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6話 一時の休息

先に言って置きます、お色気シーンなどはないですお風呂に浸かってるだけです……

「お風呂の準備で来ました」


 彼女がそう言い扉から現れたのは、食事を済まし少し考え事をしていたころだった。

 盆をアルスにテーブルまで持って行ってもらい、動きの取りにくい身体を動かしベットから降りる。


「ここの湯は筋疲労や精神疲労を治癒する効能があるんです」


 そう言い彼女は手を貸してくれる。

 アルスと入違いでベットまで来た彼女は動きにくい儂に手を差し伸べ助けようとしてくれた。


「いや、大丈夫です」


 そう言い断ろうとしたが


「倒れでもしてアルスちゃんに心配かけてもいいんですか?」


 鶴の一声とはこのことを言うのだろう。彼女の言葉に反論する言葉が思い浮かばず申し訳なく思いながら彼女の差し伸べた手をつかむ。

 女性の柔らかいてだ。アルスよりは大きいがやはり小さな手。


「……」


 年老いてるくせに少し気恥ずかしくなってしまった。


「親父! 私も手を貸してやる!!」


 テーブルに盆を置いてきたアルスが駆け足で帰ってくると小さな手を差し伸べてくる。

 もちろん身長差があるため支えになんてならない。


「ありがとう」


 でもアルスの好意を無碍にすることはできるはずもなく差し出された手を握る。

 アルスの手はギルド嬢の手より少し硬い。戦闘をしてきたせいで筋張っているのだろう、自身の意思で選んでもない道で、身体が変化してしまっている。

 その事実に怒りと悲しさを抱く。


「さぁアルス汚れた身体を綺麗にするぞ!」


 今アルスに言ってもどうしようもないことだ。胸の奥に感情を押しこめ、取りあえず風呂を目指す。


「おふろー」


 手を引いてくれる美女と美少女。見るものが見たら喜ぶのだろうか?

 ゲームをしていたころもキャラに感情を向けることがなかったためよく分からない。


「先ほどの料理美味しかったです」


 廊下にでて少しあるいたころに早くも沈黙に耐え切れず話題を探し、先程の料理の事に触れる。

 こういった話題は最後の切り札に取って置くべきなのかもしれないが、他の話題となると長時間喋らなければならないような話題ばかりで、歩きながらしかも手を引かれている状態となると話しにくい。

 もとより歩きながら話すような話題ではないため、部屋に戻ってからでも放そうと思って居たのだが


「お口にあったのなら良かったです」


 彼女はほのかに微笑みそう答えるだけで話題が広がらない。せっかくの話題がこのたった二言のやり取りで終わっては次の話題を探すのが大変だ。

 沈黙を破ってからの沈黙ほど気まずいものは無い。


「ほのかに香る苦味に、コクのある味付けがマッチして深い味わいになってすきっ腹に痛くもなく、それで居て満腹感もある味わいでした」


「それならよかったです」


 またしても一言で終わってしまった。

 先程より笑顔がこくなっている気はするが、それでも話が広がらない。

 もしかして彼女が作った料理ではないのだろうか?


「お嬢さんが料理を作ったのではないのですか?」


 不意に思った疑問が口をついて出る。

 とっさに口をつむぐがすでに発された言葉を無かったことに、飲み込むことは出来ず


「私がつくりました」


 と、返答が返ってくる。

 彼女が作ったのならなぜ嬉しそうにしないのだろう? お世辞だと思われているのだろうか? それともあれは失敗作なのだろうか?

 でも失敗作を押し付ける様な女性には思えないし、褒められ慣れて無いのだろうか?

