依頼の受理
「……確認してきました。ちょうど先ほど届いていたようです」
受付嬢が戻ってきてそう告げます。予想通り、今後は街から街へ移動する際や、海を渡る時にはしっかりとした護衛をつけること、場合によっては運航は見合わせよ、という内容だったと言います。
「つまり、そういうことなんだ。僕たちが頼もうと思ってた依頼っていうのはさ、僕らの乗ってきた船が国に帰れるように……」
「護衛の冒険者を募りたい、ということですね?」
「そういうこと。今ならまだ、荒れてはいないと思うけど……水とか風の魔法が得意な人材とかがいいんじゃないかな」
腕っ節が強いだけでは、もしも海が荒れ狂った時に対処できません。もちろん乗り込んできた魔物を倒す人材や、力仕事が得意な者は多ければ多いほど良いですが。
補助系魔法の使い手もいればさらに安全でしょうが、船全体を保護できるほどの使い手は希少ですし。その点、水や風の魔法を使う者はそれなりにいますからね。
「ハーヴィスさんも乗ってくれたら心強いんだけど」
「ったく、上手いこと口が回るもんじゃねぇか」
「ダメ?」
オースティンは首を傾げてそう尋ねます。小柄な身体では必然的に上目遣いになるのですが、サナという少女の外見を利用した確信犯ですね。少女の身体にあれほど抵抗感を抱えていたのに、強かになりました。
「はぁ……わぁったよ! 他にも良さそうな奴らと向こうに行きたい奴らを集めてやる」
「やった! そうこなくっちゃ!」
このハーヴィスという男も大概お人好しですね。少女にお願いされては無碍にできないのでしょう。ため息を吐きつつあっさりと了承してくれました。しかも、頼んでもいない事まで自ら申し出てくれましたね。事が事とはいえ、責任感が強いようです。彼なら、最適な人材を集めてくれるでしょう。
「では、この依頼はハーヴィスさんが引き受けるということでよろしいですね? 船にも乗員数がありますから……それを確認した上で、ハーヴィスさんにはまた後ほど集める人数をお知らせします」
「超えたら面倒だしな。わかった、だが早めに頼むぜ」
こうして、最初にやらねばならなかった冒険者ギルドはの依頼は無事に完了しました。
「ふう。少し疲れたな……悪いけど僕はもう戻るよ」
「本当に助かったよオースティン。円満に解決できたのもオースティンのおかげだ。ありがとな」
「どういたしまして。じゃ、またね」
ヒソヒソと小声で告げるオースティンに、労いの言葉をかけるナオ。やはり力の弱さだけが惜しいですよね、オースティンは。本人が一番悔しいと思っているでしょうが。
スキル【スピリットチェンジ】発動しました。
身体の使用者がオースティンからサナへ戻ります。
『とっても勉強になった。ジネヴラ、私がありがとうって言ってたって、オースティンに伝えてくれる?』
チェンジ直前、サナはそんな風に告げて笑顔で支配者の席へと戻りました。ええ、承りましたよ。
『……聞こえたよ。その言葉だけで十分。はーっ、疲れたー! 寝てくるよ』
チェンジ直前だったからでしょう。どうやら直接、サナの言葉は届いていたようですね。オースティンはぐっと背伸びをしてそう言いながら自分の部屋へと戻って行きました。
顔色が少し悪いようでしたから……ゆっくり休んでください。オースティン。
「うにゃあ、お腹すいたにゃー!」
あれだけ注目を浴びた後でしたので、冒険者ギルドにある飲食スペースには寄らずに、近くにある飯屋に行くことにした私たち。これまでずっと大人しくしていたエミルが伸びをしながらそう言いました。
「わたくしも流石にお腹空きましたわね」
「エミルはああいう雰囲気苦手にゃから、余計にお腹空いた気がするにゃ」
「や、それは気のせいだろ」
ようやく皆の顔にも笑顔が浮かびます。緊張していたのですよね。まだ若いのですから当然ではあります。それなりに実力のあるメンバーといえど、経験は圧倒的に少ないのです。そしてそれだけは、実際に経験する以外に鍛えようがありませんからね。
「みんな、お疲れ様。私は何も出来なかったけど……」
「適材適所、ですわよ。わたくしだって、さっきは見ているだけでしたもの」
「エミルの方がそうにゃー」
「んな事言ったら俺だって!」
サナの一言で、皆がそれぞれ自分は役に立たなかったと主張し始めました。四人は互いに顔を見合わせ、それから吹き出して笑います。
「オースティンのおかげ、だね」
「おう! オースティンが大活躍だった、でいいんじゃねーの?」
ええ。本日のスターはオースティンで間違いありませんね。今は部屋に戻っているのでこの会話は伝わっていませんが……今度教えてあげるとしましょう。
「次はエミルが活躍するにゃー!」
「ふふっ、そうですわね。みんなそれぞれ活躍の場が違うだけですわ!」
そうですね。自分にできなかった事を嘆くより、自分にできる事をその時々でしようと行動することが何よりも大切ですし、前向きで良いと思います。
サナ一人では辿り着けない考え方だったでしょう。私は、今後もこうして少しずつ、サナの意識が変わっていけばと願いました。
冒険者ギルドから歩く事少し、大衆向け食堂にやってきた四人は、ようやく昼食にありつく事が出来ました。それぞれ、本日のランチを頼みます。大衆向けですので銀貨二枚と値段も手頃です。
よほどお腹が空いていたのか、誰もが一言も発する事なく黙々と食べ進めています。空腹を満たす事が第一になっていますね。仕方ありません。
「はぁ、落ち着いた。ごちそうさん」
「わたくし、こんなに空腹を感じたのは初めてでしたわ」
おや、フランチェスカはやはり王女ですね。空腹が最高のスパイスだと気付けた良い出来事だと思ってもらいたいところです。
「さて、今後の事について軽く話しましょうか。ああ、サナ。食べながらで良いですわ」
人より食べるのが遅いサナは慌てて掻き込もうとしましたが、フランチェスカに止められました。口の中がいっぱいのサナはコクコクと首を縦に振ることで答えます。
「まず、今夜の宿を探しましょう。これだけ大きな街ですから一つくらいは空いていると思いたいですが……すでに出遅れていますからね」
「勇者の幸運に頼るにゃ」
「まぁ、そうですわね。頼みましたよ、ナオ」
「んな無茶な」
街は確かに大きいですが、その分人も多いですからね。船が着くのも遅れましたし、依頼を出すのにも時間が少しかかり、さらに昼食も先にとったりと後回しにしてしまいましたからね。けれど、ナオがいればおそらく幸運が働くでしょう。期待しましょう。
「それから、ナオに確認ですわ。……魔王の居場所について。まだ、確信はないんですの?」
「あ……」
そういえば、ベリラルに向かうことを二人には話していませんでしたね。本当はナオが魔王をうまく察知出来ていないことは、サナとの秘密のやり取りでしたから。
とりあえずの目的地、ポルクスに着いた今、次なる目的地を気にするのは当たり前のことです。ナオはうーんと少し考え、頭を掻きながら口を開きました。





