01-02-06 サツカ・シジョー 6
「ああ……」
首を切られれば死ぬ。
確かにそうなんだけど、もう少し言い方ってものがあるかと思うよ。
「『はらへど』では身体は『かたしろ』ですので、腕を切断されても処置を行えば比較的簡単に元に戻すことが出来ます。ですが切られた段階で止血しなければ血が流れ続けて失血死をします」
ああ、うん。血、出るんだ。しかも失血死するくらい。
「与えられる痛みは元の世界に比べれば少ないですのでショック死は無いかと思いますが、もしかすると精神的衝撃でそれも起きるかもしれません」
動脈?静脈?太い血管切られるとスプラッタだったりするのかな。
「しかし、首を切断されれば即死です」
首の切断にこだわるなおい!
「そこで『はらへど』では、通常のゲームで使われるような数値でのヒットポイントやマジックポイントのようなものは使用せず、体力と気力で表現しています。体力の横の表示は血が減るにつれて長さが短くなり、疲労度が溜まると緑が黄色に、黄色が赤に変化します」
血液の量なの!?
いやいやいやいや!斬新すぎない!?他にもそんなゲームあったっけ!?俺が知らないだけ?
「色と棒の長さは基本的には連動していますが、色の変化は『疲労度』であり『血量』ではないのでご注意下さい。血が少なくなると体温の低下や体の動きに支障が出始めます。そしてある一定の量で意識もなくなり、死んでしまいますので、棒の長さにもしっかりと注意した方が宜しいかと思います」
そこで良い笑顔をする意味がわからない!
「治すにはポーションとか回復魔法とか?」
「やり方は色々ございます。是非ご自分でより良いやり方を見つけて下さい」
また良い笑顔だよ。その目は「自分で調べろ中二病。何もかも教えて貰えると思ったら大間違いだぞ」と言っているような気がするのは被害妄想だと信じたい。
「次は気力です。こちらはそのまま『気』力で、自身のやる気や体調によって変化します。自身で自覚がないのに緑色ではないときは、各種状態異常にかかっていたり、かかりかけていたりする事がありますのでご注意下さい」
「状態異常ってあるんだ」
「ございます。また『病気』といった内面の異常はもちろん、『打撲』や『骨折』といった異常も状態異常に分類されます」
あれ。流されるかと思ったら教えてくれた。
「その他にも『状態異常』はございますので、是非ご自分でお調べ下さい」
ああ、うん、そうだよね。その目が怖い笑顔止めて。
「こちらも緑、黄色、赤と色が変化します。血液ほど色の違いによる変化はありません。どちらかというとどんな状態異常になっているかが重要です」
「緑に近い色でも麻痺で体が動かなかったり、手かを複雑雑骨折して赤くなってても、走ることは出来るとか?」
うわっ。良い笑顔だ。
でもこの笑顔は「よく分かりました」って言ってる感じかな。
「次に」
進めてるし。
「棒の長さは魔力を示します」
「魔力!ということは魔法!」
「……中二病」
「うるさいよ!魔法は誰だって憧れなんだからな!」
これに関しては仕方ない。だって魔法だぞ!魔法!
「それでは魔法に関しては、『はらへど』でお調べ下さい」
「は!?なんで!?」
にやりと。本当に“ニヤリ”という擬音が口元に浮かぶような笑みを見せたアイク。それすらも綺麗で見ほれてしまったのが悔しい。
「私から覚えるよりも、『はらへど』で魔法使いから学ぶ方が“らしく”ありませんか?」
「……そりゃ、そうだけど、でも」
「どちらにせよチュートリアルでは説明しないことになっております。皆様『はらへど』で、自分で学んでいただくことになります」
「デフォルトでチュートリアルじゃやらないのかよ!」
なんだそりゃ!今の話の流れはなんだったんだ!って、そうだった。こいつはそういうやつだったよ。
「ここで説明致しますのは、この棒の長さが魔力と関わっているという点だけです。どのような関係性があるかは、ご自身でお確かめ下さい」
「はいはい」
「『はい』はい一回の方がいらぬいざこざを引き起こさないかと」
「はい!わかりました!」
「ここの『体力』と『気力』は、それぞれ視界の左上への常時表示が可能です。一度表示を触って見て下さい」
それでちゃんと返せばスルーしやがるし。とりあえず言われたとおりにやるしかないか。
「はい……」
『体力』の文字を触るとウィンドウがポップした。
そこには
表示 非表示
公開 非公開
と書かれており、非表示と非公開が白く、表示と公開がグレーになっている。
試しに表示を触ると色が白になり、非表示がグレーに変わった。
「おお」
視界の左上にバーが浮かんでいる。
意識して視線だけ動かすと動かないけど、それ以外は顔を動かしても視線を向けても左上に逃げていく。
おお!
