2話 出会った少女は所有物!?
わけの分からないことを言い連ねる子供の相手は正直疲れる、がこの会話のおかげで得るものがあったのも事実。
まず一つは言葉は通じること。仮にここでこの子たちに負けてもこれだけ得れるものがあれば十分とも言える。
そして二つ目は儂の目的が向こうから歩いて来てくれたと言うこと。
彼らはあの光る存在が言ってたパーティーの膨張の一端だろう。
「悪いがその田舎者というわけだ。深淵のゴミ溜め? なんぞ聞いたことないのぉ」
わざと誇りを汚すような煽り方をするが、これには意味がある。
意味のない煽りは角質を産むだけにとどまらず相手に正当な理由を与えたり、力を十全に発揮させてしまうことにつながる。だが彼らは十全に発揮するどころか煽りに対し怒りをあらわにし実力の一割程度しか発揮できない幼稚な思考の人間だ。
その仮説を証明するかのように簡単に挑発に乗ってくる。
伊達に長々と生きながらえていない、この世界では初心者かもしれないが、人生経験では圧倒的に儂の方が強者なのだ、そこで勝負するしか勝ち目が無い以上、相手の土俵では戦わない。
「おっさん深淵の谷底だ!」
「この辺り一帯を仕切ってるパーティーだぞ?」
「舐めたこと言ってるとどうなるか分かってんのか?」
三人が三人とも似たレベルの沸点の低さのおかげで、あの挑発に全員引っかかってくれる。
正直一人釣れても二人は無理だろうと思っていたため嬉しい誤算ではあるが……三人相手にするのは骨が折れそうだ。
「この程度の挑発での怒り狂う所を見ていると上の素養もしれてくる。自分たちがチームの評判を落としているということに気づいていないのか、それともトップ自らがその程度の人間なのか……どちらにせよあまり問題にはなりそうにないな」
彼らが語ることに嘘偽りのないチームで有ればある意味、彼らの存在は大きな財産ともいえる。
もし存在しないチームを語っているのであればそれはそれで問題ない、どちらかと言うとこちらの勝ち目が増えて大いに結構。
「末端の面倒も見切れないトップなら結局その程度の素質しかないということ、元々上に立つ資格がない人間がたまたま運がよくできた大所帯のチームなんぞ取るに足らんは」
これでもかと言うほど煽りに煽っていると、ゆでだこみたく顔を赤らめる三人は見ていて滑稽だ。
特に赤髪、顔と髪の色が同化しどこが髪なのか分からなくなってきている。
「お、俺たちの頭を侮辱しやがって……」
「ぜってー許さねぇ」
「俺たちをバカにしたこと後悔させてやる」
ここまで手のひらの上で踊ってくれるとは思ってもいなかったが、好都合なこの状況は儂が作り出した。だからこそ甘んじて好条件の戦闘を開始することが出来る。
誰かのお膳立てだと興が乗らない。
「これで分かったか!」
そう叫ぶ赤髪がなぜ息巻いているかと言うと、接近してきた彼が儂の腹部に拳を突き刺したからだ。
まぁ後ろに飛んで回避したためダメージ的には微々たるもの。
少し大げさに飛び過ぎたか? と冷汗をかくが、自身が圧倒的優位な位置におり彼我の戦力差が歴然と誤解している赤髪は思考を停止し、儂の演技に気づくことなく鼻高々に喜々している。
ただこの誤解は拳が触れたと錯覚するタイミングを狙って回避しなくてはならないため、少し危険だったのだが雰囲気通りの力しか持っていないらしく、タイミングを合わせるのはそれほど苦労しなかった。
「カハッ」
空気を吐き出す演技はあまりうまくいったとは思わない、だがまぁしないよりはマシだろうし今の赤髪は愉悦に浸っているため気づくそびりはない。
「おっさんさっきの威勢はどうした?」
蹲っている儂に対し無警戒に無防備に近寄ってくる赤髪の足が目の前まで迫って来た。この好機を逃すと勝機を逃すのと同意になるため、慎重に、だが大胆に立ち上がり態勢を整え困惑しているその面に一撃拳を突き立てる。
「??」
軽く突き出した拳はどこでそれほどの力を蓄えたのか疑問に思う威力を発揮し、赤髪は草をかき分け地を滑っていく。
距離にして数メートル。成熟した肉体の男性を吹き飛ばし困惑している儂に対し、吹き飛ばされた赤髪は意識を手放してしまったのかピクリとも動かず、残った青と黄色が赤に近寄りその意識を確認している。
