01-03-01 冒険者ギルド
冒険者ギルド アルハイト中央
アルハイト領の中心である城塞都市アルハイトには各種ギルドが揃っているが、この『冒険者ギルド』は少し異彩を放っている。
通常のギルドがその職種限定であるのにたいして、冒険者ギルドは『冒険者』という職業の者はもちろんの事他の職種の者も入会する事が出来る。その為やってくる者の雰囲気はかなり様々であり、ある意味その雑多さが冒険者ギルドの色と言えた。
入会資格は年齢のみで、唯一入会時に戦うすべを持っているかどうかを問われるが、持っていなくても持っていると言えば入会出来、かつ望めば様々な武器の教習も有料だが行ってくれる。
そんなギルドであり、街の雑用も引き受けてくれるためほとんどのつしおみには受け入れられているが、一部では好ましく思っていない者も存在していた。
とはいえ表立った衝突が起きているわけではなく、冒険者ギルドは街に、町に、村に、溶け込んでいた。
だがつしおみ達は言う。
「冒険者ギルドって、いつからあった?」
「俺の小さいときは無かったような」
「あら、私の子供の頃はあったはずよ。近所のお兄さんが冒険者だったもの」
「最近……だよな?」
「もう百年たつだろ?これだけ大規模なんだしよ」
いつの間にか世界に溶け込んだ冒険者ギルドは、ほんの少しの困惑の種を蒔いてはいたが、確固たる地位を築いていると言って良いだろう。
そして今日は普段とは段違いの賑わいを見せ、入り口から入ってすぐのロビーには人があふれていた。
そんな場所に、彼はいた。
「広い」
彼の名はサツカ・シジョー。
先程チュートリアルを終え、扉を開けた先の廊下を進んだ先にあったロビーに出てきてから、十分ほどが経っていた。
サツカが少し細目の長身を背伸びして、周囲を見回す。
最高二千五百人以上が同時に始めているとして、でもここにいるのは最高で数百人くらいだろうか。窓口もフル回転で動いているのが分かった。
「受付番号千五百二十三番の方、 千五百二十三番の方、十三番窓口までお越し下さい 」
サツカが入り口そばの総合受付で渡された番号札は千五百三十二番。
「もうすぐか。とうか、これじゃ役所とか銀行だな」
既に登録をした冒険者であれば身分証明書で受付の番号も管理するのだが、今回はサツカはその登録をしにきているので札を渡されていた。
「でも、二千五百人超えをここで処理するとも思えない。おそらくはある程度の人数ごとインスタンスエリアで分けて処理してるんだろうな。ってことは、あいつ等と会うのは困難か」
ベンチや椅子が空いてない為ロビー内をうろつくサツカ。
じろじろとは見ないが、施設を見学しつつ待っているプレイヤー達の顔もちらちらと観察している。
「(それなりに似ている顔もいるか。あいつらは選ばないと思うから大丈夫だと思うけど。いや、結構みんな違うから、[仮面]のレベルは8まで位が多いんだろう。絶世の美女もいないし。と言うか、女性が結構いるな。やっぱり世界初だし男女比もそれほどおかしな事になってはいないんだろうな)」
「 受付番号千五百三十二番の方、 千五百三十二番の方、九番窓口までお越し下さい」
自分の番号を呼ばれたサツカが慌てて九と書かれた窓口に向かう。
横からは隣の様子が分からない程度に仕切り板で区切られており、冒険者側にはスイングドアも取り付けられている為中に人がいることは分かるが顔までは分からない仕組みとなっていた。
サツカが九番のスイングドアを押して中に入った瞬間、その場に崩れ落ちた。
「お待たせ致しました。いかがなさいましたか?」
「いかがもなにも……」
「入会受付も担当になったのは偶然ですよ。サツカ様」
「はー」
目の前にいた受付嬢の顔を見て膝から崩れ落ちたサツカ。
何とか目の前の背もたれのない椅子を支えにして起き上がり、その椅子に座った。
「チュートリアル専用とか言ってなかったか?」
「あちらは、私を元に構築されたチュートリアル専用AIです」
目の前にいたのは、冒険者ギルドの制服を着たアイク([化粧]無し)だった。
