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01-03-07 武技と魔法

 カリネラの独演会は続く。


「ああ!どうしよう!彼になんと言えば!」

「だから普通に言ってください!」

「期待させるようなことをいい、普通ならばやらないような特訓をさせてしまった私はなんと彼に言えば!ああ!どうしよう!」

「普通に言って、普通に謝罪なり釈明するなりすればいいでしょう!」

「ああ!どうすれば!」

「というかちゃんと説明してください!」

「ああ、どうしよう!武技は技能の力に自身の魔力を加えることにより生まれる武の技!だから魔法を使ったことのない、魔力操作のまだできていない彼が出きるわけがないのに!ああ!どうしよう!」

「本当に大事なこと忘れてましたね!」

「ああ!どうしよう!」


 カリネラの独り舞台はまだ続いているが、結局「ああどうしよう」しか言わなくなってきていた為、立ち上がって身繕いを始めた。


「ああ!どうしよう!」

「もうどうしようもこうしようも」

「ああ!」


 手を大きく広げて空を仰ぎ見ていたと思ったら両手で顔を覆い、いやいやをするように頭を振ったと思ったらうずくまり、手の隙間からサツカをちらちらと見ている。


「まったく……あ、そうだ。魔法って、誰でも使えるんですか?」


 どうせならとサツカが質問をする。


「ああ!魔法自体はおそらく誰でも使える!かといって私が魔法を教えることなどできない!」


 立ちあがり、また空を仰ぎながら答えるカリネラ。


「あ、出来ないんだ」

「いくつかの魔法言詞が公開されているとはいえ、魔法師でも錬金術師でもない、魔法使いですらない私が教えることなど出来ない!」


 言いながら悲しそうに首を振って肩を落とす。


「錬金術師!いるんだ!」

「ああ!どうしよう!基本的に魔法は誰もが使える!けれど公開されていない魔法や特殊な魔法を使えるようになるにはちゃんとした魔法師に師事しなければ無理だ!」

「色々あるんですね」

「私が教えることによって彼の可能性を潰すことなんてこと、出来ない!」

「……カリネラさん」

「ああ!どうしよう!」


 なんとなく自分が何を言えばカリネラがこれを止めるか分かってきたサツカが口を開こうしたが、その前にカリネラが叫んだ。


「ああ!今度こそ!今度こそ!」

「?」

「今度こそ!彼は私の体を!」

「その方向は止めて下さい!」


 自分の体を抱きしめるカリネラ。


「あの欲望に塗れた目で私を見ていた彼ならば!」

「見てません!誤解されるようなことを言わないで下さい!風評被害が起きますから!」

「あらひととはいえ若い男!しかも冒険者!欲望と性欲の権化なのは変わらないはず!」

「その思いこみも止めた方がいいですよ!」


 後ろを向いたまま形のよいお尻を突き出し、くねくねと身悶えるカリネラ。後ろに下がって距離をとるサツカ。


「こんな仕打ちをしてしまった私だ!その代償として彼の欲望に身を任せるしかないのか!」

「誰の欲望ですか!」

「ああ!どうしよう!」

「あー、もう、分かりましたから」


 しゃべるのを止め、後ろを向いて両手で顔を隠した状態で動きを止めるカリネラ。


「怒りませんからちゃんと話して下さい」


 両手を組み、良い姿勢で空を見るカリネラ。


「うむ。一人でうじうじしていても仕方ない、ちゃんと謝ろう」


 大きな声で聞こえるように呟いてから、カリネラがゆっくりと振り向く。


「サツカ」

「はい」

「そういうわけで武技を覚えるわけがなかった。すまない」

「そういうわけでとか言っちゃうんだ!」


 頭を下げたカリネラと、別のことを気にしたサツカだった。





「つまり、武技とは魔力を使った技で、魔力操作が出来ていないと、つまり技能[魔力操作]を持ってないと覚えない訳ですか?」

「いや、[魔力操作]に関しては、そういう訳でもない」

「というと?」

「公開されている魔法言詞を使える程度の冒険者が武技を使える例は数えるほどあるし、そんな者達が魔法よりも武技を使い続けるうちに[魔力操作]を覚えた事もいくつか報告されている。これは報告した者だけの話だから、実際はもっといるだろうな」

