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「色欲」=「変態」

 セクハラした後、外へ飛び出した僕。


「結構走ったつもりだけど」


 自身の加速度が上昇するにつれて、辺りの景色が変わっていく。

 よく見れば辺りの草木は枯れ、妙な瘴気に目を細めた。

 近いかな。


「それにしても、変態って言われるのも辛いもんがある」


 そんな愚痴がポロリと溢れるも、足は止まらない。

 筋肉は躍動し、太ももを見ればはち切れんばかりに膨張していた。

 いつも通り思考は冷静に。

 だけど、敵の姿を想像する度に気持ちが逸る。

 そこに何があるかが知りたくて仕方ない。

 まるでプレゼントを開く前の子供みたいで、我ながら呆れる。

 気付かない内にスイッチを入れて、また一段階ギアを上げていたらしく、想定より早く到達点に着きそうだ。


 直後、前方の右側でけたたましく音が鳴った。


 ——炸裂音!


 音の方向へ目を向けると、ぼうと燃え上がる火柱が確認出来た。

 どうやらあそこが交戦地らしい。


 こちらから見ても相応の威力に思える。

 ただ、魔法と呼ぶにはそれはあまりにもおざなりで……。

 ならば、と僕は一つの可能性を浮かべる。

 もしも、道具を使えるモンスターがいるとするなら、と。


「火薬系の発火ですか。嫌な臭いですよ、まったく」


 少なくとも火薬は扱えるのだろう。

 うん、そこいらの冒険者よりも厄介なのは違いない。

 グーパーグーパーと手のひらを遊ばせて、僕は無意識の内に口角を吊り上げるのだった。



 ☆



「ネオゴブリン、じゃなくて指揮はデュラハンなのね。高位のモンスターまで用意されてるなんて」


「そうですね。ええ、こちらからも見えます!」


「……えっと、そこ危ないわよ。っていうか誰?」


 弾け飛ぶゴブリンの頭を蹴り飛ばして、僕はようやく戦火は飛び入る。

 ゴブリンの知性はまだそこまで育っていないらしいのが幸いしてここまでは楽に来れた。

 紫の体液を払いながら、僕は彼女と背合わせになる。


「よっと」


 鉄の棒を武器としたゴブリンを蹴り飛ばして、会話を繋げる。

 恐らくリーシャであろう彼女は茶の髪は揺らしながら、集中を切らさず懸命に剣を振るっていた。


「アルル、です」


「私はリーシャよ。でも、こんな所に人なんて……」


「僕はアラミスさんからの使いですから」


「なっ、使い?! ってことは、あなたが私たちの——」


「今更な反応しないで欲しいです。こんな所に普通の人間がいるわけないでしょうに……。ほら、右から来てます。ちゃんと前見て下さい」


「そう、だけど!」


 ぶつくさと物言いながら、円状に包囲している敵をまた切り裂いた。

 既に突っ伏してる死体は十を超えているだろう。

 それでもまだ総数は半数以上、加えて後ろには仰々しく佇む鉄馬に跨った首なしの騎士が佇んでいた。


「増援、円、縮める」


 おっと、これまた珍しい。言語を伴った意思疎通か。

 後ろの奴は明らかにゴブリンとは別格で、敵をしっかり敵と捉えられる知性もある。

 それにやけに澄んだ瘴気、こういうのは大概悪い意味でハズレだ。


「単刀直入に言います。リーシャさん、ここから撤退して下さい」


「な!」


 そりゃそうですよねー。

 抵抗の目線を投げられて、僕は首を振る。


「魔力、空でしょう」


 魔法使いである魔装束。

 けれど、魔法は使わず。

 使用するのは心許ない剣が一振り。

 答えは明白だった。


「なんでアンタに命令を! 私はまだ——」


「こいつら多分、レア個体です。一息に消滅させないと面倒ですから」


 よくよく見れば蹴飛ばしたゴブリンの首がゆっくり動き始めている。

 増殖するゴブリン、と呼べば分かりやすいか。

 これでは割に合わない。

 倒し切るなら増殖される前に狩らないといけないが、こういう個体は倒される度に知性をつける。

 『増殖』個体の中でも特筆してややこしい。


「けど、私の魔法じゃ燃やせなかったのよ」


「えぇ……あれ、魔法だったんですか? ちょっと下手、じゃなくて。防御でもされましたか?」


「あのデュラハンにね……」


 時間稼ぎのつもりらしく、今度はゆっくりと棒を構えゴブリンは僕たちから一定の距離を保つ。


「リーシャさんは退路の確保。ちゃんとした伝達を行う余裕もないんでしょう? 取り敢えず資本は己です」


「くどい! 言うことなんて聞かないわよ!」


「めんどくさいなぁ、もう」


 ならば、最速でデュラハンを——。

 そう思いぐっと拳を構えた瞬間、確かにヤツと目が合った。


「色欲、の、におい」


「(おいおい、流石に察しが良すぎる)」


 さてさて、これは困った。

 僕が色欲とバレるのはまだ良いけれど、いくらなんでも早過ぎる。

 モンスターにも伝わっているのか、それとも魔物の勘か。


「色欲?」


「良いから、逃げないならゴブリン抑えて下さい!」


 そのワードを聞いて背後でリーシャが動じるが、それは後だ。


「……あ、ぁ!」


 敵は槍先を天へ向ける。

 マジックムーブと呼ばれる、魔法を行う為の特定の動きだった。

 槍を覆った輝けるマナの奔流は、砂を巻き上げる程の回転を行う。


「今更サンダーボルト?」


 ほんとに、この子は魔法を使うことを諦めた方が良いのではないだろうか。

 あんな高濃度なマナを集めた中級魔法など、あり得ない。


「馬鹿、あれはどう見たって」


「が、あ」


 膨張して槍から流れ出すマナは最早大魔法を超える量だ。


「間に合わない。悪いリーシャ、お前をぶっ飛ばすから力を振り絞って構えろ」


 放たれる前の僅かな時間。

 ここで迷ってる暇はない。


「え?」


 「色欲」

 それは変態と呼ばれる僕のスキルの別名だ。

 悪魔の産物、欲を変換する不条理なスキル。

 だけど、ここで使わなきゃいつ使う。


「……頼むから、忘れてくれよ」


 手のひらに残っているアラミスさんの胸の感触を引き金に。

 スキルを発動する。

 ツイてないなぁ、全く。


「嘘、何よ、それ」


 だから、嫌なんだ。

 この姿は実に「悪魔」っぽいし。

 何より好かれる見た目ではないから。


「少し我慢してくれ」


「あ、っ」


 吐息と共に、リーシャは僕の足に蹴り飛ばされていた。

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