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01-05-01 同級生

 ベッドに横たわっていたサツカ、いや本城司は、ゆっくりと起き上がった。

 そして被っていたヘッドギアを外す。

 そして両手首と両足首に付けているバンドは外さないまま足を下ろし、ベッドに座った。

 俯いている視界に映るのは両膝とその上においた両手のひら。

 ゆっくりと手を握り、そして開く。


「僕はひとり……なんだけどな」


 呟きは、誰にも届かなかった。





 机の上の小型タブレットが青い光を点滅させていることに気付き手に取る。

 届いているメッセージは五件。

 一件は自身がはらへどから送ったメール。残り四件は友人からのメッセージで、一番古い物でも四十分前だった。


「サークルにいるから、か。解散メッセージが来てないって事は、まだいるのかな」


 タブレットを操作しながら机の上の黒縁眼鏡をかける。

 司は目が悪いわけではなくそれは眼鏡型のARデバイスであり、タブレットを操作して眼鏡のレンズ越しに友人達と使っている会議室を映し出した。


「お疲れ様」

「あ、やっと来た」

「本城君。お疲れ様」

「司、おつかれー」


 端末のマイクに向かって話しかけると、スピーカーから友人達の声が聞こえてきた。




 AR拡張空間無料会議室。

 一般的にはサークルと呼ばれているそのサービスは、大きさによって入る人数の変わる空間に、離れた場所からARで集合できるサービスである。

 自分そっくりのアバターを設定することも出来るが、仲間達は常に三頭身キャラクターを使用していた。


「遅い」


 白い兎型のデフォルメキャラ。


「どこまで進めたんだ?」


 長い黒髪の狐型デフォルメキャラ。


「すげーな!あれ!」


 虎型デフォルメキャラ。

 中央に背もたれのない丸いイスが円形に配置されており、そこに座っている三体のデフォルメキャラ。

 司の視線の先では自分の代わりである犬型のデフォルメキャラがとてとてと歩いていき、イスに座ったのを確認した。


「何話してたんだ?」


 それぞれに別のことを口にする四人。


「どこまで進めたかと、今自分がいる場所の話しよ」


 一番キツい口調のウサギが律儀に説明を始める。


「私とトクタがアルハイトで街歩きクエストを始めたところ。内容を覚えている限りで照らし合わせたけど、協力は出来なさそう。それより問題は久美子よ」

「というと?」


 狐がそっと横を向く。


「基本武器を薙刀にしたら、スタートが和風の城下町だった。江戸村みたいな」

「え?」

「江戸っぽい雰囲気の、和風の街からスタートだってさ。俺も刀が選べたらそこからスタートだったのかな」

「始まりの街って一つじゃなかったのか」


 狐のフォローを虎が行い、司の分身である犬が悩むような仕草をすると、兎が話しかけた。


「どうもそうみたいね。そこで久美子はクエストの前に戦闘訓練をやって終わらせたって話してたところ。で、本城は?」

「俺もアルハイトだよ。今は弓の修練が終わって技能を覚えたところ」

「おや。弓の技能を持っていなかったのか?」

「[弓術]は持ってたんだけど、[射術]が無かったんだよ。まさか弓だけで二種類あるとは思わなかった。来島は薙刀の技能はどうだった?」


 会話が進むとデフォルメキャラは自由に身振り手振りを始めており、話す内容と乖離するのはいつものことなので四人ともデフォルメキャラの動きを気にしなくなった。


「私は[薙刀]は持っていた。あと[体術]だな。合気道が無かったから、おそらくそこに含まれたんだと思う」

「ああ、なるほど。二人は?」

「あいにくと武術なんて習ってないわよ」

「俺も。[俊足]と[柔術]はあったけど、剣は無し」

「週一の授業でもやってれば技能に出るんだな。俺も[柔術]持ってた」

「武道の授業、剣道にしておけばよかったか」

「ずるいわね」

