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01-02-05 サツカ・シジョー 5

「え?」


 え?そうなの?


「今サツカ様は一発で成功してしまったので簡単に出来る事だと認識されているかと思いますが、思考によるインベントリからの取り出しや装備の着脱は、失敗することも多いです。というよりも、私が担当している百名を超える方の中で、一発で成功したのはサツカ様を入れて二名だけです」

「え?そうなの!?」


 思わず声に出た。


「はい。ですので苦手な方と比べれば、うまく使用すれば戦術の幅が広がるかもしれませんが、嫉妬される可能性は高いかと思われます」

「あー」


 嫉妬、か。

 自分が出来ないことを出来るやつが憎いとか思う奴いるからなー。

 特にこんなゲームの世界で自分が苦手なことをやられて、しかもそれによって自分より優位にゲームを進めてたりなんかしたら。


「もちろん練習して使えるようになる方もいらっしゃいますが」

「んー」


 でもなー。


「あとこちらは純粋に使用の注意ですが、インベントリは全て品に刻まれた『言葉』で管理をしています」

「ん?言葉?」

「はい。ですので、例えば分類名『大弓』がインベントリに何本か入っていた場合、ランダムで装備されます」

「え?ランダム?」

「はい。もちろん分類名の他に固有名が付いていることがほとんどですので固有名を使って取り出すこともかのうです。が、同じ大弓で同じ固有名を持つ武器でも攻撃力はそのモノによって変わります」

「ダメじゃん!」

「はい」

「それが一番ダメでしょ!」

「そうですか?」


 不思議そうにこちらを見るアイク。

 既にこれも計算なんじゃないだろうか?分かってやってるんじゃないだろうかと思い始めている俺がいる。

 というか多分全部分かっている。


「インベントリの中を細かく整理しておけば良いのか……?」


 なんとか使い易いやり方を考えてみるか。


「それに『言葉』で管理していますので、正式名称をちゃんと思わないと反応しません」

「正式名称……」

「はい。今お持ちの『大弓』の固有名は、正式名称『初期配布用初期装備・期間限定破壊不能付与対象大弓』です」

「長いわ!」


 なげーよ!

 そんなん思っていられるか!


「ですのでご注意を」

「全く……」

「私個人としては目の前でコロコロ服装が変わる方が気持ち悪いですが」


 画像の中の俺の服装が、アイクが手を振る度に変わっていく。

 今の俺と同じ服装、全身鎧、胴着、袴姿、着流し、学ラン、ブレザー、スーツ、ビキニパンツ。


「おい!」


 ふんどし。


「こら!」


 チャイナ服。


「ちょっとまて!」


 メイド服。


「何ですか?」

「止めるな!」

「なんですか?まてとか止めるなとか」

「俺に何を着せている!」

「服装のサンプルを着せてみただけですが?」


 そう言って手を振るアイク。

 画像の中の俺がバニー姿になった。


「やめろー!」

「インベントリにこういった服が入っていた際に『服』で瞬間装備着脱をした場合、こういう事もあり得るという事です」

「絶対やらないからすぐに元に戻せ!」

「かしこまりました。サツカ様」


 アイクが手を振ると、画像の俺の服装がもとの黒Tシャツとスパッツに戻った。


「お前なー」

「お前ではなくアイクです。お詫びに今お見せした服装で、『はらへど』にあっても問題の無い服はインベントリにお譲りいたします」

「いらねーよ!」

「防御能力もほとんどないお遊び服装ですのでお気になさらず」

「してねぇ!」

「遠慮なさらずどうぞ」

「だからしてねぇ!」

「はい、終わりました」

「はぁ!?」


 アイクはしゃべりながら軽く数回手を振っていたが、まさかそれが!


