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01-01-06 カイタ・シートーン 6

「!来るぞ!」


 弱っているはずなのに思ったよりも来るのが早い。

 少し小さくなった分、回復にかかる時間が少なくなったとか?

 だとしたらやばいかも。

 どう考えてもまだ少年の呼吸が調ってない。


「へい!」


 一応挑発みたいな事をしてみるけどこちらを見ようとはしない蛇。

 流石に少しは慣れてきたので恐怖よりも無視されて少しムカつく。


「とりゃ!」


 盾を構え、今までよりも素早く一回突撃。


「追加!」


 そして今度は力を込めて連続体当たり。

 と言っても二回目は蛇との距離がそれほど無いから、盾を強く持って腕の力も使って押し出すようにする。

 その瞬間、盾がほんのりと光った気がした。


「人の話聞いてるのか!?」


 少年が怒りながら蛇を切り裂く。


「休む時間取れただろ!?」

「ちっ」


 忌々しげに舌打ちする少年。

 それでも手と体は休まずに、蛇の体を切り裂いていく。

 あれ?

 試したいことがあるのでいつも以上に目を凝らしてその様子を見ていると、少年の持つ短剣がぼんやりと光ってるように見える瞬間が何度かあった。


「なんか、俺の盾と同じ?」


 その光、輝きと呼ぶには柔らかすぎる光は何となく、さっき俺の盾が光ったときの光と似てる気がした。

 しかしずっと光っているわけではなく、時々だ。


「なんだあれ」


 思わず呟くのとほぼ同時に少年の息が切れ始め、蛇が下がろうとするタイミングでこちらに戻ろうとした。


「追撃!」


 盾を構えて走り、蛇に体当たりする。

 盾が瞬間輝いたと思ったら、蛇の体から、少年が切り裂いた傷から、一瞬だけ黒い靄が強く噴き出した。


「え?」

「?おまえ!?」


 俺を見て威嚇しながら下がる蛇。

 そんなことよりも今の現象を不思議に思いつつ俺も少年が退避した場所に移動した。


「なあ、今のって」

「おまえ!いつの間に!?」

「なに?」


 今度は俺の言葉を遮る少年。

 俺は気にせず最後まで言ったけど、それを聞いて少年は変な顔をした。


「意識してないのか?」

「俺の盾とかそっちの剣がほんのり光るのと関係あるのか?」


 まずはこちらからの質問。

 鈍感系主人公と巻き込まれ系主人公は好きじゃない。ま、俺は自分の人生の主人公でしかないけどね。

 うん。良いこと思った自分。


「ん?どうした?」


 頭を抱えてうずくまる少年。

 蛇は……うん、まだ向こうでとぐろ巻いてる。


「今のおまえがやったのが、武器に魔力をまとわせるってやつだ」

「え?でも盾だよ?」


 既に立ち上がって武器を構えつつ蛇を警戒していた少年は、数分ぶりに呆れた眼でちらっと俺を見た。


「鎧や兜と違って、盾には普通に武技があるし、普通に盾で殴ったり攻撃したりするだろ」

「お、そっか。そういう意味では『武器』なのか」

「はー」


 盛大なため息をつかれた。


「意識して出来てるなら攻撃もしてもらう手もあるが……」


 眉間にしわを寄せる少年。

 ふと思いつき、右手に持った剣を思いを込めて凝視してみる。

 なんとなく……ぼんやりと……。


「!おまえっ!」

「あ、これでいい感じ?」


 一回気を抜くと光はなくなり、もう一度凝視して強く握るとぼんやりと光り出した。


「使えそうか?」

「多分」

「そうか……」


 流石に蛇も復活してこちらを見ながら威嚇している。


「動きは任せる」

「え?」

「流れは途中まで一緒だ。ただ最後の攻撃を盾ではなく剣に変えてくれ」


 蛇を警戒しつつ話す少年の真剣な声。

 今までとそう変わらないはずなのに、何故か気持ちが引き締まる。

「狙いは首のすぐ後ろ。鎌首をもたげた時に曲がるところだ。少しだけ色が薄くなっている箇所がある。その周辺は他に比べると比較的に柔らかくなっている。オレが気をひいてる時にさっきみたいに横から向かって切れ」

「……当てないように気をつける」

「今のおまえの位置くらい、目をつむっていても気配でわかる。気にせず突撃してこい。来るぞ」

「お、おう」


 色々聞きたいのに時間がない!

 蛇空気読めこのやろう!