「!それじゃあ」
「と言っても記憶は並行思考で蓄積されておりますので、会話はすべて覚えております」
「はいそうですか」
「投げやりですね」
「誰でもそうなると思います」
「そういえば溜め息は」
「うるさいよ。一回くらい吐かせろ」
「いえ、私は別に良いんですよ。サツカ様の幸せが逃げていくだけですので」
忌々しげにアイクを見るサツカ。
だがアイクはその視線を受けても微笑んでいる。
「さて、他にもお待ちの方が数多くいらっしゃいますので、進めさせていただいても宜しいですか?」
「そうして下さい」
「はい。それでは進めさせていただきます」
座ったままお辞儀するアイク。
「本日は冒険者ギルドにお越しいただきありがとうございます。まずは入会のお手続きで宜しいでしょうか」
「はい。お願いします」
アイクが話している間に何度か深呼吸をしていたサツカが頷く。
「それではこちらにお名前と使用予定の武器、現在魔法が使用できるようであれば、差支えなければ結構ですので、記入できる使用可能な魔法をお書き下さい」
「はい」
目の前に出された紙に記入を始めるサツカ。
名 サツカ
氏 シジョー
使用予定武器 大弓・短剣
魔法
「ありがとうございます」
返された用紙を元に、手元に浮かべた画面に入力をするアイク。
「使用予定武器である大弓と短剣の講習は受けられますか?」
「講習?」
「はい。冒険者ギルドでは、武器の技能取得の為に、有料ですが講習を開かせていただいています。技能取得まで手助けすることは出来ませんが、構えや基本動作を身に付ける手助けをさせていただいております。また、ギルドランクが一番下の間は、選んだ三種類の武器に限り無料で初歩講習を受けることが可能です」
「んー。両方受けておきたいけど、今日は混んでないですか?」
「今はそうでもないですね」
「え?」
「不思議そうな顔をされてますね」
微笑むアイクが机の下から一枚の紙を取り出し、机の上にサツカが読める向きにして置いた。
「まずは冒険者ギルドのランクに関して説明させていただきます」
「あ、はい。お願いします」
自分が不思議に思っていることに気付いていながら話が変わったことにサツカの表情が一瞬曇ったが、すぐに目の前の紙に視線を移した。
「ギルドランクは、下から紙、石、鉄、銅、銀、金、白金と上がっていきます」
「七段階、ですか?」
「はい。ですが通常一番下は石ランクで、その下の紙ランクは皆様限定のランクとなっております。こちらは登録したあとギルド指定のクエストをクリアしていただけばすぐに次の石に上がります」
「何故俺達限定のランクが?」
「皆様はこの世界の常識を知りませんので、この街を巡りながら、この街を知りつつ世界を確認するクエストをやっていただいております。また、ランクが紙のままですとこの街から外に出ることは出来ませんので、外に出ることをお考えであればまずは石に上がって下さい」
「紙の俺達が石を目指すわけですか」
サツカの言葉に微笑みで返すアイク。
「また、ギルドカードにはランク表示の横に四つの数字が入ります」
そして話を続けた。
「数字?」
「はい。例えば、石4201といった感じですね」
「この数字は?」
「左から剣、盾、花、貨の数字を示しています」
「剣、盾、花、貨」
アイクがサツカの前の紙上を指差しながら説明する。
「剣は強さ、狩りや魔物討伐の成果を示します」
「……なるほど」
「盾は護衛関連の経験達成度、花は住民からの依頼をこなした経験度、そして貨はギルドからの依頼をこなしているかを示しており、それぞれ0から9の十段階で上昇します」
「つまり、ギルドランクを上げるには全部を9にしないといけないわけですか?」
「理想ですが、さすがにそこまでは求めておりません。それぞれの成果を吟味して、ある程度の実績があればランクアップをさせていただきます。ただ今のところ実例はございませんが、一つでも3以下があるとそれ以外が全て9でも問題ありとして、ランクアップが出来ない場合があります」




