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5話 情報整理

 ここはどこだろう? ふわふわした夢現の様な状態で横たわっている。

 少し硬いベットに仰向けで寝ており天上はむき出しの石で作られている。周囲を見回したいが思うように体が動かない。目も霞み頭もずきずき痛み、右腕の感覚がない。だが不思議と右手に伝わるぬくもりだけは分かる。そのぬくもりに安心すると意識が遠のき気を失った。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 俺は……あぁギルドに来て少しして倒れたんだったか。確か登録やモンスターの買い取りなんかの話をして、そしてポーションを頼んで……

 そうだ! アルス、アルスはどうなった!


「ア、アル……ス」


 途切れ擦れる声と同じく体もゆうことを聞いてくれず直ぐに体を起こすことが出来ず、少し起きるのに時間がかかった。

 体を起こすとそこは木製のどこか落ち着く様相の部屋が広がっていた。周囲の様相と違い天井は武骨な石が向きだしだ。

 家具の類は小さいテーブルが置いてあるのみで他は儂が寝ておる簡易ベットのみ。

 見たことのない周囲の光景を少し眺めた後、右手に感じるぬくもりに気がつく。

 小さな手にしがみつくように握られた右手はボロボロだったはずなのに、今は痛々しさを欠片も感じさせない綺麗な手があった。


「アルス」


 小さな手の主は草原で出会った少女。彼女の手も怪我があったはずなのに治っており、痕が残ったりしておらず綺麗な腕を拝み一安心する。


「だがここはどこだ?」


 先ほどの記憶から考えるにここはギルドの中、若しくは近くの病院の様な場所に運ばれたと考えられる。だが病院だと個室に相当するため、ギルドの客間と考えるのが妥当だろう。

 だがなぜ初対面の俺たちにそこまで優しくしてくれたんだろう?


「……お、おやじ?」


 寝起きの寝ぼけ眼で儂を見つめすぐさま覚醒するアルス。よほど疲れていたのか、髪はぼさぼさで良く見ると服着替えておらず体は汚れており先の戦闘のままのようだ。


「親父! 元気になったのか? 手は……手の痛みは?」


 そう言いアルスは自分の手でしっかり握った儂の手を上に持ち上げる。

 痛みを気にするのならその動作はどうなのだろう? と言う疑問を抱くも彼女の元気な姿に疑問はどこかに消える。疑問のみではなく


「痛みは無いぞ?」


 痛みも不思議なことに元からしていなかった。

 起きて右手のことを思いだしそうになった瞬間フラッシュバックしたあの光景。だがその光景を、痛みを思いだすより先に彼女のぬくもりに気づき、痛みより安堵が勝ったためか痛みは感じなかったのだ。


「親父本当か? お姉さんは痛みがあるかもって」


「大丈夫だ、アルス君が握っていてくれたおかげかな? 我慢をしてる訳じゃ無く本当に痛みは無いんだ」


 そう言い今尚握られている彼女の手に少し力を入れて痛みが無いことを証明する。

 彼女は少し赤くなり直ぐ手を振りほどこうとするが、大人の力に勝てる訳もなく抵抗もむなしく振りほどけない手を少し見つめ、その後儂の方を恨めしそうに睨みつけたのちに、降参し抵抗を止めた。


「あれから何があったか聞いていいか?」


 寝て居た時間は恐らくそれほど長くはない。アルスの見た目が変わっておらず部屋の窓から差し込む日差しが日中で有ることを示してくれている。長く見積もっても十数時間だろう。

