01-02-07 サツカ・シジョー 7
「え?これって珍しいの?」
「開始と同時に得られている方は勿論、『はらへど』にて得られる方もそれほど多くはないと思います」
おお!
レアスキル!?
「ですが用途が限られる能力ですので、サツカ様が使用する機会があるかは分かりませんが」
なんじゃそりゃ!
「『はらへど』の中で能力を得るためには、その能力に沿った行動を重ねることが、早道です。ですので、手にした能力を使用して更に行動を進めると思われます。ですが最初から持っている場合『はらへど』での生活次第では使わない能力である可能性があります」
あー。そういうことか。
「この【指揮】っていうのはどういう能力なの?」
「横にある数字の人数を指揮することが出来ます」
おや、また笑顔で流されるかと思ったらちゃんと答えてくれた。
ん?指揮することが出来る?
「それは、無理やり言うことを聞かせられるとか?」
「いいえ。それは出来ません」
「……動物を使役できるとか?」
「先程『人数』とお伝えしたはずですが?」
「……そうでした」
「まったく。そうですね、動物を使役する技能は別にありますが、【指揮】では出来ません」
「じゃあ『指揮できる』って何を?」
「まず、集団戦闘時に、仲間の中で数字の人数分強制的に状態を見ることが出来ます」
「ん?その状態ってのは体力とか気力とか?」
「はい」
んー?微妙な能力っぽい?
「あとは、指揮者の声を、その人数には直接届けることが出来ます」
あー。それは使える……か?声が届かないと指示できないし。
「技能の【念話】よりも上位能力として強制的に声を送れます」
でも、【念話】もあるんだね。一応上位互換?
なんとなくしっくりこないけど。
「また、指揮対象者の全能力の上昇と、人数が増えるほど指揮者の能力も上昇傾向にあります」
おお!それは凄い!なになに、それならば使える能力でしょう。なぜ最後にそれを言う!メインでしょ!
ん?あれ?
「上昇って、どれくらい?」
「『はらへど』では、攻撃力等を数値化しておりませんので……」
「上昇率とかも数値化してないって事?」
「はい」
なんじゃそりゃー!
「じゃあどれだけ上がるとかを目で見ることは不可能って事だよね?」
「はい」
ふつうに肯定された!うん!アイクはこういうやつ!
「感覚で判断していただくしかないですが、魔力に精通した方ならば、魔法の能力上昇を的確に表現出来る可能性もあります」
そんな使ったこともない魔法の上昇率とか分かるやつが…… …… ……あー。いた。真白とか出来そうだな。もしかしたら来島も出来そうだ。
「どうされました?百面相して」
失礼な。
「いや、んー。分かったよ。【指揮】に関しては、いや、【指揮】に関しても、自分で調査してみる」
にっこりと微笑むアイク。
やっぱり見た目はタイプなんだよな。
「それでは次は技能です。どうぞ触って下さい」
「ん」
『現状』のウィンドウを閉じて『技能』に触る。するとウィンドウが現れた。
「えっと」
[指揮]五
[武術]二
[弓術]十五
[柔術]三
[体術]二
[視野]二
[空の目]二
[射手の目]十二
[指揮者の目]十
[収納]----
「結構いっぱいあるな」
「……そうですね」
あれ?なんかアイクの顔がひきつってるような。
またこれなんかやっちゃってるのかな。
「[視野]は、上級技能です。技能に関してはそれぞれ触れば説明が出ますので、それで確認して下さい」
んー。上級技能か。それで苛ついてるのかな?でもそれより気になることがある。
「なんでこれだけ説明の出る親切設計!?」
「説明といっても技能の種別と、何が出来るかが少し書いてあるだけですので」
試しに[視野]に触ってみる。
[視野]上級技能
視野を変えられる。
[射手の目]や[鳥の目]など目の技能を複数覚えると覚えることがある。その修練度は、各種目の技能の合計よって変わる。
確かに微妙な説明文。こっちは?
