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01-01-08 カイタ・シートーン 8


「何故、そう思う?」

「おー。そのー」


 おじいさんだと思われる人に前頭部をアイアンクローされているラズロは、更にもう一人、二十代前半くらいのイケメンに後ろから口を押さえられていて、うめき声すら漏れていない状態だ。

 でもかなり痛そうなのは見て取れる。

 それにしてもこの状態で歩いてきたのだとしたら、なかなか器用だ。


「ラズロが、あ、いや、ラズロアがその状態で大人しくしてるのなら、身内の方かなと思いました」

「ふむ。それだけか?」

「おー。あとは、自分より強いラズロアが適わない以上、俺はむやみに動くより話をした方が良いのかなとも思いまして」


 それに、ここでお爺さん登場ってのもテンプレかなーと。


「なるほど、なるほど。で?」

「……ラズロアとの会話で、お爺さんから色々な知識を得ている考えられました。さっきの壁に対する知識と、身内の方かもしれないと考えると、お爺さんかと思った次第です」

「ふむふむ。で?」


え?まだ?

もう無いって


「あとは……何となく雰囲気が似ていたので」

「雰囲気?」

「あ、いえ、顔とか?輪郭とか?」

「ひょっひょっひょ。そうかそうか」


 お?ここで超笑顔?


「やっぱり似ておろう。儂とラズロアは。なぁ青年」

「は、はぁ……」


 もしかして似てるって言われたかっただけかい!

 ただの孫バカ?

 でもアイアンクローの力は強くなってる気がするけどラズロは大丈夫なのか?


「よしよし、青年は見る目があるのお」

「はあ……」

「で、お主、名前はなんという?」

「あ、はい。カイタ・シートーンと言います」

「ふむ」


 あれ?笑顔が消えた。


「名字持ち。しかし貴族ではない」


 確かに貴族ではないけど、何故断言する。

 確かに貴族ではないけど、品がないとでも?


「ひょっひょっひょ。冗談じゃよ」


 ニヤリと笑う爺さん。

 あ、笑い顔はホントにラズロとよく似てる……かな?

 って言うか冗談かよ!


「お主、『あらひと』であろう?」

「はい」

「うむ」


 だがすぐに真剣な面もちに戻る。

 ところでそろそろアイアンクローは外してあげないとラズロアが……。


「あの、そろそろ」

「やっと『あらひと』が来るようになったのだな」

「え、あ、はい。とりあえず二千人ちょっと来るはずです」

「ふむ。それだけか」

「この後徐々に増える予定とのことです」

「そうかそうか」


 少しだけ爺さんの表情がゆるむ。


「間に合うと良いのだかの」

「お?何にですか?」

「『おハラい』、そして『おおハラい』にじゃよ」


 ラズロアの口をふさいでいる男の人はともかく、痛みですでにうなだれていたラズロアまでもが驚いた表情で爺さんを見た。


「お祓いと大祓いですか?」

「ラギロダ様!」

「よいよい。これを知られたところで、この者が選ばれるかは分からんのじゃから」

「しかし!」

「グームは全く頭が固いの」

「私はラギロダ様のお目付役ですので、これぐらいで丁度良いのです」

「なーにがお目付役じゃ。ただの金魚の糞じゃろうに」

「なっ!忘れたとは言わせませんよ。先日の会議であんなことを言ったせいで帰り道襲われたのを!だいたいあんな奴らの言うことは流しておけば良いのです!ラギロダ様の足下にも及ばないやからの戯言なのですから!」

「忘れたもーん」

「ラギロダ様!」


 俺の質問を無視して話している二人。

 若い兄ちゃんの方は『お目付役』って所で胸を張ってた位だから、爺さんの側にいるってのは名誉なことなのだろうか。と言うか、恐らくはキーマン。

 そしてその爺さんからこぼれた二つの言葉。クエストか、イベントか。あるいはワールドクエストか。

 色々と聞きたい事や知りたいこともあるけど、まずは……。


「あの、良いですか?」

「おうおう。すまんのう。こやつと喋るよりは何十倍も有意義じゃ」

「ラギロダ様!」

「あ、いや、その、さすがにそろそろラズロアを離してあげないと、彼の頭が」

「ん?これくらいで根をあげるような育て方はしてないはずじゃが……おう」


 思わず声を漏らした爺さん。その視線の先にはとうとう白目をむいたラズロアがそこにいた。





「すまんすまん。ちょっと力を入れすぎしまったようじゃ」


 飄々と笑う爺さんと頭を抱えてうずくまっているラズロア。

 男の人、さっきグームと呼ばれてた人は、どこからともなく出した濡れタオルをラズロアに渡している。

 手に持った瞬間ラズロアが変な顔したのは、冷たかったからか熱かったからか。


「グーム、冷たすぎ」

「それくらいでいい。ついでに頭を冷やせ」

「うるさい」


冷たかったのか。

特に何かしたようにも見えなかったけど、あれも魔法なのかな。


「こういうところが気が利かないからもてないんだよ」

「う、る、さ、い」


ラズロアが十三歳くらいで、グームさんが二十五歳くらいか?お爺さんのお目付役をいつからやってるのか知らないけど、仲良さげな所やお爺さんとの掛け合いをみる限りはいい人な感じだ。