 もしそうならこれ以上話題を広げるのは良くないな。

 次の話題は先程偶然見つけた。


「そう言えばあなたは何という名前なのですか? もしあの時名乗っていたのなら申し訳ない。意識がもうろうとしていた」


 受付だけなら名乗ることは無いの我普通だが。もしかすれば電話受付みたいに名前を名乗るよう教育されて居るかもしれない。

 それを聞いておらず名を聞くのは申し訳ないのだが、それでもあの時の状況は悪かったということで勘弁してもらう。


「まだ名乗っておりませんでしたね、私はエルシーとおよびください」


 茶髪の受付嬢改めエルシーと名乗る彼女。

 だがこれで話題は終了してしまう。話題を見つけたと思って居たが、結局即終わってしまう話題だった。


「もうすぐでつきますのでもう少し頑張ってください」


 彼女はもしかしたらただただ真剣なだけなのかもしれない。これで儂がけがをしたら彼女の責任問題になりかねないと。

 それならこれ以上彼女の気を散らすのは良くない。

 だがそんな気づかい? もむなしく横に居た少女は


「おねーさんの作ってくれたお汁美味しかったよ! ご馳走様」


 先程教え飯の終わりの挨拶と共に率直な感想を語る。


「ごちそうさま? アルスちゃんありがとうね」


 儂の時の微笑みからニコニコに変わったあたり表情を適度に変えるのに慣れているようだ。

 相手によって顔色を変えるのはある意味凄い能力ではある。だがそれ故にそう言った能力のあるものは気心労が絶えない。それにそのスキルに気づかない人間からは色々言われる事が多い。


「大変ですね」


「??」


 彼女は言葉の意味が分からず困ったように表情を曇らせる。

 表情豊かなのは彼女正確なのか、それとも……


「すいません気にしないでください」


 少しの話なのにすでに階段を下り終わりカウンターの近くまで来ている。

 二階にあったらしい部屋から、今の儂でも五分足らずの時間で来れたことを考えると縦にはそれほど大きくないのだろうか?

 何も思わず歩いていたが内装は完全に木製だった。


「そっちに入ってもいいんですか?」


 カウンターの中に入って行こうとする彼女についていく形で入ってから聞く。

 普通こう言ったところは関係者以外立ち入り禁止だ。


「えぇ大丈夫ですギルドに登録していただいている冒険者の方には無料で提供させていただいています。効能も冒険者様用と言った方が適切なないようですし」


 彼女の最後の一言に納得がいく。

 ギルドに入るとそう言った免除があるのか。


「ですが大手のコミュニティになると自分たち専用のお風呂を用意して居るんです」


「何故です? 効能があるのにわざわざ自分たちで風呂を作るなんて……」


 冒険の結果報告にはギルドによる必要がある、仮にギルドの風呂に来るのが面倒だと思うのであったとしても結局ギルドには足を運ばないとならない。


「コミュニティが自身で開設したお風呂には各々のコミュニティの改良により、効能が付与されて居るんです。だからこちらよりそっちを優先される方が多くて」


 効能をいじれるのなら確かにそっちの方が良いのかもしれない。だがギルドの風呂を使うメリットはいくつかあるはずだ。


「そうなのですか」


「ではこの機会にお風呂の説明も行いますね」


 脱衣所手前ののれんがかかっている場所まで来て彼女は説明を開始する。

 因みにここまでの通路は一本道で途中横にドアがいくつかあったが流石にそこに入ってはいけないらしく、注意喚起の文字がかかれていた。


「こちらの青い幕の向こうが男性、赤い幕の向こうが女性になっております。今回は人もいないですしアルスちゃんが男性風呂に入るのは構いませんが。人がいる際はなるべくでしたら女性の方に入ってください。と言っても初心者さんは安全のためにどこかのコミュニティに所属することが多くあまりここにじゃこないんですけどね……どこにも属さないパーティーの初心者さんは……」


 彼女はその先を語らず「ゆっくりしていってください」と一言置き、来た道を帰っていった。

 彼女の最後の言葉の続きは容易に想像できる


「入るか」


 立ち去る彼女に掛ける言葉が出てこず、礼を言う事も忘れてしまっていた。


「親父いくぞ!」


 アルスは先ほどの話の内容を理解して居ないのか、いつもと同じ様子。だがいつもと変わらぬ無邪気な姿が彼女の様な人にはいいのかもしれない。

 いくら言葉を連ね重ねたところで染み込むかは分からない。言動は勇気づけるのに手っ取り早いことも多い。儂にできることが何かあるだろうか? そんな疑問を抱くも、手を引く少女に急かされ脱衣所に向かう。


