初対面
「サナ、心の中の誰かに聞いてもらってもいいんだけど……この先には、何があるか知ってるか?」
ナオが、闇の魔力の強い方向へと向かいながら、サナに問いかけました。サナは戸惑うように私に聞いてきます。
『ジネヴラ……あの、さっきの話……』
ああ、やはり聞こえていたのですね。仕方ありません。サナ、質問に答えてあげてください。あとはそうですね……国王や避難した者たちが、闇の魔力によって正気を保てていない恐れがある事も、伝えてもらえますか?
『わかった』
この先の危険を教えられるなら、それに越した事はありませんからね。もしかすると、国王が魔王であるといった可能性は、憶測ですから伏せておきましょう。
「そうか……避難してる人もいるよな、そりゃ。もしかして他にも避難できる場所があったり?」
「えっと、教会があって、その地下にも避難スペースがあるって」
「生存者がいるのにゃ!?」
サナの話を聞いて、生き残りがいる可能性に喜ぶエミルですが、それに待ったをかけたのはフランチェスカでした。
「でも、油断はできませんわ。闇の魔力の影響もあるって、言っていたのでしょう? どのみち魔王を倒すまでは避難してもらう事になりますもの。それに……」
フランチェスカは少しだけ言い澱み、それでも決意したかのように再び口を開きます。
「正気だったとしても、わたくしたちをこのベリラルに誘い込もうとなさるかもしれません。彼らの正気が、わたくしたちの思う『正気』と同じではないと思いますのよ」
暗に、彼らは魔力の影響を受ける前からどこか異常であった、と言いたいのでしょう。さすがはフランチェスカです。全くもってその通りですよ。けれど、一国の王女である彼女としては、他国の事を悪くいうのはどこか躊躇われたのでしょうね。その姿勢もさすがと言わざるを得ません。
「そう、だな……まずはやるべき事をしてから、だな。後のことは少し保留だ。まずは、その城が目的地になる。場合によっては……国王と戦う事になる」
ナオの言葉に誰もが息を飲みました。一国の王と戦う、というのは魔王を倒すのとは別の問題が立ちはだかりますからね。特にフランチェスカにとっては、国同士の戦争に発展しかねないわけですから。
けれど、私の意見としては、国王が魔王になってくれていた方が、倒す大義名分ができて好都合なのですけどね。不謹慎ではありますが。そうでなくても、魔力の影響を受けて正気を失っていた、という理由がある分、容赦なく打ちのめせるのは幸運だと思うのです。
「……せっかくだから、国王をぶちのめせばいいにゃ。これまでの悪政を考えたら、バチは当たらにゃいと思うのにゃ」
「エミル……ま、まぁ、俺も思ったけどさ、言い方が直球……」
そう思ったのは私だけではなかったようですね。むしろ、全員かもしれません。エミルがハッキリ言ってくれたおかげで迷いもなくなったように思いますしね。
「……わたくしは、あえて発言を控えさせていただきますわ」
「フランは、それでいいと思う」
いくら今はただの旅の仲間とはいえ、王女であるという事実は変わりませんからね。その姿勢は正解だと思いますよ。きっと気持ちは同じでしょうし。サナがそっとフランチェスカの背に手を添えて声をかけました。
「ってなわけだから、みんな覚悟は決めとこうな。そうなると、こっから先は魔物相手じゃなくなる。戦い方も変わるだろうから、みんな心に置いといてくれ」
「わかったにゃ!」
「わかりましたわ。罪……はありますけれど、わたくしたちが裁いていい人ではありませんものね」
普通なら、罪のない人たちを巻き込むわけにはいかない、と言いたいところですけれどね。フランチェスカの言い方は言い得て妙ですね。
つまり、相手が人である場合、殺してはならない、とそういうわけです。意識を奪うだけというのは、あっさり殺してしまえる魔物戦より大変かもしれません。
『私は、いつでも行けますよ?』
チラとでも、目を向けるのではありませんでした。エーデルは、頼まれるのをじっと待っているようです。屈辱ですね……頼まれるまできっと動く気はないのですよ。私がお願いしますと、そう言わない限り動かないつもりでしょう。
ここはやはり……ルイーズですかね。リカルドはまだ動けませんし、動けたとしても高火力魔法ばかりを使う彼では対人戦は不向きです。ニキータはおそらく先ほどの魅了でほぼ力を使い切ったことでしょう。余力があったとしても、彼女が素直に頷くとも思えませんけど。パウエルはそもそも状況を理解していませんし、していたとしても無機物のみですので無理です。
その他のメンバーは戦闘はできませんし、ルイーズしかいません。彼女も、対魔物戦に特化していますから加減してもらう事になりますが。
『……行けばいいんだろ?』
私の迷いが彼女を呼んだのでしょう。察して談話室までやってきたルイーズが私に声をかけてくれました。ルイーズはチラとエーデルを見て、それからまっすぐ私の元へとやってきます。
『うっかり、殺しちまわないように、気をつけるからさ。スキル発動しなきゃいけると思う』
本当に頼もしい限りです、ルイーズ。頼めますか? 私がそう言えば、ルイーズが軽く頷いて支配者の席まで向かいました。エーデルは、お手並み拝見と小さく呟き、相変わらずソファに座ったまま動きません。……このままではサナと会ってしまう気がしますが、仕方がありません。
「! ルイーズが代わるみたい」
「そうか、頼もしいな。あ、サナじゃ嫌ってわけじゃなくて……」
サナがみんなにそう報告すると、ナオが一度喜び、それからすぐに慌ててフォローしようとあたふたし始めました。サナはその様子にクスリと笑うと、笑顔で答えます。
「大丈夫、わかってるから。適材適所、なんでしょ?」
「う、うん……」
「私は中で、応援しているから」
それだけを告げると、サナは軽く目を閉じました。交代する準備ができた、という事なのでしょう。
『行ってくる』
ええ、頼みましたよ。ルイーズは支配者の席に立ちました。
スキル【スピリットチェンジ】発動しました。
身体の使用者がサナからルイーズへと変わります。
「……本当に、不器用な男だなお前」
「申し訳ゴザイマセン……」
チェンジ直後、ルイーズは横目でナオを睨みました。まぁ、そう言わないであげてください。気持ちはわからなくもありませんし。
「まだ、ちらほらと魔物の気配もするにゃ! さっさとお城に向かうにゃよ!」
そうですね、油断している場合ではありません。ナオたちはここから一気にスピードを上げて、先へと進み始めました。
『……あ、あの』
そして、心の中の世界では──
『ああ、初めましてサナさん。私はエーデル。以後お見知り置きを』
『エーデル……えっと、はじめまして。サナです。その、よろしく……?』
ついに、サナがエーデルと初対面を果たしてしまうのでした。





