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01-01-11 カイタ・シートーン 11


 何となく混沌とした空気の中ラギロダさんが右手を出す。俺は視線に促されて両手を出した。

 広げた両掌の上に転がる三つの球。


「これは」

「『魔力石』じゃよ」

「なんか、違う?」


 渡された球は、最初にラズロアから貰った球と見た目は一緒だが何かが違う気がした。


「ほう。分かるか」

「いや、何が違うかは分からないですけど、何となく何か?違う?感じかなと」

「ひょっひょっひょ。それでよい。使い方はラズロアが渡していたものと同じじゃ。あれよりも容量は桁が違うし硬さも違うがの。それならばアイスネークを倒したような使い方をしても砕けるようなことはあるまい」

「おー。気をつけます」

「よいよい。それも間違った使い方ではないからのう。普通は石が砕けるからやらないだけじゃ」

「はあ。え?でもこれは砕けないんですよね」

「当たり前じゃ。儂が作った物じゃからな。その程度で、おぬしの魔力程度で砕けるものか。孫の恩人への、祖父からのお礼じゃよ」


 チラリとグームさんを見ると表情は曇っていたが、俺が見ていることに気付くと諦めたように頷いてくれた。


「貰ってくれるな?」

「……はい。ありがとうございます」

「それでよいそれでよい。後はこれじゃ」


 そう言って今度は左手を出す。


「え?」


 三つの球の上に落ちて掌に乗る白い四角い石。

 石?

 サイコロみたいな立方体だけど。


「ラギロダ様!それは!」

「グーム、冒険者ギルドにまだ連絡してないであろう」

「あ!はい。まだです」

「今連絡するのじゃ」

「今?ですか?あ、そういうことですか。……はい。わかりました」


 あ、なんかグームさんの諦め度が上がってる気がする。

 それで、これに関することをやるのか?


「……カイタ、見ていろ」

「は、はい」


 使い方教えるとか、さっきは止めてたみたいなのに、完全に諦めたのな。グームさんが口を出せないそれほどの物なのか、諦められるその程度の物なのか。どちらだろう。


「これを掌において、魔力を通す」


 俺が考えているとグームさんは作業を開始していた。


「は、はい」

「すると」


 四角い石?が掌の上に浮き、もこもこと膨らんだかと思うと翼が生え、頭が出て、足が出て、白い鳥になった。


「こうなる」

「おお!」

「告、『グームよりギルドマスターへ。令息を発見。依頼は終了。通例に添って処理を求む』、了」


 鳥と目を合わせてグームさんが話し終わると鳥は一鳴きして空に羽ばたいて領都に向かった。


「今のは?」

「『伝口鳥(でんくどり)』。錬金術で創った人工の鳥だ。魔道具の一つだな。魔力を流して起動させた者が『告』で始めた言葉を覚え、『了』で終了。そして覚えさせておいた魔力の持ち主の場所に飛んでいき、覚えさせた言葉を三回告げる。覚える言葉の量は流した魔力の量と質で変わるから、お前が使う時は出来るだけ短くした方が良い」

「お主に渡した『伝口鳥』には儂の魔力を覚えさせてある。どうしても儂に連絡が取りたいときに使うと良い」

「ラギロダ様、ですがやはりさすがにこれは」

「『伝口鳥』は飛んだ先で覚えた言葉を告げた後少しすると、魔力を流した者へと戻っていく。つまり、お主のもとに戻ってくる。通常の『伝口鳥』はそこでまた最初の形に戻るが、おぬしに渡した物はそれで形が崩れる使い捨てじゃ。グーム、それなら良いじゃろ?」


 得意そうにグームさんを見るラギロダさん。

 グームさんが、またしわの寄った眉間を指で押さえている。


「何時の間にそんな物を創っていたんですか」

「備えあれば憂いなしと言うからの」

「はぁ……」


 またもや盛大なため息。

 グームさん、ご愁傷様です。


「本当に良いんですか?もらってしまって」


 でも、貰える物はもらっておきたい自分もいるのでもらいますよ。グームさんごめんなさい。


「一度しか使えぬ魔道具じゃ、どうしても助けが必要という時に使うが良いぞ」

「……はい。使うことがないよう努力します」

「ひゃっひゃっひゃ」


 本当に楽しそうに笑う爺さんだなとか思ってると、ラズロアやグームさんはそんな爺さんをまぶしい物を見るように見ていて、何となく爺さんが二人に本当に好かれているんだなと感じた。


「さて、そろそろお別れじゃな」


 ひとしきり笑った後、笑顔で別れを告げるラギロダ爺さん。

 グームさんは完全に納得はしてないけれどとりあえずもう終わることにほっとしてる感が見え隠れしてる。

 そしてラズロアはというと、さっきとは違ってきらきらした目で俺を見てるよ。


「待ってるからな!早くきてオレを領都に連れてってくれよ!」


 懐かれすぎるのも困ったものかもしれない。


「はいはい。でも何でそんなに領都に行きたいんだよ」

「い、一緒に行ったら教える!」

「おおう……」


 行けば分かるねぇ。

 勢い凄いだし。

 っていうか、爺さんが連れて行けばよいのに何で連れて行かないんだろ。


「無理せず頑張ることだな」


 肩をポンと叩きながらグームさんが声をかけてきた。

 最初はこちらを見ようともしなかったのに、向こうから話しかけてくれるようになったのは素直に嬉しい。まぁ爺さんに振り回され、ラズロアに引っ張り回される仲間と思われたのかもしれないけど。