「もともとお前が勝手に領都に行こうとしたのが原因だろう」

「うるさい」

「ただでさえ警報が出ているこんな時に一人で向かうなんて」

「警報?」


 警報?

 ラズロアが頭をタオルで押さえながら見上げると、グームさんが呆れたように腰に手をやりながら答えてくれた。


「見てないのか。まったく……」

「朝一番で出て来たし、ギルドに寄ったら見つかるかと思って」

「お前はこういう時に……」

「で、警報って?」


 思いっきり大きな分かり易いため息を吐いたグームさんにラズロアがくらいつく。

 話を変える意味もあるかもだけど、気にもなるよなそりゃ。俺も気になるからどんどん聞いてくれ。

 なんて思ったら、チラッとグームさんが俺を見た。

 お?俺が何かした?


「『ケガれ』が不安定になっている。恐らくは、『あらひと』が多量にこちらにやってきた影響だろう」


 おおう。


「おおー。それは、なんと言いますか。というか、けがれって何ですか?」


 俺の質問に目を丸くするグームさん。

 イケメンだとそういう顔でも絵になるのね。笑うと糸目の俺が泣くぞ。


「『ケガレ』とは、この世界に漂う汚れみたいなものじゃよ」

「汚れ?」


 質問に答えてくれてのはラギロダ爺さんだった。


「そう、汚れじゃよ。その汚れである『ケガレ』によって動物が魔物化し、人や動物が襲われる。魔物同士が番となり、繁殖し、魔物が世に蔓延る。溜まった『ケガレ』が形を為し魔物と化し、世を怨み、襲う。そして生き物が死に、世は汚れ、また生き物が『ケガレ』るんじゃ」


 まっすぐに俺を見るラギロダ爺さん。

 何となく、背筋が寒くなった。


「とは言ってもその魔物が体の中で生成する『魔石』によって人の世界は便利になったのじゃがな」


 そういって爺さんはまた「ひょっひょっひょ」と笑ったけど、俺を見たあの眼が忘れられなかった。

 怒りでも、侮蔑でも、嘲りでもない、あの瞳を。


「お主達『あらひと』の者達には、是非魔物を狩ってほしいものじゃ」

「俺達が?あ、そっか。冒険者ギルドって」

「魔物を狩る者達に対する互助会じゃな。もちろん『あらひと』だけでなく『つしおみ』の者も参加しておるがな」

「『冒険者』という職業?」

「魔物を倒すことで金銭を得るという面ではあっておるな。魔物の討伐依頼等も出ておるし」

「魔物を倒すと金が出るとか」

「なんじゃそりゃ」

「お、無いんですか」

「全ての貨幣は王都の造幣ギルドで作られており、全部錬金術で管理されておる。魔物を倒したところで出るわけがなかろう。魔物が食っておったら腹から出るかもしれんがの」

「おー。じゃ、じゃあ金を稼ぐには」

「依頼なら、依頼完遂後にギルドから決まった金額が出る。後は魔物から取り出した魔石を売るか、解体がちゃんと出来るのなら魔物の毛皮や臓器を売れば金になる」

「え、でも魔物って倒すと全部黒い煙になっちゃうんですよね?どうやって解体とかするんですか?」

「なに?」

「あ!」


 何故かラギロダ爺さんとグームさんの目つきが鋭くなり、顔を強ばらせたラズロアに視線を向けた。

 あれ?なんかまずった?


「お主、魔物と戦ったのか?」

「カイタ兄ちゃ!むぐ!ぐー!」


 視線はラズロアを見ているけど、「おぬし」ってことは、俺に聞いてるんだよなっておもって口を開こうとするとラズロアが声をあげようとするが、またグームさんに口と動きを押さえられている。


「お、そのー」

「何と戦ったんじゃ?」


ごめんラズロ、俺は喋るぞ。

爺さんの目が怖いし。


「えーと、狼?ラズロアは『アイウルフ』って言って」

「この馬鹿者が!!」


 俺が言い終わる前に、爺さんの雷が落ちました。




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