[空の目]技能
空から下を見るように、自分を中心に周囲を見ることが出来る。
これはなかなか面白いかな。
「一度覚えた技能は消えることはありませんし、通常の技能はある程度までは横の修練度も上がりやすいです。ですが、技能は使わないと衰えますのでご注意下さい」
自転車みたいなもんか。一回乗れるようになれば乗り方はいつまでも覚えてるけど、手放しとか曲芸乗りはもう出来る気はしない。
[武術]技能
武芸を二種以上覚えると覚える。修練度は覚えた武芸の合計によって変わる。修練度により、覚えた武芸に上昇補正がかかる。
んー。
武芸は技能なのか。誰でも覚えられるからなのかな。
上昇補正っていってもこれも感覚でなんだろうし。
[収納]特殊技能
目録が使用可能。収納魔法と称される事が多いが、技能である。修練度はない。
インベントリは特殊技能なのか。
「技能の種類は、技能、上級技能、特殊技能といったようにいくつか種類がありますので」
「頑張って自分で探します」
アイクは「よくできました」と言うかのような満面の笑顔を見せた。
「さて、これでメニューに関しての説明は終わります。更にチュートリアルも終了となりますが、何か質問はございますか?」
んー。
答えてくれるか分からないけどいくつか聞くか。
「まず一つ」
「はい」
「死に戻りはあるんだよね?」
大事。
これ、大事。
すごく大事。
デスペナルティとか気になるところ。
「『はらへど』で死亡すると、『黄泉返り』を行っていただきます」
「『蘇り』を『行う』?」
「はい。『黄泉返り』を行っていただきます」
なんだ?なんか言葉のニュアンスが違うような……。
『蘇り』、『よみがえり』、『よみがえる』、『蘇る』……。
「!もしかして、『黄泉』の国から『返る』、『黄泉返り』?」
「はい」
「と言うことは、死ぬと『黄泉』に送られて、そこから『返る』為の試練的なものがあったりするわけで?」
にっこりと微笑むアイク。
そういうシステムかい!
いや、まて、一応聞こう。
「……どういうシステム?」
「詳しくは申し上げられませんが、『はらへど』での生き方、死に方、待っている人の有無などで試練の度合いは変わります」
やっぱり全部は答えてくれないか。
でも今聞いたことは結構重要な気はする。
でも、まあ……。
「……死なないようにします」
「それが宜しいかと」
だからその微笑みが怖いって!
けれど気軽に死に戻り出来ないのは厳しいな。
デスペナがどれくらいか分からないのも怖いけど、『黄泉返り』の試練で時間がかかるのも厳しそうだ。
「質問は他にもございますか?」
「んと、最初の調査で適正武器が大弓で、あとは片手剣があったくらいだったけど、武器や防具は適正が無くても使えるんだよね?」
「装備値さえ問題なければ全ての武器と防具、そして装備を身につけられます。ですが適正のない武器で戦うのは、訓練をされてからを推奨します」
「技能を身に付けてからって事で良いのかな?」
「少し違います。技能を持っていれば適正は勿論ありますが、適性があっても修練を積まなければ技能は芽生えません。適性が無い武器であれば、更に修練を積み技能を得てから実戦に使用した方がよいでしょう」
んー。
「俺の場合、大弓は適性もあって技能もあるから状況的にはすでに実戦レベル。片手剣は適性はあるけど技能に剣術とかは無いから、ある程度訓練を受けてからの方が良い。槍は適性も無いから、かなり訓練を積んで技能を得てからじゃないと危険。ってことでいいのかな」
ああ、うん。すごく良い笑顔で頷いたよ。
しかしふむふむ。なるほどね。
つまり、何かやりたかったら技能を身に付けてから。
技能は訓練、練習で身に付くということか。
で、適性があれば技能が早く身に付く可能性があると。
このゲームはRPG要素より、育成要素の方が強いのかな。
生産もできるって話だったし。
育成……レベル?
「あれ?そういえば自分のレベルが無い」
「ございません」
思わずの呟きに、アイクが強い口調で答えた。
「人に決まった水準や平均などございません。身に付けた技能や特性に優劣や修練度の違いはあっても、人の身に差を付けるような数値は存在しません」
「ん、う、うん。分かったよ」
真剣な顔でちょっと怖い。
でも、言いたいことは分かる気がする。
そして、そんな風に考えているAIって凄いなと思う。