「おっさんどこにそんな力隠してたんだよ!」
「おっさんなにもんだ?」
赤が意識をなくしているのを確認し二人が揃ってこちらを向き問いかけてくる、その態度から生きているということが伝わってくるため少しだけ安堵する。流石に人を殺すと言う経験を積みたいとは思わない。
そんな儂に攻撃するでもなく、赤を一撃で倒してしまったゆえか、青と黄は戦意喪失したのか遠巻きに出方を伺うのみで、先ほどの威勢はどこにやったと問いかけたくなる。
しかも赤一色に染まていた顔色が青白くなってしまっている。これでは儂が虐めているみたいで少し気が引けてくる。
どちらかと言うと儂が被害者であり、儂の方が弱者のはずなのだが……
「彼を連れて帰るなら君たちには手出ししないんだけど……もしこのまま来るって言うなら」
「お、俺たち深淵の谷底を敵に回し手ただで済むと思うなよ!」
「今日はこの辺で勘弁しといてやる!」
その言葉を待ってましたと言わんばかりの食いつきぶりで、三流の方がもっとマシな捨て台詞を吐けると思わせる内容のセリフを吐き捨て駆けだしていく。
赤を忘れず二人で抱えて行く姿に少しだけ好感を持ているのはなぜなのだろう……?
「で結局深淵の谷底とやらの情報は聞けなかったな……」
彼らの様子から察するに光源の語っていた膨張のチームなのだろう。だが仮に彼らの言う通り名の知れたチームなのであれば、なぜ見るからに小物臭の漂う三人を入れたのだろう? それとも数こそが正義の粋がりチームなのだろうか?
疑問は絶えないがまず目先の問題を解決するため行動を開始する。
「立てるかい?」
先程手を差し伸べ拒否られたので今度は口頭だけで立つ様に促す。
今の戦闘で現状一番欲しいと思える情報が入手できたのは不幸中の幸いだろう、副産物がこれほど高価な物になるとは思いもしなかった。
これで町で堂々と会話をすることが出来る、不審者のレッテルを張られることなく話をできることがこれほど貴重な物だとは思いもしなかった。
「だ、大丈夫」
「なら良かった」
「……」
立ったは言いも物の会話が成立する気配はあまりない、それにこちらに向ける視線がどこか冷たく、怯えたような、警戒しているような目なのが気になる。
「君の名前と今の境遇を聞いてもいいかな?」
彼女の境遇いかんによっては儂のしたことはお節介だったのかもしれない、が仮にそうだと分かっていても見て見ぬふりは出来なかったと思う。
「わ、私の名前はアルスです」
「もっと気軽に話してくれて構わんのじゃが……まぁ好きなような話してくれたら構わんか」
「……私は親の顔も名前も知らないのです。物心つく前から彼等の元に居たらしく、物心ついてからの記憶は暴力と荷物運びをメインにしてました。時々モンスターの餌にされかけたり、遊びだと言われ逃げ惑う私を」
「辛かったのぉ……」
語るアルスの口を塞ぐように抱きしめる。
この行為が正しいものなのかは分からないが彼女の境遇を聞いて勝手に体が動いてしまった。
彼女へ対する哀れみや同情を抱くと同時にこの世界に対する怒りが沸々と沸き起こる。この腐った世界は根底からどうにかするしか無い。
光源の頼み云々を抜きんして正さなくてはならないことだと思わされる。
「これは現実なのに……非人道的なことをよくできるもんじゃな」
ゲームの世界や漫画、アニメの世界であれば物語の進行に不可欠と言う理由からイベントとして配置されたりしているが、現実に同じようなことをされている少年少女を目の当たりにするとあまり気分のいいものではない。
創作の中のキャラは最終的に主人公と共に平和な生活を謳歌するが、過程が無くなるわけではない。
その事実を受け止めアルスと同じような子供が生まれない世界に作り替えることを決意する。
「アルスはどうしたい?」
彼女がこのまま逃げたいと言うのなら何もせず逃がせばいい、彼女が深淵の谷底を壊滅させてくれと望むならそれを叶えてあげる……と言うことは今の儂では出来ないが、できるよう努力はする。
ただし現実を見るならそれを行うには時間と力が足りない。
