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01-02-01 サツカ・シジョー 1

「ジェルマット敷いた、トイレ行った、電源対策もオッケー、部屋の鍵もした」


 指さし確認は小さいときからの癖で、最近は人前ではやらないようにしているけど一人だとしっかりやってしまう。

 そんなもう直すことをほぼ諦めている癖を使って不備が無いかチェックをする十二時前。


「『カタシロ』へのインストールも終了してるから問題なし」


 前に病院でデータ採取した内容を保存した独自システムのカセットは既に本体に差し込んであるし、送られてきたソフトも入れてある。

 父さんと祖父さんが「スーファミとプレステだ」とか言って笑ってたな。母さんはともかく祖母様まで同じような事を言いながら一緒に笑ってたのはちょっとびっくりした。そういえば『サターン』って何か聞かなかったな。土星?だよな?何のことだろう。


「リストバンドとアンクルバンドも装着した」


 ベッドに座り、両手首両足首に巻いたバンドを確認。そして枕元に置いてある『カタシロ』本体から伸びたコードを一つ一つ左右手足の表記を確認しながらそれぞれのバンドに取り付けた。

 これはゲーム中の脈拍とか生体情報の管理に使われているとのことだった。あと、フルダイブ中にヘッドギアを無理に外すとこちらに戻った時に体調の悪化があることがあるけど、このコードを外せば緩やかな緊急起床をする事が出来るらしい。

 体調の悪化と聞くとちょっと怖いけど、内容は酷い二日酔い、或いは乗り物酔いのような感覚に襲われる程度らしい。

 まだ高校生になったばかりだし二日酔いは分からないけど、乗り物や位くらいなら耐えられるかな。試す予定はないけど。


「……よし、後はこのヘッドギアを被って」


 病院で頭のサイズに合わせてくれたから中はジャストサイズだけど、外見はかなりでかい。

 頭の大きさも人それぞれだし、システム的に頭皮に電極的なものを当てるだけなのだから、しっかりと密着しなけりゃやばい訳で。


「調整してと」


 ヘッドギアは、形的にはフルフェイスのヘルメットと言えばいいだろうか。顔の前は中からは見えるけど外からは見えない鏡面仕様になっていて、ゲーム中の目を閉じた無防備な顔は外から見えないようになっている。