「広いな」


 どれほどの人間が一同の入るのを想定したのか脱衣所の時点でかなりの広さになる。

 学校の更衣室の二~三倍はありそうだ。


「会社の更衣室より広いかもしれんな」


「親父早く入るぞ!」


 何が楽しいのかすでにまっぱになった彼女は服を散らかし手を引いてくる。


「アルス、他の客がいないからいいってわけじゃないんだ。服はちゃんと籠に入れなさい」


 服と下着の二枚だけだが散らかしていい訳ではない。アルスに適当な籠にしまうように言いつけ自分も服を服を脱ぐ。


「しまったぞ親父」


 籠にしまっているアルスを確認し浴場に向かう


「入ろうか」


 扉を開けるとそこに広がる光景は想像を絶するものだった。

 脱衣所から想像はしていたが、その想像よりもはるかに広い浴場。どれほどの人数を収容することを前提に設計すればこれほど大きな浴場を用意しようと思うのか正直分からない。

 銭湯の倍……いやもう少し大きそうな浴場は湯気のせいもあってか全貌が見渡せない。


「取りあえず体を洗わないとな」


 流石に汚れたまま入るなんてマナー違反は出来ない……以前に風呂を汚してはただで借りてる身としてかなり申し訳ない。


「アルス入るのはあとだ、先に体あらうぞ」


 風呂に入るのがそれほど楽しい事なのか分からないが落ち着きがない少女は、今にも飛び込みそうだったため一応注意をして近くにあったイスに腰を掛ける。


「蛇口もあるのか」


 この蛇口がどのようにして水を出しているのだろう? 向こうと同じ原理なのだろうか? それとも魔法の力なのだろうか? と言う疑問を解決する術がなく、疑問を晴らすためだけに破壊する訳にもいかず、もやもやした気持ちのまま体を洗いだす。


「親父!」


「何だ?」


「洗って!!」


「はぁ?」


 アルスはそれほど幼くはない。見た目道理でも二桁に入っていてもおかしくない。見た目以上に幼かったとしても小学校低学年くらいの年齢はあるはずだ。それで体が洗えないと言うのは些かどうしたものなのか。

 体を洗うよう教育するべきなのか、洗ってあげるべきなのか……


「ちょっと待ってろ」


 自分の体を早めに洗い終わらせアルスの体を洗ってやることにする。

 その決断をした理由の一つは彼女の体の汚れだ。いつから入っていないのか、それとも逃げてる最中にこれほど汚れたのかは分からないが汚れがひどい。

 皮膚にこべりついた汚れは幾層にも積み重なっている、髪は皮膚に比べるとましだがそれでも汚れは酷い。


「少し痛いかもしれないが痛かったらいえよ?」


「分かった」


 力ずくで汚れを落とす訳にはいかないが、この層になった汚れを上から剥がしていくだけではどれほどの時間を有するか分からない。

 そのため少し力を入れ強引にとりはらう。


「んんー」


「痛いか?」


「んにゃきもちいぃ」


「それならいいんだが……」


 変な声を出すから痛いのかと思ったじゃないか。

 それから数分こべりついた汚れと対決し勝利をおさめ、皮膚の汚れを落としきった。


「次は髪だから目閉じとけよ」


「あい」


 とう言い髪の毛にとりかかるが、ここで難解な壁が立ちはだかる。

 髪の汚れの落とし方だ。皮膚の方は少し強めに力を入れたが髪はそういうわけにはいかない。頭皮を痛めたりキューティクルを損なう荒い方をすれば、彼女の今後の生活に関わる。