 およその睡眠時間と違い確実に分かってることが一つある。俺たちは無事難を乗り越え、そして安全を得たが、事が終わったというわけではないと言うことだ。


「親父が倒れてからここのお姉さんが色々良くしてくれたのです、食事と部屋を貸してくれ、ポーションも出世払いでいいからゆっくり休んでくれと言ってくれました」


 ギルドと言うものがどういったものかは分からないが、行き倒れを見捨てることのできない組織であり。行き倒れに手を差し伸べ介抱するだけの余裕があるらしい。

 力的な余裕なのか財力的なのか、物資なのか、発言力かは今はまだ分からないが。どの力にしろギルドに居る限り一時の安寧はえられるらしい。


「アルスはこの世界の事をどれくらい知っている?」


 何かしらの力を持っているギルドの保護下にいる間は少なくとも安全は確約されている。

 この機を逃すのは勿体無い。安全に情報収集できるのだ今のうちに彼女の知って居る情報を聞き、今後の方針を決めないといけない


「ごめんなさい親父かろうじて読み書きを出来る程度で……」


 彼女の境遇的にそれほど期待はしていなかったが、それなら儂とそれほど変わらない。だが別に彼女から聞けなくとも問題は無い。


「アルス、お前は悪くない。謝る必要なんてないんだ」


 しょぼくれて居るアルスの頭を左手でさする。

 右手は今尚握っているため少し態勢が厳しいが身体をひねり左手で頭を撫でてやる。あの時は汚れていたため頭を撫でてやれなかったが、今は綺麗になって居る。

 右手を放しても構わないのだが……もう少しこうしていたい。痛みを感じないのは彼女のおかげである部分が大きいだろうから。


「アルスお前服や身体が……」


 自身の左手を伸ばし気づいたのだが、儂の左手も血で汚れていたはずなのに拭かれたのか血の後は無い。服は流石に変えられなかったのか汚れたままだが……


「それは親父そばにずっといたから……」


 少し恥ずかしそうにつぶやくアルス。

 頬をほのかに赤らめ俯く姿は愛らしく愛おしい。


「ありがとうな」


 彼女が一晩そばに居てくれたおかげで腕の痛みが無いのだと確信を持てた今、彼女への感謝がまた大きくなった。


「なら後で服を買いに行こうか」


 アルスの頭をなでながら言うと、少しうれしそうにうなずく。


「さっきの質問だが、アルス君が分からないなら他の分かる人物から聞けばいい」


 小首をかしげこちらを伺うアルスとは別に、外から階段を上がるような足音がかすかに響いて居ることに気づき扉を見つめている。今階段を上ってきている人物に質問の矛を向ければいいのだ。

 儂以外にこの階に泊まっている人物がいればその人物に対する訪問、若しくは泊まっている人物である可能性が高いが、ほのかに香る香ばしい匂いが腹の虫を刺激し、この部屋に訪れると言って聞かない。

 その直感がアタリ部屋の前で止まる足音。そして響く声


「失礼します」


 掛け声をかけた後直ぐに扉が開きどこかで聞いたことの有る大人びた綺麗な声の主が姿を現す。


「目覚めてらしたのですね、追加で朝食をお持ちするので少々お待ち下さい」


 姿を見せたのは小さな帽子を頭に載せ茶髪の女性。長いスカートは床につきそうで肌の露出の少ない制服。胸の辺りにペンダントの様な装飾が輝き目を引く。

 受付嬢と思われる彼女の手に持つ盆にはパンとスープが入っており、量はおそらくアルスの分のみで少量。

 少女用の量では二人分は少ないと気を回した彼女の発言だったが


「お構い……」


 あまり甘えることは出来ないと、断りを入れようとした発言に横やりを入れたのは自らの腹。

 最後まで言い終える前に腹の虫が暴れ室内、下手すれば屋内に響き渡ったのではと錯覚するほど大きな音を垂れ流す。


「クス」


 彼女は少し微笑み


「少し待っていた下さいね」


 そう言って来た道を引き返す。


「おやじ?」


 仕方ないとはいえ羞恥をさらしてしまった。

 俯き顔を覆いたい感情に負けるも右手が封じられているため左手だけで顔を覆う。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「さっきの女性がポーションを分けてくれたって言うお姉さんか?」


 少し時間が経ち冷静さを取り戻しアルスに質問する。

 彼女は儂の分を作ってくれているのかまだ来ない。


「そうですさっきのお姉さんがポーションをくれたのです」


 対価を払わず与えていては他への示しがつかないはず


「彼女の独断か?」


 それとも何かの規定に基づき与えることが特例として許されているか……。

 どちらにしても彼女、このギルドに受けた恩を返さなければならない。


「恩を返す方法は何がある」


 金銭での解決は恩を返したといえない、彼女若しくはこのギルドが困って居ることがあるのならそれを解決すべきなのだ


「力が必要な問題だったら困るな」


 そんな考え事をしていると先程の女性が食材を追加し再度訪れた。


「すいません、お待たせして」


「お気になさらず、儂等はお嬢さんの好意に甘えてる身」


 盆には先程のパンと汁物に追加して粥がある。粥は消化に良い為世界が変わっても病人食として与えられるみたいだ


「トシヒサさんは少し消化の良い物にしました、一昨日の一件で喉を通らないかもしれないですから」


「年寿? ……一昨日!?」


 彼女が儂の名前を呼んだことにも驚いたが日にちの立ち方が予想と違っていた事もそうだが、アルスが汚い身なりのまま一日過ごしたことが問題だ。


「名前はハンター証制作時にお聞きしましたし、アルスちゃんと判別がつき安いようにお名前で呼ばしていいただいたのですが……」


 彼女の話がかすかに入ってくるだけで七割くらい流れて行った気がする。


「今日は年寿さんたちが訪れてから二日目の朝ですよ? 傷は治っていたのですが精神的な問題か体力的な問題か一晩目を覚まさなかったんです。もう少し長引くかと思って居たんですけど、早く目覚めれて良かったです」


