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01-03-02 ギルドカードと駒札

「んー。なるほど」


 アイクの説明を聞いていたサツカは、少し唸りながら納得の言葉をもらす。


「どうかなさいましたか?」


 それを見たアイクが少し眉をひそめて問いかけた。

「いや、この数字はギルドだけの評価だけど、冒険者を選別する指標でもあるわけですよね」

「左様でございますね」

「あと、ギルドカードは身分証明書でもあるわけですよね?」

「はい。街の出入りには身分証明書は必須ですので、この世界で生まれていない皆様には重要なものかと」

「個人情報の固まりって事ですよね?」

「なるほど。そこを気にされているのですか。チュートリアル中も思っていましたが変なことにもお気付きになられますね」


 感心したように言うアイクだったが、言われたサツカは逆に眉をひそめた。


「それ、誉めてないですから」

「見解の相違でございますね。難しいです」


 微笑むアイクとぎこちない笑みを見せるサツカ。


「説明が遅くなりました。丁度出来上がりましたので」


 机の上に置いてあった箱を開けるアイク。

 そこにはキャッシュカードよりも少し大きい位のサイズの銀色のカードと、サイズはその三分の一程で少し厚みのあるこちらも銀色のカード。そして銀のチェーンが入っていた。


「こちらが冒険者ギルドのギルドカードと、身分証明書の変わりとなる駒札です」

「こまふだ?」


 アイクは説明をしながら小さい方のカード、駒札を手に取って、短辺の片側に空けてある穴にチェーンを通していた。


「はい。駒札です。どうぞ」

「あ、は、はい」


 チェーンの付いた札とギルドカードを手にするサツカ。

 ギルドカードには自分の名前と紙の文字。

 そしてアルハイト中央と記載されている。


「ギルドカードにはお名前と正式なランク。あと依頼を受けているときは依頼番号が記載され、操作することにより内容を再確認出来るようになっております」

「はい」

「そして駒札はギルドカードの一部代わりが出来ますです。表に名前と数字無しのランクを表示してあり、街の出入りはこちらで充分です。ギルドカードはインベントリにしまうなどして、駒札は常に首にかけるなどしてすぐ出せるようにしておくのが宜しいかと」

「つまり、簡易版ギルドカードということですか?」


 しゃべりながら駒札を首にかける。チェーンの長さは充分余裕があったため、難なくかけることが出来た。


「そう考えていただいて問題ありません」


 サツカが駒札を見てみると、そこには自分の名前と紙と刻まれており、裏側にはアルハイト中央と刻まれていた。


「ランク表示は数字は記載されません。また、ギルドカードを更新するときに、新しいものと交換します」

「こちらは更新ではないのですね」

「はい。掘っておりますので」

「なるほど」


 ギルドカードと駒札を見比べる為に顔に近づけるサツカ。

 よく見るとギルドカードは中から浮き上がるかのように文字が出ていた。


「冒険者ギルドに来られた際はギルドカードを中央受付でお出し下さい。本日の受付番号を入れさせていただきます」


 右手を差し出したアイク。

 サツカは一瞬考えた後に、その掌にギルドカードを乗せた。


「お預かりいたします」


 受け取ったアイクは微笑みながらカードを机の上に置くと、コードにつながれたペンを使ってカードの上に一、五、三、二、と書いた。


「今からギルドカードが受付票となりますので、ご注意下さい」


 彼女はギルドカードを持った右手に左手を添えてサツカにカードを差し出した。


「わかりました」


 サツカはカードを受け取り、無言で出したインベントリにしまう。

 アイクはその姿を黙って見ていたが、サツカがインベントリを閉じたのを見てから口を開いた。


「先程申し上げました通り、ランクが紙では街の外に出られません。ですので、ほとんどの方は街に繰り出して石に上がるためにクエストを始めています」

「ん?あ、ああ。それで今は武器の訓練が空いているって事ですか?」

「はい。特にサツカ様が主な武器に設定されている大弓は使用者も少ないので、今ならすぐに受講出来ると思われます。短剣は少しお待ちいただくかもしれませんが、予約を入れておいていただければ大弓の受講後に合わせることも出来そうです」

