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01-01-09 カイタ・シートーン 9


 ラズロアの隣で正座してます。

 もちろんラズロアも正座です。

 こちらの世界でも説教を受ける時には正座のようです。

 反省の意を表すのにはやっぱり丸坊主になったりするのでしょうか。


「確かに今のお前なら『アイウルフ』の十匹や二十匹程度倒せるだろうが、そういう問題ではなくてだな……」


 なんかラギロダ爺さん口調まで変わってないですか?


「そういう点からもお前が領都に行くのを禁止していたのを……」


 分かった事としては、どうもラズロアは同年代の中ではずば抜けて強いけど、攻撃力特化で防御は下手で、魔法も下手な方だと。それでも攻撃力がすごいので基本的には村の周囲ではイケイケに魔物や動物を狩ってるらしい。

 ただやっぱり経験は乏しいし行動も迂闊なところが多いから、一人での狩りや遠出は禁止。そして他の村や領都に行くのも禁止していたと。と言っても他の村へはラギロダ爺さんや両親なんかと行き来したりしてるみたいだけど、領都に関しては保護者付きでも禁止しているらしい。

 そこで今回何故かどうしても行きたくなったラズロアは、一人で領都に向かって旅立ったらしい。

 因みに村から領都は馬車で二日から三日かかるらしく、更にラズロアは追っ手を巻くために遠回りしてきたらしいので、村を出て現在五日目とのこと。

 領都と周辺の村はしっかりした街道で繋げてあって、流石に夜は野営地に泊まったらしい。

 今日まで発覚しなかったのは、同じ日に近くの森に狩りに出たパーティーと同行すると家族には伝えてあったかららしく、たまたま魔物の数が多くて早めに戻ったそのパーティーから同行していないことを知らされて……。


「そりゃもう大騒ぎ?」

「ああ、特にラギロダ様の慌てぶりは凄かった」

「ははは」


 呆れた顔でラズロアを見ていたグームさんを見上げてたずねると、頷きながら肯定してくれた。

 愛されてるもんなー。ラズロア。


「そしてお前もじゃ!」

「え?俺!?」

「安全も確保できてない場所で寝転がるとは何事じゃ!」

「お、おう……すみません」


 何故か俺も説教タイム。

 まぁ浮かれてたのは事実だし、結局最終的にはリセットや死に戻りがあるからと軽く見ていたような気がする。


「確かに『あらひと』は『黄泉返り』が出来ると聞くが、それを過信しない方がよい」


 爺さんが神妙な面持ちで告げた言葉に引っかかりを感じるが、デスペナの事を言ってるんだと思うともしかするとこのゲームのデスペナは結構きついのかもしれない。


「はい。気をつけます」

「こればかりは、他人に何を言われても実感せんじゃろう。じゃが、なってからでは遅いこともある。それを肝に命じるが良いな」

「はい。死は一度覚悟しましたが、改めて注意する事にします」

「死を、覚悟?」


 爺さんのこめかみがヒクヒクと動いた気がした。

 あれ?俺なんかやばいこと言った?


「アイウルフとの戦闘でラズロアが後れをとっていたのかな?」

「あ、いや、その後の」

「その後?」


 中腰で俺に顔を近付ける爺さん。

 うん。やばい感じ。


「何があったのかのお?」


 語尾を上げてクエスチョンマークを感じさせる可愛げのある喋り方も、その溢れ出る怒気の前には意味がありません。


「あ、いや、その」


 横目でラズロアを見るが、既にグームさんに口と動きを封じられている。


「お、そ、その……」


「何があったんじゃ?その衣服の汚れ具合と関係あるのかのぉ?」


 顔近付けないで!

 目が怖い!

ごめんラズロア!

再度俺の口は軽くなる!


「へ、蛇と」

「蛇?」


 口調!口調!怖いから!

 話すから!


