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02-01-02 カイタもサークルに行く

 目を開けると、真っ暗だった。

 一瞬動揺したけれど、徐々に明るくなったのでほっとした。そういえば目を慣らすためにとかなんとか聞いた覚えがある。

 視界の隅に緑のランプが点り、首回りに付けていたストラップが緩くなるのを待ってから、ヘルメットを外した。


「えっと……なんだっけ。そっか、ヘッドギアだ」


 正式名称を言わないとバカにする奴が一人いるので、忘れないようにしないと。


「男連中は気にしないんだけどな」


 起きるとまずは枕元に置いておいたタブレットを手にしてメールを確認するのは既に習慣。


「向こうから送るとこんな感じなのか」


 自分宛に送ったメールがちゃんと来ていることを確認してから、とりあえず来ているメールの送り主を確認。


「確認しなきゃなのは……萌香の四通、トクタの一通、後は司か。とにかく司からのを見て……と、サークルにまだいるのか。じゃあ行ってみるか」


 司から来ていた一通だけ見てみると、サークルで会おうって事と、繋がる時間が書いてあった。

 タブレットの時間表示で確認するとまだ余裕はあったけれど、待たせるのも悪いから机の上のモノクル型デバイスを装着する。

 左耳から左目を覆うような片側ゴーグルのような形で、買ったときは格好いいと思ったけど、二年経った今は微妙だ。


「次は普通に眼鏡型かな。最新のはデバイスと区別付かないくらいに自然だし。でもカタシロにお金使うからなー」


 新しいデバイスのことを考えつつタブレットを操作すると、目の前にAR空間が広がった。


「あれ。早かったね」


 丸イスに座っている犬のデフォルメキャラがこちらを向く。


「もっと遅いかと思った」

「待たせた?」

「いや、さっきまでトクタがいて、バカな事を話してたし。勝手に待ってただけだから気にしなくて良いよ」


 俺の使うデフォルメキャラ、ピンクのぶたがとてとて歩いていき、犬の隣の丸イスに座る。


「お疲れ様」

「さっき中で萌香に会ったんだけどさ」

「中って、はらへどで?アルハイト?」

「あ、うん。ギルドで」

「へー!すごい偶然だ」

「いきなり殴られた」

「またなんで」


 犬の頭にクエスチョンマークが飛んでる。

 あ、びっくりマークに変わった。


「ああ、そっか。注意されたんだ」

「うん」

「因みに今頭に付いたのはエクスクラメーションマークだよ?」


 良いじゃんびっくりマークで。覚えるけどさ。


「てかさ、何で知ってる?俺がチュートリアル前にドタバタしてたこと」

「了解。話すよ」


 司とは中学からのつき合いだけど、頭の良いお坊ちゃんなのに俺達のアホ話にもちゃんと付き合える楽しい奴。話も二人だとサクサク進んで小気味良い。

 トクタは幼なじみとして別格としても、一番仲の良い奴だと思う。ま、親友っていうやつかな。照れくさくて本人には言わないし言えないけど。

 でも一個難点があって……。


「それ、話しちゃったのか」


 俺達六人グループの中での内緒話を外に出すことはしないけど、逆に六人の中では結構喋る。

 勿論黙っていてくれと頼めば言わないし、本気でヤバそうなことも言わないとは思うけど。


「トクタと章太は良いとして、くみさんも良いけどな萌香がなー」

「それさ、俺に宇佐木さんにだけ言わないという選択肢をとれってことだけど?」

「無理だな」

「うん。無理」


 力無く笑っているぶたと犬。

 それでも何故か腰を振りながら手を波のように動かす……ハワイのアロハ?ダンス?みたいな奴を踊るデフォルメキャラ二匹。

 ま、いっか。


「できれば全員に言わないという選択肢を選んでほしかったけど」

「あ、それはもっと無理」

「ですよねー。で、俺ってそんなにヤバい状況?」

「目は付けられたね」

「そっか……ごめん」

「何が?」

「いや、だって俺のせいでお前も目を付けられただろ?」

「いや、そんなこと……分かっちゃった?」

「分かるよ」

「んー。ゲームだし。別にね」

「ほんと、すまん」


 踊っていたぶたが止まり、犬に向かって土下座する。

 いや、気持ち的にはそうだけど、そこまではしなくても。犬は踊ってるし。


「でも、一人より二人だし、二人より四人で、きっと六人だよ」

「……それはつまり全員巻き込むと?」

「俺にそのつもりが無くても首を突っ込む二人と、その状況を見て嬉々としてやってくる一人と、俺が巻き込む一人」


 犬の向こうに司の笑顔が見えるのは、妄想だけど間違いではきっとない。


「トクタと萌香が首を突っ込んできて、くみさんが真顔で場をかき乱し、司と章太がどうにかしてくれる、いつものパターンか」

「一番最初の、カイタが事件を起こしてってのが抜けてるよ」

「言わなくても皆分かってるから大丈夫。それに問題を起こすのはトクタと萌香もだしだ」


 画面上では犬とぶたが手を取り合ってくるくると踊ってるし。


「あ、そうだ。宇佐木さんから聞いてないよね?はじまりの街が一つじゃないこと」

「へ?」

「俺たちのいるアルハイトだけじゃないらしい。というか、来島さんが違う街にいる」

「マジで!?」

「マジで。来島さん曰わく、武器を薙刀に設定したからじゃないかだって」

「というと?」

「街が和風らしい」

「へー!」

「多分だけど、刀とか選んでもその街スタートなんじゃないのかなって話しになった。トクタがちょっと残念がってたよ」

「刀かー。その街に行けば練習出来るのかな?」

「あれ?カイタも刀が良かった?」

「いや?別に。でも刀もこっちでは振る事とかなさそうだし、気にはなるかな。あ、でも司も和弓なんだよな?でもアルハイトなんだ」

「多分和弓って武器は無いっぽい。大弓と短弓の区別があるくらいだね」

「大きさ?形的には弓とアーチェリーの違い?」

「んー。ま、そんな感じ」


 犬が弓を引く動作をする。

 可愛い。

 中身が司でも、デフォルメキャラは可愛いが正義。

 俺のぶたちゃんも負けてないけど。


「それにしてもサーバーが一個で始まりの街が複数ってのは凄いな。トクタと章太もアルハイト?」

「トクタはアルハイト。章太はまだ連絡無し」

「お?珍しいな。結構律儀なのに」

「多分だけど、ハマって考察しまくってると思う」

「あはは」

「笑い事じゃないよ。またおばさんが怒るのが目に見える」

「はらへどは時間制限があるから大丈夫だろ?」

「……だと良いけど」


 うなだれる犬。

 年の同じ従兄弟ってのも大変だな。主に家族つき合いが。


「それにしても、アルハイトで始めた奴とその街で始めた奴で差が付くと大変だし、かといって同じクエスト入れても不満は出るだろうし、大丈夫なのかな運営」


 話を元に戻すか。


「アルハイトスタートがイージーモードか通常スタート、他の街がハードモードか特殊スタート。で、カイタがユニークスタートって事で」

「……やめてくれ」


 ぐー。絶対ニヤニヤ笑ってる!

 犬は相変わらずぶたとグルグル回ってるだけだけど俺には分かる!


「なあ」

「お?」

「チュートリアルAIとか他のキャラクター、本当にAIだと思うか?」


 なんだか重い声で聞いてきたよ。

 何だって言うんだ?

 この男は何を言い出すんだ?







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