「そうですか」

「いかがなさいますか?」


 斜め前に出したウインドウを操作しながら話していたアイクだったが、途中で目の前のサツカに視線を向けていた。

 その表情はサツカが今の席に座ってからは一番真剣な表情に見える。


「時間はどれくらいかかりますか?」

「最短で五十分、かかっても一時間半くらいでしょうか。一緒に受講する人数は、一人から多くても五人程度です」

「それでは、とりあえず大弓だけ受講します。終わり次第クエストを始めようと思うのですが、クエストの受注も済ませることは可能ですか」

「はい。可能でございます」


 アイクが笑顔でうなずき、画面を操作し始めた。


「それでは大弓講習の予約を入れさせていただきます。その後、クエストの受注処理をさせていただきます」

「よろしく」

「申し訳ありません。再度ギルドカードをお願いします」

「ん?あ、はい」


 アイクに指示されて、ギルドカードを出すサツカ。

 もちろんわざわざインベントリを開いたりはせず、思考のみで右手で持つように出現させていた。


「こちらにお願いします」


 そしてアイクもそれに驚くようなことはせず、黙って細長い板を差し出す。

 サツカは少しつまらなそうな表情をしつつも黙ってカードをその上に置いた。

 サツカが指を離した瞬間、カード全体が柔らかい光を一瞬放つ。


「これで受注完了です。カードの裏に出ている依頼名か番号を触っていただければ、依頼の詳細を確認できます」

「ありがとう」

「こちらが本ギルドの案内図です。お持ち下さい」


 見るからに質の悪い紙、そういえば入会用紙はツルツルのきれいな紙だったなと思いながら、サツカは差し出された紙を手に取ろうとした。


「現在地がこちらです」


 サツカが紙を持ち上げる前に、アイクは指をさして説明を始めた為、そのまま話を聞く。


「大弓の教習はこちら、三十七で受け付けております。受付にギルドカードと書かれた小さなを台がありますので、そこにギルドカードを当てて下さい」


 アイクが指を戻したのを見てからサツカは紙を手に取った。


「はい。ありがとうございます」


 礼を言いつつ受け取ると、見た目通りざらざらとした紙の質感に苦笑しかけた時に、何故か唐突に今自分がどこにいるか思い出したため、紙をゆっくりと触った。


「(ざらざらしている。こんな質感まで再現出来ているんだな)」


 入会用の紙をもっとちゃんと触っておくんだったと思いつつ、紙を手にしたままサツカはアイクを見た。


「これはいただいて宜しいものですか?それとも大弓の受付で戻すものですか?」

「こちらはお持ち下さい。入会時に皆様にお渡ししておりますものですので。本ギルドはとても広く少し複雑ですので最初のうちは迷う方が多くいらっしゃったため、この様な物を渡させていただいております。渡したことはギルドカードに記録してありますので、二枚目以降もし必要な場合は、ご購入下さい。また、そちらには大志館への入口も記載されております」

「!」


 改めて紙を見るサツカ。

 紙には冒険者ギルドの一階と二階の見取り図が画かれており、一回部分には確かに大志館の文字があった。


「一度出て、外から入れる大志館専用の入口もございますが、冒険者ギルドでご用事を済ませた後来られる場合はこの扉をご利用下さい。また、どちらの入口もギルドカードを使用しませんと入れませんのでご注意下さい」

「……はい。分かりました」

「さて、他には何かございますでしょうか」


 にっこりと、あからさまな営業用笑顔でサツカを見るアイク。


「いや、大丈夫です」

「本日はご利用、ありがとうございます」


 座ったままお辞儀をするアイク。

 同時に立ち上がったサツカだが、顔を上げたアイクの顔を見て顔をしかめて動きを止めた。


「なんだよ……なにか?」

「いえ、もしお時間に余裕があるようでしたら、教習の後は一度《転移》にて戻られて休まれた方が宜しいかもしれません」

「……それは何故?」

「初めての転移で、色々とお疲れだと思いますので」


 にっこりと、今度は営業用とは違った笑みを見せたアイク。


「ご忠告ありがとう……心に留めておきます」


 表情で「疲れた理由の半分以上はお前のせいだけどな!」と告げながらも礼を言うサツカ。しかしアイクはどこ吹く風で話を続けた。


「それとですが、宜しいでしょうか」


 声をひそめたアイクにあわせてサツカが顔を近づける。


「私も[化粧]の技能は持っておりますが、サツカ様のタイプはチュートリアル空間のアイクのみ分かっているだけですので、ご安心下さい」

「だから安心できねーよ!」


 思わず大声を出したサツカ。

 冷静でいようとした頑張りは、最後で台無しになっていた。




 

 

 


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