ。錬金術師が練習でつくるとか言ってたけど」

「錬金術師の作る魔力石か。まだ魔法師の事しか調べていないからな。迂闊だった。だが、それで魔力操作を覚えることが出来るのか」

「いや、この短時間で今の話で通じるくらいまで調べた時点でやっちまってると、思うけど」

「教官の魔法師がそれなりに高位な魔法師で、図書館への立ち入りを許可してくれたんだ。本は知識を与えてくれる。因みに通常図書館への出入りは、どこかのギルドで実績を積んでからってことらしい」

「何故そこまで気に入ってもらえたんだ?」

「……おそらくだが、僕の能力をあの人は知っている。だからだと」

「能力って?」

「カイタ、お前【装備】の数字は?」

「へ?なんで?突然。えっと……確か三十」

「結構多いな」

「で、何だ、能力って。技能とは違うんだっけ?」

「チュートリアルAIがちゃんと説明してくれただろ?」

「おー?」

「はぁ」

「はぁ」


 犬と猫が同時にため息付いた。

 しょうがないじゃん。あのおっさん怖くてあんまり質問できなかったし。

 最悪、司か章太に聞けばいいって思ってるのもあるけどさ。


「メニューの中で、技能の上が能力。そこに【装備】があるから覚えてるのかと思ったんだが」

「もう忘れない」


 ぶたが胸を張ってる。可愛い。

 犬と猫の反応は見ないようにする。


「それで、能力と技能はどう違うんだ?」

「え?」

「え?って……」


 犬が呆然としてる。つまり、司も分かってないのか。なら章太は?


「猫ぉ……」


 猫寝てるし。超寝てるし。可愛いけど。


「技能は意識して覚えることの出来るもの。能力は個人の持つ資質と、それに対応した技能によって発現するもの」


 でも声は聞こえてきた。つまり寝るくらい簡単って事か?


「例えば片手剣を極めて、それに伴った体術や、大剣といった剣関係の技能も得ると、【剣豪】という能力を得る者が希にいる」

「希にいる?」

「そう。技能はある程度得る方法が確立されているけれど、能力は分かっていない。ということになっている」


 

 





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