「グームよ、喚んでくれ」

「かしこまりました」


 爺さんに声をかけられると、グームさんは細い筒、たばこのような物を口にした。

 そして息を吹いている。

 笛みたいだけど音が聞こえないから犬笛みたいなものだろうか。

 少しすると何かがやってくる音と威圧感、もしかして魔力?と思われる物が一つの方向から感じられた。


「カイタ、動くなよ」

「は、はい」


 思わず身構えようとするとグームさんが声をかけてきた。


「既にこの魔力を感じることが出来るのなら、やはり素質はあるかもしれんのう」


 爺さんが何かを言った時、その方向の空間が歪み、白い靄のようなモノが一瞬だけ吹き抜けると目の前に二頭立ての馬車が現れた。


「ゲルホウス!グルホウス!」

「口、閉じろ」

「おお……」


 グームさんが注意しながら馬車に向かうけど、これは無理。

 突然現れた二頭の馬?が牽く大きめの馬車。

 おそらくは認識阻害をかけて近くに停めてあったのを、さっきの犬笛?馬笛?で呼んだんだろう。

 馬車のサイズは大きいキャンピングカーくらい?かなり大きい。

 でも、それよりも、そんなことよりも、馬?が問題だ。


「う、ま?」


 いや、馬だけど馬じゃない。

 だって馬の額には角とかないし、鬣は首に沿って縦にあるべきで、首を囲むように円形にあっちゃいけない。ライオンの鬣じゃないんだから!


「ゲルホウス!グルホウス!」


 二頭に共通するのは真っ黒の身体と黒い角。ラズロアがゲルホウスと呼んで下げてきた頭を撫でている方は鬣が銀に青が混じってて、ラズロアに頭をすり付けてるグルホウスと呼ばれた方の鬣は銀に赤が混じってる。いや、それぞれ鬣と同じ色が角にも混じってた。

 きれいだけどちょっとまがまがしい感じかも。

 でもラズロアとじゃれている姿は可愛いな。


黒獅馬(くろしば)という魔物じゃよ」

「え!?」


 口は閉じたけど馬らしい生き物をぼっと見ていた俺に、爺さんが話しかけてきた。


「普通の馬が魔物と化し、更に『ケガれ』を取り込みつつ成長しながらも生き物を襲わずに草のみを食べ続けた、理性を持つ馬の魔物じゃ」

「理性を持つ魔物」

「特に黒獅馬は穏やかな方で人とも共存できるし自分を世話する者にはあのように慣れる」


 二頭の黒獅馬はグームから体を撫でられながらラズロアとじゃれている。


「じゃが、自分に害為す相手や慣れた者に危害を与えようとする敵には、ただの魔物として敵対する」


 思わず横にいる爺さんを見ると、爺さんもゆっくりとこちらを見た。


「魔物の中には色々な種類がおる。当分は分かり易い魔物を狩ると思うが、今から注意して相手の特性をちゃんと見ることじゃな」

「……はい。有り難うございます」

「無用な殺生は、例え魔物であってもするべきではないと儂は思う」

「自分も、そう思えるようになりたいです」

「ひょっひょっひょ。頑張ってくれ。自分自身の為に、ラズロアの領都行きのために、『はらへど』の為にな」


 不思議に思って爺さんの顔を見ながら首を傾げると、ニヤリと爺さんは笑い、また変な笑い声をあげながら馬車へと歩いていった。


「ラズロア!乗れ!」

「うん!」

「グーム!御者を頼むぞ!」

「はい」


 爺さんがグームさんの手を借りながら馬車に乗り込み、その後ろをラズロアがグームさんに持ち上げてもらって馬車に乗り込んだ。


「カイタ兄ちゃん!待たな!待ってるぞ!」

「カイタ!また会えることを期待しておるぞ!」


 馬車の窓から顔を出して叫ぶラズロアと、その後ろでこちらを見ている爺さん。

 二人に向かって手を上げると、既に御者台に乗っていたグームさんもこちらを見ていた。

 なにも言わず会釈をすると、少しだけ表情を和らげて頷いてくれた。

 そして持っている手綱を操ると二頭の馬の魔物が動き出し、重たそうな馬車を軽々と牽きはじめた。


「またな!カイタ兄ちゃん!」


 そしてこちらに向かって手を振るラズロアに手を振りかえしながら、去ってゆく馬車を俺は見送った。







 さて、あれに列ぶのか。

 馬車が見えなくなってから、改めて領都を見ると、人の列はそれほど減っているようには見えなかった。


「列ぶのかー」


 一人ごちながら、改めてメニューウィンドウがあることを思い出す。

 インベントリはメニューを出さなくても使えるため、こちらに来てからまだ一度もメニューウィンドウを開いていなかった。


「列ぶ前に見ておくかな。こちらに来てからの正確な時間とかも気になるし」


 ログアウトボタンが消えてたら笑うなとか思いながら、病院で設定したときに教えてもらって方法でメニューウィンドウを出す。



 そして、俺は、動きを止めた。



 目の前の画面が、信じられなくて。



 まさか、そんなことが……。ほんとうにあるなんて。



 そんなことを思いつつ。



 そこにあるものが信じられなくて。



 でも、ここでこうしていても仕方ない。



 出来ることを、いや、しなければいけないことを、やるために。



 俺がラズロアと出会っている時に、おそらく皆は……。



 俺は、ウィンドウに向かって手を伸ばす。




『チュートリアルを開始します』




 その表示に手を当てた瞬間、俺の体はチュートリアル空間に移動した。




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