 彼女は微笑みながら語ったがやはりそれどころではない。


「す、すいませんアルスを風呂に入れてやってもらってもいいですか? これ以上迷惑をかけるのは申し訳ないのですが……もし風呂が高価なものなら身体を拭くだけでも」


 色々問題は山住だが一番急を要するのは幼子の身なりだ。流石に少女が一日土や血にまみれた状態で過ごして良いはずはない。


「え、ええ構いませんが」


「それは助かる」


 彼女が快く引き受けてくれたおかげでひとまず落ち着くことが出来る。


「アルス風呂入ってきなさい」


「親父と一緒じゃなきゃいや」


「俺は男お前は女、一緒に入れるわけないだろ?」


 血がつながって居れば別だが流石に血のつながりの無い少女と一緒に入るのは倫理的に許されることではない。


「親父は私の親父だもん、ダメなの??」


 涙を潤ませながらこちらを見つめてくる。

 破壊力が高すぎる。別に幼女趣味というわけではないが少女にこんな瞳で見つめられて壊れる人間がいるのだろうか? 血が通っていれば不可能と断言できる。


「では湯を沸かしますのでお食事でもして少し待っていてください」


 彼女は話が纏まったのを見届け部屋を退室する。

 この状況に戸惑わず対処できるのは彼女が儂等を親子と錯覚してくれてるおかげなのだろう。


「待ってる間に食事を済ますか」


「うん」


 身体が固まっているのか少し動きにくい為彼女が机に置いていった盆をアルスに持って来てもらい食事を開始する。


「アルス美味しいか?」


「うん! 親父と食べるとなお美味しい!」


 アルスは儂が寝ている間、儂を置いて食事をすることに申し訳なさを感じて居たそうだ。だが彼女が食事を取らないで倒れたら儂がどれほど悲しむか言い聞かせ、食事に手を付けたらしい。それでも一人食べる罪悪感からか味があまりしなかったのだそうだ。


「バカだな、そんなこと気にしなくていいのに」


 パンをほおばりスープを啜ってるアルスの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 アルスのこの世界での経験は儂より先輩だ。だからこそ栄養を取らなければ倒れその際にどれほど苦労するかと言うのを理解していると思って居たが、精神的にはそこまで発達して居なかったらしい。

 アルスも見ためどうりの幼い少女なのだ。

 アルスの新たな一面を見れた喜びをひそかに抱き自分も食事を行う。


「……思いのほかおいしいな」


 粥は大抵味が薄く飲みこみやすい大きさの柔らかい豚肉が入っており梅干しやたくあんを添えてる程度で正直美味しくない。と言うのが今まで儂が抱いていた粥に対する感想だったのだがこの料理は違った。

 薬味の様な苦味や臭みが少しあるが、それでも味付けはしっかりしておりいくらでも食が進む。


「この薬味臭い苦味もいい味を出しているな」


 味が濃いのを緩和するため少し苦味が入り後味がすっきりしている。少し苦味が残るが次の一口で相殺されまた残りの繰り返しで食が進む。最後の一口をほおばり残った苦みを噛みしめ完食する。


「最後のに残る苦味もそれほどきつくないな」


 最初に感じた苦味も回を追い舌が慣れたのかそれほど感じなくなっていた。


「ご馳走様」


「?? 親父それはなんです?」


「あぁ食後の挨拶、本当は食前にいただきますも言うんだけど……腹の虫には勝てず言うの忘れてた」


 アルスに日本風の食前後の作法を教える。

 本来なら今言ったように食前にも言うべきだったのだが目の前にある、おいしそうな料理に負けてしまった。


「ごちそうさまです?」


「えらいぞー」


 儂の真似をして食後の挨拶をするアルスの頭をなでる。

 ことあるごとに頭をなでるがそれ以外に褒めると言う行動が思い浮かばない。だが頭を撫でられるのを嫌がるそぶりもなく嬉しそうなので当分はこのままでいこうと決める。


「腹も膨れたし休憩……と行きたいが風呂が湧くまでの時間に整理しないとな」


 アルスのためにと山住の先送りをしたが、それでも後回しにしていいことではない、時間があるなら手のすいてる間に他のことを勧めるのが効率的だ。


「俺の寝ている間に変わったことは無かったか?」


「変わったことです?」


「例えば深淵の谷底の連中が襲ってきたとか」


 彼女の傷を抉るような発言をするのは控えたかったが、それでも知らないことを知らなければ今後の行動に支障が出ると言う建前のもと聞いた質問だたが


「襲ってきたりとかしなかったです」


 怯えることもなくアルスはケロッとした態度で答える。

 これが虚勢を張ってるのか本当にもうなにも思って居ないのかは正直分からないだが、この問題は直面しないと分からない問題でもある。今質問攻めにしたところで結局傷を抉るか、虚勢を貫きとうされるかしかない。


「そうかなら良かった。」


 彼女の問題をひとまず先送りにして、現状の状況判断にうつる。

 丸一日過ぎているというこの状況かで襲ってこないとなると、ギルドは本当に不干渉の地帯と言うことになるのか? それとも奴らの本拠地が遠方にありまだこちらまでたどり着いていないだけか……


 そんな思考をしていると彼女が戻ってきた。


「お風呂用意できましたよ」


 また先送りになるが、この件は風呂上がりにでも彼女に聞いてみよう。

 彼女なら何か少しは情報を持っているだろう。

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