「は、はい」

「アイスネーク?」


 ちょっとだけ微笑みを見せながら言った爺さん。

 それにだまされた俺。


「そ、それです!」


 隣でウーウー言ってるラズロアをもっと気にすれば良かった……。いや、知識がないから無理だ。


「ラズロアああああ!」

「ラズロア!」

「うー!」


 さっきより凄い雷が爺さんから落ちて、グームさんからも雷がおちて。その後で色々考えても仕方ありませんでした。






 結局その後俺とラズロアが出会ってから起きたことを最初から、特にアイスネークとか俺が使った魔法と装備について根掘り葉掘り聞かれて事細かに話す羽目になった。

 しょうがないと言えばしょうがないし、たかだか三・四時間の間にあった内容だから、それほど苦でもなかった。

 それよりもこれがひどい。


「なるほど、期間限定だが破壊無効になっておる」

「そんな事が出来るのですか!?」

「儂でも三分が限度じゃな」

「いえ、それでも流石です。私には皆目見当がつきません」

「じゃが、付与するのに一日はかかるじゃろう。実用出来ぬ錬金術なぞ意味がない」

「それは……」


 俺の剣と盾、そして防具を穴の開く勢いでじっくりと観察する二人。

 特に防具は身に付けたままだからかなり気まずい。


「あ、あの、脱ぎましょうか?」

「止めておいたほうがよいぞ、ちゃんとした解読は出来れおらんが、恐らくは一度脱いだら『破壊無効』では無くなる設定の付与魔法がかけてあるからの。それでも良いのか?」

「おー。それは」

「もう少しで読み切れるから大人しくしておれ」

「はい……」


 ぶつぶつと会話する二人。

 何にせよお説教からスライドしたのは良しとしよう。そう思おう。それしかない。


「……なんほどのう」


 顎髭を触りながら爺さんが顔を上げる。なんか表情だけでなく肌までつやつやしているように見える。


「久し振りに良い物を見た。眼福じゃ」

「素晴らしいですね。攻撃力や防御力は低そうですが壊れないのであれば戦い方を学ぶには最適の武器でした」


 グームさんも顔が綻んでる。


「どういうことですか?」

「ん?ああ。武器や防具にはそれぞれに攻撃力や防御力が付いている。これはそのモノがどれくらい相手に対して攻撃を与えられるか守ることが出来るかの指標にはなるが、実際のところは使用者の力量によって変動するから本当に目安にしかならない。ここまでは分かるか?」

「はい」

「うむ。だが、この数値が高いと『反動率』と『適応率』が高くなる傾向があるため、武器や防具を選ぶ時にははやり重要な点になる」

「『反動率』?『適応率』?」


 はい、新しい言葉きました!


「ああ。魔物を攻撃した時に相手が固かったり打ち返されるような武技を使われた際、反動が自分に返ってくる。これによって疲労の蓄積は勿論、純粋に怪我をしてしまうことがあるな。『反動率』とは、それをどれだけ軽減するかだ。返ってきた力を武器がうまく流してくれるのならば、自分の身体の負荷が減り、武器自身のの耐久も減らず、壊れにくい」

「なるほど。では『適応率』とはなんですか?」

「自分の魔力をどれだけ効率良く武器に流すことが出来るかによって、戦える時間が変わる。『適応率』が高い武器は、少ない魔力で武器を纏うことが出来る」

「おお」

「本当はその二つと耐久力を別々に数値として見ることが出来ればいいのだがな。三つをあわせた『攻撃力』や『防御力』といった数値でしか武具の良し悪しを計れないんだ」

「なるほど……。ありがとうございます」

「いや、まあ、これくらいは常識だ」


 正座したまま頭を下げる俺に、グームさんがちょっと嬉しそうに笑った。


「鍛冶をする者は基本的にどれだけ強い物を作ることかを出来るか、そして一度作った物を更にどれだけ強くできるかを日々模索し、我々錬金術師は武器の特性をどれだけ分かり易く、見易くできるかを模索しておる。勿論武器に能力を付与することにも日々研鑽しておるのじゃがな」


 グームさんの説明に付け足すように、爺さんがどや顔で話す。

 グームさんはにこやかにそれを聞いてるからまあ良いけど、ラズロアは呆れた顔してるな。


「だがしかし、お前達二人でアイスネークと戦うなぞあきれてものが言えん。勝てたのは、今生きているのは偶然じゃと理解し、二度とこんな無茶はしないと肝に命じるが良かろう」

「はい」

「……はい」


 ラズロアくん、返事が遅いせいでお爺さんの目がまた怖くなってるんだけど。


「ラズロア、返事が遅い」

「ごめんなさいごめんなさい肝に命じるから許してじいちゃん!」


 再び炸裂したアイアンクローに悶絶するラズロア。

 思わず苦笑いを浮かべて空を見上げようとすると、同じような顔をしたグームさんと目があった。






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