一番現実味のある回答はアルスをこの地域とは別の場所に連れて行き安全に暮らす環境を整えることだが、結局それには金が必要だし、色々不足気味の現状アルスの願いを叶えられることの方が少ないと思えてくる。
「わ、私は……」
儂の問いかけに怯えながらも自身の思いを伝えようとする少女は体を小刻みに震えさせている。
その震えの原因が今までの環境にあるのは明白ゆえに彼女の傷を癒すのは苦労しそうだと痛感させられる。
「私はあなたについていって強くなりたい、そして自分の身は自分で守りたい」
震えながら自分の思いのたけぶちまけた少女の願いは、復讐でも逃亡でもなく立ち向かうだった。
自分の身を守るために力をつける、元凶を討伐しようとも恐怖が消え去るわけではない、そのため恐怖を抱かぬ心身を欲したのだろう少女の瞳には決意が満ちており、先ほどまでの震えが少しずつ収まって行っている。
だがこれほど熱い思いをぶつけられてもアルスの願いを叶えることは今の儂には出来ない。
「アルス、儂はお主が思う程強くなんぞない」
実際この世界の常識も知らず、戦力もそこまでではない儂にこの子の期待に応えるだけの物は所持していない。
先の戦闘一つとっても単調な攻撃を繰り出した赤の攻撃が合わせやすかったから避けられただけの話であり、武器をしようされたり相手が挑発に乗らなかった場合おそらく一方的にやられていたのは儂の方だ。ただ彼を倒した一撃は今でもどこから出てきたのか不思議でたまらない。
だからこそ彼女願いを叶えることは出来ず、今思うと彼女の面倒を最後まで見れないのに助けたのは無責任かもしれないとさえ思える。
「悪いが師範を求めるのなら他を当たった方が」
「私は、わたしはあなた……だから。あなたに教わりたいんです」
拒絶されながらもまだ食い下がるその少女の熱量はどこから来るのか、一度救った程度で彼女は儂が英雄が勇者にでも見えて居るのだろうか? もしそうだとするならその幻想をぶち壊さなくてはならない。
だが先ほどより一段と強くなったその瞳はいくら拒絶しようと、何度だって立ち向かってくることを示している。
「だが……」
揺らぐ気持ちはなぜなのか、不可能な事を引き受けるのは大人としてしていいことではない。
だがそれと同時に彼女を育てたいというかつての指導者としての魂が訴えかけてくる、叩いても挫けない存在は稀有であり、彼女はいずれ大物になる存在だと。
芯の強い子供は育て上げることが出来れば必ず大成すると、そしてその導き手になりたいという思いが胸を駆け巡る。
「儂はそれほど強くもなければ、人に物を教えることも向いていない。それでもいいんじゃな? 助けてくれた相手への憧れなぞで考えてるのなら、別を当たった方がアルスのためだぞ?」
「私は、そんな軽い気持ちであなたに教えて欲しいのではありません」
「そこまで言うなら仕方ないか」
数分前は地べたに這いつくばり震えており、儂を拒絶したというのにもかかわらず、今では儂が拒絶しようとも付いてくるというのがありありと伝わってくる。
慕われるのは、頼られるのは気分がいいものだ。
「腹くくるか」
アルスを立派な人間に育てることが出来るか分からない、口で言うより見せて学ばせる儂の教育方針が合うかどうかも分からない。
何より儂はこの世界に関しては初心者その為不安はある、だが自分で決めたことなのだから、ぐたぐだ言わずもうやるしかない。
「主を育てるのはかまわんが、主の知って居ることを教えてくれ。この世界の情勢や、深淵の谷底なるパーティーの勢力図。ギルドなどの存在」
囚われの身であったアルスに世情を聞くのはお門違いかもしれない、それに深淵の谷底の勢力を聞くのは少し酷かもしれない。
でも些細な情報一つでも掛け替えのない財産になる、そのためアルスに申し訳ないと思いながらも、彼女を守るための情報にもなるかもしれないという言い訳を建て問いかける。
「私あんまり外のこと知らないけど、私の居たパーティーの事なら少しは知ってるよ?」
案の定世情に関しては詳しくないらしいが、勢力に関しては多少知っているらしい。