 そして被った後横たわり、ジェルマットがひんやり気持ち良い、そして首もとのタッチパネルでギアの中のクッションを微調整する。


「よし」


 横になるときに見た時計だと、時間は昼の十二時を二分過ぎていたからちゃんとつながるはずだ。

 少しだけ緊張しながら、音声システムが作動していることを告げる青いランプを見てから目を閉じる。

 ちょっとだけ深呼吸。

 緊張してるのが分かる。

 でもこの状態で時間が経つのはもったいない。

 なんといっても世界初のフルダイブ技術を、世界初体験するチャンスなのだから。

 そしてもう一度深呼吸してからキーワードを口にした。


「転移、はらへど」


 意識が、ゆっくりと落ちていった。





 目を開けると、俺は草原に立っていた。

 吹き抜ける風が頬を撫で、土と草の匂いが鼻孔をくすぐる。

 照りつける太陽はまぶしく肌が焼けるようで、思わず右手をかざして空を見上げると、太陽の横には蒼い月が見えた。


「月?ものすごく青いけど?」


 思わず呟いてしまったけど、ここはゲームの中で、現実世界じゃないってことを思い出すと、とりあえず納得できた。


「それにしても、これがバーチャル・リアリティ、仮想世界とは……。正直、甘く見ていたな」


 視線をおろし、自分の体を見る。

 手を動かして、足を上げ下げして、その動きと見た目を調べた。鏡がないから容姿はよく分からないけど、いつもの自分と遜色ないと思う。

 違うのは着ているのが綿と麻の混合素材のような上下で、丈夫そうだし肌触りも悪くないシンプルな服装だと言うことだろうか。

 靴はグレーのショートブーツで金具は使われていない。ズボンの裾はブーツの中に入れられている。腰はベルトじゃなくて紐で結んであるので少し心許ない。

 今度は周囲を見てみるけど、ぽつんぽつんと木が生えているだけで、生物がいるようには見えなかった。


「誰もいないな……」


 この世界を、まずは空間を体感するには人はいない方が良いからか、恐らくはわざと他のプレイヤーとは会わない場所に立つようにしてあるのではないかなと思った。


()()()()()()なら、走り出してそうだ」


 陸上部に所属している友人を思い出し、思わずにやけた。


「さて、まずは……これだな」


 視界の隅できらきらと輝いているモノに手を伸ばして掴むと、目の前に透明なウィンドウが現れた。


「よし、出た」


 そしてそこに書かれているメッセージ確認。


『チュートリアルを開始します』


 皆も始めてる頃かなと思いつつ、浮かんだ画面のその文字に向かって手を伸ばした。




 一瞬目の前が真っ暗になったかと思うと、別の場所、いや、『別の空間』に俺はいた。


「ここは……」


 病院でデータ採取した時の場所に似ているような、でも少し違うような。

 すると目の前に浮かんでいたウィンドウに新たなメッセージが現れた。


『OSをお選びください』


「OS?」


・画面上対話形式

・音声システムのみ対話形式

・人型AIによる会話形式

 画面上に現れるテキストを読みながら進めるか、どこからか聞こえてくる音声ガイダンスに沿って進めるか、人型のキャラクターが出て来てその人と話しながら進めるか。

 まぁ、折角だから人型かな。


「ここを触ればいいのかな?」


 画面に触れてみるが、何も作動しない。

 ん?

 もう一度触れてみるけど、やっぱり何も作動しない。

 んん?


「……もしかして?」


 周囲を見回して、誰もいないことを確認してからちょっと小声で言ってみた。


「『人型AIによる会話形式』のチュートリアルでお願いします」

「もう少し大きな声で」


 ……。


「聞こえてるならお願いします」


 ……。


「お、ね、が、い、し、ま、す」

「ちっ。かしこまりました。それでは会話式チュートリアルを開始いたします」


 おい、今舌打ちしたよな?

 イラッとしたとほぼ同時にウィンドウの向こう、何もない空間が歪んで、周囲からキラキラしたものが人の形のように集まりはじめた。


「おお!」

「こんにちは」

「え?」


 突然後ろから聞こえた声に振り返ると、年の頃は十七・八歳くらい。つまり少し年上くらいの少女がセーラー服を着てお辞儀をしていた。

 肩に掛かる位の長さのさらさらの黒髪が目を引いた。


「宜しくお願い致します。本日チュートリアルを担当させていただく『アイク』と申します」

「え、あ、は、はい、よろしくお願いします!」


 顔を上げるとかなりの美少女で、思わずどもってしまった。


「いかがなさいましたか?」


 不思議そうにこちらを見る美少女。

 ごめんなさい。かなりの美少女とか言ってしまって。嘘です。いや、美少女なのは本当だけど、かなり美少女なのも本当だけど、千年に一度の美少女だけど、本当の所はただ単に俺のタイプなだけです。

 分かってます。

 AIです。

 CGのはずです。

 でも、タイプなんです!


「あの……?」


 その美少女が、こちらを心配そうに見ている。


「あ、そ、その、あ!こ、こっちのキラキラしたのは!」

「ああ、こちらに来る方はそういうの演出が好きかと思ってやってみたんですが、途中で恥ずかしくなったので普通にやって参りました」


 にっこりと微笑む美少女。

 うん。可愛くて綺麗だ。


「だいたい皆さん中二病を患っていらっしゃるので、こういった演出がみなさん本当にお好きでして。こちらは罹患しておりませんので本当に恥ずかしいんですが」


 ……ん?


「『かっこいい』らしいですね。本当に何がよいのか不思議です」


 ……おや?


「まあ仕事ですから今まではやりましたが、本当に恥ずかしいんですよ」

「はあ……」


 あれ?


「それでは中二病患者様、チュートリアルを開始させて頂きます。短い間ですが、宜しくお願い致します」


 にっこりと微笑む美少女。

 その笑顔は清らかで美しい。

 でも、この女はダメだ。


「まずは中二病様のお名前を確認させていただきます」



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