「技能は冒険者の命綱」

「そういうことだ。ま、冒険者だけの話ではないが」


 柵に寄りかかりながら話し始めた二人。

 あのあとしっかりとカリネラが謝罪をし、サツカは特に問題なく許したが、知っている限りを教えてもらえるように頼んだ結果、今の状態になっている。


「その、魔法ごんしとか、公開されているってのは?」

「……さわりだけで良いか?本来なら体系付けて説明できる者に教わった方が良いのだが」

「そんなに変わるものなんですか?」


 柵に寄りかかると言うことで、二人は隣にはいるが基本的に顔を見合ってはいない。話すときに互いの方を向きはするが、基本的には修練場の中央に鎮座した巻き藁人形を二人とも見ながら会話していた。


「私が師事した魔導師がそういう考えの持ち主でな、師匠が言うには、私は使う分には問題ないが、感覚に頼りすぎていて人に教えるのは止めた方がよいと言われている」

「なるほど」

「どうしてもと言うなら教えるが」

「いえ、それならば止めておきます」

「すまないな」

「頭を下げるようなことではないですよ。上げて下さい」


 サツカに向かって頭を下げるカリネラ。

 こういうところはちゃんとしているのに何故あんな事をするのか、サツカは本当に不思議に思いつつ会話を続けた。


「他にも聞きたい事があるんですが」

「早く[射術]を覚えたから時間もまだ大丈夫だ。教えても問題ないことならば答えるぞ」

「お願いします」


 硬い表情で話すカリネラに苦笑いをするサツカ。


「えっとそれでは、会話に出てきた魔法使い、魔法師、錬金術師、魔導師というのはどう違うんですか?」

「ふむ。それぐらいならば大丈夫であろう」


 それぐらいならと表情を緩めたカリネラ。

 そして説明を始めた。



「……こんな感じですか?」


魔法使い

 戦闘の基本スタイルが魔法の者。魔法師用の武器である本や魔杖以外にも武器を装備している者もいるが、基本的に魔法で戦う者を自己申告や周囲からの評価で魔法使いと呼んでいる。逆に魔法をつかう剣士や拳士もいるが、補助程度であれば魔法使いとは呼ばれないし、自分のことをそう呼ぶこともない。


魔法師

 魔法を研究し、新しい魔法や使い方を模索している者。基本的に魔法ギルドに入っている者の中をそう呼ぶが、冒険者ギルドと魔法ギルドは両方に入ることができるため、冒険者の時は魔法使い、魔法ギルドでは魔法師と使い分ける者もいる。


錬金術師

 魔物から採取出来る魔石を使って魔道具や魔導具を作る者のこと。基本的には錬金術ギルドに入っている者を呼ぶが、魔道具販売をしている者の中にはギルドに入らず魔道具の作製や修理を行っている者もおり、そういった者達も錬金術師と呼ばれる。


魔導師

 魔法と錬金術の両方に精通した者をそう呼ぶ。その困難さにより人数は少ない。特に魔導具に精通していることがほとんど。


 あまり要領の得ないカリネラの説明を解き、カリネラの持っていた紙にまとめたサツカ。


「うむ。そうだな。間違ってないはずだ」


 心の中で「はずなんだ……」と呟いたサツカだったが、顔には出さないほどに体力と精神は回復していた。


「ありがとうございます」


 本当は魔道具と魔導具の違いも聞きたがったが、なんとなく予想できるのと少し疲れたので切り上げる。

 そして整理した用紙を自分のインベントリにしまおうとすると、横から「あっ」という声が聞こえた。


「えっと、その紙は……」

「……清書したのを渡しますからもう一枚いただけますか?」

「……頼む」


 すまなそうに紙を取り出すカリネラ。サツカはそれを見ながら面白く思いつつも、少しだけ不機嫌な顔をして新しい紙を受け取った。




 





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