世情は町で聞く事が出来るため別に今はどうでも良い、それに加えパーティーは外より中の意見の方が信憑性も高く価値は高い。
「それだけでもかまわん、教えてくれ」
「私のいたパーティーは完全実力主義? でパーティー内もギスギスしてるの。それでね、実力って言うのが色々あって純粋なる力の勝負や、依頼を受けて得た収入なんかも競ってたの。それで私を連れていた三人組は収集メインで私たち小さい子を連れて回ってはモンスターの囮にして順位を上げていたの」
話を聞いてるだけで憤りを覚える。
実力を測るための規定の穴を突いたような話だが、人材の適用もその査定に入っている可能性はある。だがその場合は交渉術、人脈、指揮力、構成能力なんかを見るべきはず、だが抵抗も反抗も出来ない少年少女を利用しただけのやつらの行いはチームとしても看過できるものではないはず。
しっかりと統率が取れていないというのがよくわかる話だ。
「人数はどの程度か分かるか?」
人数が少なければ楽に、多ければ少し苦労するだろうがいい機会だし懲らしめるのもいいかもしれない。一つ救いがあるとすれば彼女の話とあの末端の姿を見るに、相手は脳筋。バカの集まりのようだし何とかなる可能性も低くはない。
ここで逃げたとしても追手が来れば戦闘は免れない。それに元々の目的が向こうから歩いてきてくれるのだ、ありがたくいただくのが筋だともいえる。
「人の数ですか? 人の数は……百人は居るんじゃないかと……ごめんなさい正確な人数は分からないです」
最低百人と考えると三人が言っていたのはあながち嘘ばかりではないということを裏付ける、それに少しヤバイ事の証明でもある。
人の数はそれだけで力になる、仮に雑兵が大半を占めているとしても数が多ければそれの対処に時間と体力を浪費させられ持久戦で負けることにもなる。
何より今までの話を総括するとそこそこ大きいチームにケンカを売ることになり、今の儂で対応できるかもわからず、さらに敵の数が百を超える……
「大丈夫かの?」
最悪リーダーを討伐さえすればあとは散り散りになるはず、それを期待して目標は全ての討伐及び構成から、リーダーの打倒に変えるほうが現実的か
「だが……そう簡単い行くか?」
人が多いのであれば目標にたどり着くまでに肉壁が存在することになる、潜入潜伏すれば一対一で対決できるかもしれないが、そんなスキルは存在しない。
だが百をも超える数の人を超えていくよりかは現実味を帯びているし、これ以外の策を弄したところで結局色々足りなさすぎる。
あの奇妙な力がまだこの身に宿っていると仮定し、ワンチャンス狙った潜入すべきか。
「あ、あなたのお名前を聞いてもいいでしょうか?」
「おぉまだ名乗っておらなんだあ、儂の名は朱雀年寿呼びたいように呼んでくれて構わん」
「そ、それじゃぁ親父……朱雀の親父」
どこかの組を仕切って居そうな名前だな。カタギの人間には聞こえない。
父親的意味なのかもしれないが、儂に息子や娘はおらん。呼ばれなれていないせいか背中がむず痒い。
「ま、まぁ構わん。敵のアジトとか分からんか?」
「アジト?」
「いつも帰っていた場所。出来れば本拠地がいいんじゃが」
「それなら町がアジトだと思う」
町がアジト?
「それは宿に泊まっておっただけじゃないのか?」
「??」
宿に泊まっていただけなら、彼らは下っ端も下っ端の可能性がある。そうでない場合遠方にあり遠征に来ていたということになる。
じゃがどちらにしろ一度町に戻って腹ごしらえをしなくてはいけない。
夜の帳がおり始め綺麗な星と月が太陽を追いやり始めた。
「腹も減ったし取りあえず町に戻るか」
まだ微かに明るいため何とか視界は確保できているが、この視界が無くなった時儂等は無事に町に戻れるか分からない、そうならないためにも早々に町へ向かい帰路に就くことにする。
最悪茂みから出れば道なりに進むことで町には帰れるだろう……
そんな期待とは裏腹に自体は急変する。
……七千か俺からしたら長くて読むの辛いんですが、皆さんはどうなんでしょう?
取りあえず適当に書いているので急に三千とかに減るかもしれませんがその際はお許し下さい。