 男なら気にするなと言うのだが、彼女は女性。今後の人生の方が長い、その辺りも考えると少し難しい問題だ。


「親父どうした?」


「嫌なんでもない目閉じとけよ」


 時間がかかってもゆっくり汚れを落とす道を選択する。

 髪を温め汚れをふやかし、シャンプーを多めに取り髪になじませる。泡は全然たたない、その代りに汚れは少しずつ落ちて行く。茶色く汚れた手を見て一度水でシャンプーを流す。

 今度は髪を温めずそのままシャンプーをつけると泡が立ち、彼女の頭が見えなくなる。ゆっくり爪を立てずに荒い再度泡を流す。

 泡の向こうに現れたのは綺麗な金髪だった。


「アルス君の髪は……」


 彼女の髪は汚れて茶色くなっていただけで本当は金髪だったらしい。


「もう少し待ってろよ?」


 そういい三度目になるシャンプーを開始する。

 次は頭皮を指の平で少し刺激するような形で洗う、三度目と言うこともあり汚れはそれほどないのか泡も汚れず、アカのような物も落ちてこない。


「これで終わりだ」


 そう言い三度にわたるシャンプーを終了するために髪を流す。


「親父もう目を開けてもいいか?」


 そう問いかける少女に


「あぁ構わん風呂入ろうか」


「うん!」


 走って行こうとするアルスに


「歩いてけこけると大変だ」


 注意をし見送る。そしてアルスの体を洗う最中に汚れた身体を手早く洗い直しアルスの後を追う。


「アルスは風呂が好きなのか?」


 彼女は風呂に入る事を嬉しそうにしていた。女子というものは風呂が好きだと言う話は有名なものだが、それほど楽しいものなのだろうか?


「お風呂は暖かい水につかれる場所です! 暖かいのは良いものです」


 今の返事から感じ取るに彼女は風呂に入ったことがないのだろう、アルスの境遇を考えても少し可哀想に思えてくる。

 今まで風呂に入らず川など……最悪はその辺の水道とかで体を洗っていたのなら


「ゆっくり疲れ、誰も邪魔しない」


 アルスの好きな様にさせてやろう。のんびり手足を伸ばし手疲れる風呂は初めてのようだし


「親父!」


 満面の笑みで叫び彼女は風呂に飛び込む。

 ……は?


「アルス?」


 彼女は飛び込んだ後大きな浴場を泳ぎ始めた。ぷかぷか浮いたり足をばたつかせ泳いだり、浅いはずなのにもぐったりと。

 彼女は風呂を川や海と勘違いしているようだ。流石にアルスの好きなようにさせてやると、先程言ったがこれは叱らなければならない。

 自身の意見をすぐさま翻し湯船に浸かり


「アルス、こっちに来なさい」


 取りあえずアルスを呼ぶ


「親父? どうしたんです?」


 遊んでいても声は聞こえたのか直ぐさま目の前に泳いでくる。そのしあの水しぶきが儂の顔にかからなかったのは彼女の配慮か、それとも偶然か。


「お風呂は川や海の様な泳いでいい場所じゃない。今は居ないが他に客が居たらどうする?」


「その時は水がかからないように」


「いろんな人が使う公共の場でそう言った行為をするとアルスだけでなく、儂にも周りの目が付きまとう。だからしちゃいかん」


 どう説明すればいいのか分からず脅してしまった事実に後悔する。

 小さい子を育てた経験があれば叱り方一つとってもしっかりできるのだろうが、儂が叱ったことがあるのは大人のみ、小さい子供を叱る方法など知りもしない。

 一から説明したところで、理解は難しく、甘やかす訳にもいかず、どうすればいいのか悩んだ末の万人に共通する文句である、脅しに逃げてしまった。


「親父にも迷惑がかかるならやめる」


 結果幼い少女は聞き分けよく大人しくなった。

 これで良かったのか少し分からないが、今後しっかり泳げる場所に連れて行くか、自分でしっかりしたパーティーを組めるようになった時には周りの目を気にせうアルスが思いっきり遊べる場所を、作ることを胸に誓った。

今のところ聞き分けの良いアルスちゃん、今後どのように変化するのでしょうか?

反抗期が来たらと思うと少し怖いです

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