「おいまさか!」


 慌てていつの間にか閉じていたインベントリを開くと、【服】が十三追加されていた。


「【服】?」

「一度取り出して鑑定すれば固有名が分かります。そうすれば目録にも名前が出ます」

「一度出すって。あ、でも」


 一番上の【服】をクリックすると、先程と同じメニューが出る。

 そしてその中の鑑定をクリックした。


「……変化なし?」

「インベントリ内での鑑定は、知識がないと失敗します」

「知識?」

「一度使ったことがある、着たことがある、調べたことがある、食べたことがある、といったような経験から来る知識と、本や口伝で知った事による知識です。自身が忘れてしまったことでも、一度『識った』ものはインベントリ内の鑑定に使用出来ます」

「便利なのか便利じゃないのか」


 いや、忘れたことも呼び出せるなら便利なんだろうけど、なんとなく不自由だな。


「以上でインベントリに関しての説明を終わりますが、質問はございますか?」

「あー。ま、いいや」

「かしこまりました」


 深くお辞儀をするアイク。

 こういった所作はかなりきれいなんだけどな。


「あと、これは噂話ですが」

「ん?」

「『はらへど』では、インベントリが使用出来ない状態になることもあるとかないとか」

「はあ?!」

「ま、ただの噂話ですので」

「いやいやいやいやいや!大事!それ凄く大事!何それ!使えないときがあるって本当に!?」

「真偽のほどは私も。ただの噂話ですし」

「AIの噂話ってなにそれ!開発者とかプログラム担当から知識を得てるんじゃないの?!」

「いえ、これはチュートリアル専用AI仲間との雑談で出てきた話ですので」

「何その井戸端会議!?」

「私共も開発者の突発的な行動には大変な思いをしておりまして」

「やっぱりAIじゃないよね?!中の人いるよね!?」

「ワタクシハ、チュートリアルセンヨウAI、ナンバー『AI009』、コユウメイショウ『アイク』、デス」

「今更片言になってもダメだから!」

「なんと言われましても私がチュートリアル専用AIなことは変わりませんので」


 微笑を浮かべて綺麗なお辞儀をするアイク。

 あー、もう。

 出そうになったため息をぐっとこらえる。出したらまた言われるからな。


「……分かった。噂話として覚えておくよ」

「それでは次はメニューについて説明させていただきます。右手を降りながら「メニュー」とおっしゃって下さい」

「メニュー」


 色々諦めたので、おとなしく言われたとおりにやってみる。すると目の前に画面が現れた。


「それが基本的なメニュー表示です」


 画面の一番上には『サツカ・シジョー』という名前があり、今の日付と時間、その下に接続時間、限界累計時間、生命力、気力、現状、技能と続き、最後に転移と書いてあった。


「ん?」

「ご自身のお名前は正しいですか?」

「あ、はい」

「その下にある日付と時間は元の世界の現在のものです」

「はい」


 それは分かる。

 いや、あれ?まだ三十分?思ったより経ってないな。


「接続時間は、『はらへど』に訪れている経過時間です。一度元の世界に戻り三十分経てば接続時間はリセットされてゼロに戻ります。最長は六時間で、それを越えた場合三十分以内に自身で元の世界に戻らないと強制転移させられますのでご注意下さい。また、その場合次の転移は最短で三十六時間後、最悪診察を受けないと転移出来なくなる場合もあります」

「それは……気をつけます」


 結構厳しいな。


「限界累計時間は、二時間ごとの休憩をとった場合等休みを取っている場合の累計時間を計測します。こちらは個人の資質によって変わってきますが、基本的には八時間から十時間程度で元の世界に戻るよう警告が出ます。その際に次回転移までどれだけ休めばいいかも案内されますので、指示に従って下さい。そこがゼロになっていれば、累計時間もリセットされている状態です」

「……はい」


 ヤバい。なんか事務的な案内に物足りなさを感じてしまう。


「その下が生命力です。ゲームでいうところのヒットポイントに当たりますが、数値はありません」

 確かに横にカラーバーがあるだけで、数値はない。


「えっと……どういうこと?」

「どんなに元気でも、首を切られれば即死する。と、いうことです」




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