「いや、ずるいと言われても。その時間はそっちはダンスと調理実習だったよな?宇佐木はなにか持ってなかったのか?」

「司、チャレンジャーだな」

「司君は、時たま抜けているな」

「二人ともうるさい」

「あ、……そうだった。ごめん」

「謝られるとムカツクんだけど」

「ははは」

「中三の時のあのカレーは伝説だよな」

「今更ながら、なぜああなったのかは謎だ」

「二人ともうるさいわよ」

「ははは。トクタと宇佐木さんは武器何にしたんだっけ」

「俺は片手剣。盾無しの速攻突撃系志望」

「私も片手剣。ただ派生?で[細剣]ってのを覚えたから、普通の片手剣よりも細身の剣を探してるところ」

「下手したら俺より突撃系だぜ、こいつ。猪突猛進キャラ決定だな」

「うるさいわね。街歩きしてる最中に、いろんな人に話しかけられては色々やらされて、棒振ったり踊ったりしてるうちになんか覚えたのよ」

「萌香はそういう謎の運があるな」

「知らないわよ」

「俺はまだ全然進んでないけど、進んだらなんか覚えるのかな」

「あ、でももしかしたら」

「どうした?」

「いや、最初に病院で受けた調査と設定で技能とか決まったみたいだけど、多分スタートの時点で技能を持つ量って差があると思うんだよ」

「その設定ならそうだろうな」

「うむ」

「でしょうね」

「だから、技能があまり持てなかった人には救済処置というか、技能取得のクエストが与えられてるのかなって思った」

「可能性はあるかもしれんな」

「でも、久美子と本城はまだクエストやってないんでしょ?」

「ああ」

「うむ」

「ならまずはそっち待ちね」

「そうだな」

「本城君はこれからすぐ?」

「戻ってきてまだ三十分も経ってないし、ちょっと休んでからかな。来島は?」

「私はそれなりに休んだのでそろそろ行こうかと思うが、タイミング的に向こうが夜だとすぐ戻る事になるから調べてだな」

「そっか、そろそろ向こうは夜?」

「まだ大丈夫だと思うが、一度計算してみないと」

「多分あと一時間か二時間で夕方だと思う」

「そういえば、あっちのカレンダーがどうなってるかしらねーや。こっちの一時間が二時間なのは知ってっけど」

「えっとね、一日が四十八時間。深夜の十二時が一日の始まりなのはこちらの時間と同じで、こちらの二十四時間と向こうの四十八時間が重なる感じね。二十四時間ごとに青い月と赤い月が空にのぼり、一日は青い月で始まって、赤い月で終わる。八時間事に昼と夜が繰り返してるみたい。ずアルハイトでは、基本的に街の人は八時間事に起きたり寝たりしてるけど、冒険者はもちろん騎士も気にせず起きたり寝たりしてるから、それを相手にする飲食店や道具屋、武器屋なんかはそれぞれに決まった形で店をやったり休んだりしてるみたいね。って、なによ」

くるくる回って踊る白兎。

それをボーっと見つめる三匹。

「あ、いや」

「萌香、もうそこまで調べたのか?」

「宇佐木さん、凄いね」

「違うの!一番最初に行った宿のおばちゃんがすごいの!ホントにお喋りだし、街のことで知らないことはないんじゃないだろうかってほどの情報通なのよ!」

「いや、別にそこまで焦らなくても良いと思うけど」

「素直にすげーなって思っただけだから気にするな」

「別に気にしたわけじゃないけど、画面越しになんか引かれた気がしたのよ」

「この中では萌花が一番このゲームに乗り気じゃなかったように見えたからな、それで少し驚いた」

「まあね。今でもそんなに……だけど」


 思わず会話が止まる四人。

 三人が心の中で「どの口がそんなことを」と思っているのは明白だった。


「何よ」


 会話が止まったことにより、兎が台詞に合わせて目をつり上げた。


「いや、別に」

「なんでもない」

「気にするな」


 犬、狐、虎と順に兎の顔が向いたため、それぞれが心のこもっていない一言を告げた。




 


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