「こっちだ!」


 少年に向かって突き進む蛇。

 俺の横を通り過ぎるようとしたそのタイミングで、俺は盾を構えて突撃する。


「とりゃ!」


 そしてさっきと同じように二段目を放つ。


「ふたつ!」


 さっきと同じように盾はほんのり光っていて、蛇は横目でこちらを見ながら動きを止めた。


「覚悟!」


 少年が、珍しく叫びながら蛇を切り裂いていく。

 それを下がって見つめる俺。

 さっきと違うのは盾ではなく剣を中心に構えていること。

 少年が蛇を切り裂くスピードが徐々に遅くなるのを見ながら、蛇が下がるタイミングをうかがっているのを観察しながら、右手に持った片手剣に意識を集中させていく。

 ぼんやりと光る片手剣。


「……ヨシ」


 俺は剣を振り上げて駆け出した。

 少年がそれに気付いて場所を空けるように蛇の胴体を切り裂く。


「!」


 少しズレた!

 振り下ろした剣は、色の薄くなっている部分よりも少しだけ胴体よりに当たる。


「クソ!」

「きにするないけ!」


 とにかく力一杯。

 剣と蛇に集中してそのまま振り下ろす。


「お?」


 潰し切る感覚を予想していたけれど、予想に反して刃はするっと蛇の体に吸い込まれていく。

 柔らかいステーキ、いや肉じゃない。豆腐をナイフで切っているような感覚。そんなことやったこと無いけどそんな風にほとんど抵抗無く剣を振り下ろすことが出来、蛇の体を裂いた。


「!」


 勢いよく噴き出す黒い靄。

 体の首回りを半分ほど切ったのだから、切り口も広くて出る量も多いだろうし、勢いも凄い。


「      !」


 声にならない蛇の出す音。

 苦しみの声のような、怒りの威嚇音のような、断末魔の叫びのような音が響く。

 そして噴き出した黒い靄は一定の濃度で辺りにを包み込んだ。

 視界を閉ざされながらもこれで終わりかと思った瞬間、少年の声が聞こえた。


「早く引けっ!ぐっ!!」


 叫ぶ声とうめき声がほぼ同時に聞こえ、思わず盾を上げたと同時に体が締め付けられた。


「ガハッ」


 蛇が俺の体を締め付けていた。


「こっんっなっ」


 なんとか抜け出そうとするが、表面ぬるぬるしているくせに滑らない。


「あうっ」


 黒い靄が消え去り、だいぶ細くはなったがまだ俺のウエストくらいある胴体を俺の体に巻き付けている蛇の姿が俺の目にも見えた。


「ぐっ!」


 まずいことに右手は剣と共に体と一緒に締め付けられており、自由な左手と盾で蛇の胴体を殴るがなんの効果もない。

 しかも片手剣の柄が体に食い込んで地味にそこで痛みが増してる。


「くっそっ」


 盾に魔力をまとわせないと効果がないことは分かっているが、苦しさで意識を集中できない。

 視界の中では少年が随分離れた場所にうつぶせに転がっていたが、意識を取り戻したらしく短剣を杖のようにして上半身を持ち上げ始めた。


「に……げ……ろ……」

「できるか、よ……」


 最悪俺には死に戻りがある。

 けれど少年には、おそらくこういったゲームのNPCにはそれは無い。もしかするとやっぱりこれはチュートリアルの一つで、少年は何度も生き返って何度もこうやって『プレイヤー』と共闘したり逃がしたりするのかもしれないが、そうではない可能性が少しでもある以上、死なせたくない。

 自己満足でしかないのは分かるけど、やっぱり嫌だ。


「ば……か……逃げ……ろ」

「誰が、馬鹿だ」


 ゆっくりと近寄ってくる少年。


「俺は、……死んでも、……蘇る、だか、ら」

「そんな、こと、関係、ない」


 少年が短刀を構える。


「お前を死なせない!オレが決めた!」


 短刀を蛇の体に突き立てようとする少年。

 しかし短刀は突き刺さらず、逆にその勢いで跳ね返り、少年は尻餅をついてしまった。

 蛇はそんな少年の行動に全く反応することなく、舌を出して俺の顔を見ている。

 更に締め付けられる身体。


「ちく、しょ、う」


 蛇を睨みつけるが、勿論蛇はなんの反応も示さない。

 いや、反応はあった。

蛇はゆっくりと口を大きく開けて、オレの顔に覆い被さった。


「やめろー!!」


 少年の叫び声が聞こえた。



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