「表示は自分の視界に出します。公開は、自分を見た相手に自身の状況を見せます」
「それ、設定する意味……はい。自分で考えます」
微笑みながら頷くアイク。
「他にも表示や公開出来る内容がありますので」
「自分で色々試してみます」
微笑みなら頷くアイク。
「それでは進ませていただきます。その下『現状』は現時点の自分の能力を示します。触って下さい」
促されて表記を触るとまた違う画面が浮き上がった。
【装備】 五十
【指揮】 五
……?なにこれ?
「ここに表示されるのは、次に説明する技能とは別系統の能力です。【装備】はどれだけの武器や防具を装備できるかです」
「え?五十個も?……な、訳ないですよね」
「はい。もちろん数ではありません。武器や防具にはそれぞれ能力値の他に装備値が決められています。横にある数値が五十ということは、武器や防具を含めてその合計が五十になるまで装備できるということを示しています」
「武器とか防具には装備値がある」
「はい。弓の使用者は、矢筒は別に装備しなければいけませんので、ご注意下さい」
「矢は?」
「矢筒の中に入っている荷物として扱いますので、気にする必要はありません」
「えっと……それはつまり、攻撃の時に出した矢は【装備】扱いになるってこと?」
「その通りです」
おっ。この笑顔はあんまりたくらんでない感じだ。というか、教師がテストで良い点取った生徒にするような笑顔だよ。
「それにしても、ここでも弓矢は不遇武器か。片手剣か槍に変えるかな」
「不遇武器?そんなことはないかと思いますが?」
「でも、装備する物は多いし、矢も気にしなきゃな分けだし。長距離攻撃は魔法があるならアドバンデージが無さそうだし」
「まず、矢は余程のモノで無い限り装備値は一か二程度ですので、そこまで気にする必要はないかと思われます」
「あー。まあ、それぐらいならば」
「あと、弓の適性、特に大弓の適性を持つ方は【装備】の値が高くなりますので、考えて装備を行えばそれほど装備値が足りなくなることは無いかと思われます」
なに?!
「ん?五十って多いの?」
「はい。通常は二十前後の方が多いですね。三十あれば初めは余裕があるでしょう」
「!じゃあ五十って?!」
「かなり多いですね。ですので最初は適正のある大弓の装備をお勧め致します」
「んー」
「適正がある武器の方がすぐに実戦に使えますし、敵に与える威力が高くなる傾向にあります。技も覚えやすいですし」
「……弓推し?」
「サツカ様に関して言えば」
「……一緒に遊ぶ予定の友達との兼ね合いもあるし、とりあえずは弓を使うよ」
「それが宜しいかと。では次の『技能』ですが」
「え?」
「……はい?」
「【指揮】は?」
「……ちっ」
舌打ちきたよ!
ちょっとなんかほっとした自分がいやだ。
あれ?え?でもなんでここで舌打ち?。
「……【装備】は必ず持っているものですが、それ以外は自身の性質や特性、経験に合わせて付加されます。ほとんどの皆さんは【装備】のみで始め、『はらへど』で経験を重ねて能力を増やしていくのですが……」
俺をじっと見る美少女。なんか目が座っているように見える。
「まさか既に【指揮】を持つ方がいらっしゃるとは思いませんでした」




