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変態始動する

「あーいい天気ですねぇ」

「……はい」

「そんな落ち込まないで下さい。ランカちゃんも何だかんだで喜んでると思います」

「アレで喜ぶとか、僕は正気の沙汰とは思えないですけどね」


 自分で言ってて自分で刺される気分は非常に辛い。

 なんなら、少し泣きそうです。


「いえいえ。獣人に差別なんて当たり前の世界でしょうに。……緩和されたとしても、まだまだ先は長いかと」

「古き考えの方々は、そうですね」


 少し真面目な話になるが、この世界には序列ってものがある。

 怠慢で傲慢な考えだが、人間ってのはどうしてもそう言ったアホな考えを捨てられないらしい。

 まぁ人間を頂点とした想像に難くない、くだらない吐き気のする括りだ。

 亜人は総じてそういった口に出すには憚られるような、迫害を受けていた。


 例えば獣人は長らく奴隷として扱われていた。

 獣人は人に比べてどう足掻いても覆せない強い力があり、個性として忠誠心があり人にとって『使い勝手』が良かったから。

 女は美しかった故にそういった処理に使われ、捨てられた。

 男は殺戮の道具として使われ、これまた捨てられる。


 それが当たり前だったからだ。


「忌々しい、本当に」


 見たことがあった。貴族のアホが獣人に鎖を結び引きずっているところを。

 笑われるかもしれないけれど、僕はそいつに腹が立って殴り倒した事がある。

 残念ながら、僕は聖人君子ではない。

 そして、そんな理不尽に従う程愚かでもない。


「……アルル殿はお優しいのですね」


 何か思うところがあったのか、アラミスはそっと囁いた。

 優しさは、つまるところ蜃気楼だ。

 受け手によって変わり続けるし、そこに不変の物はない。

 殴られた貴族からすれば、僕は悪で正義は貴族だしね。


「前国王も優しきお人でした」


 確かに前王は賢帝であった。

 そんな不穏な世界の流れの中で、前国王が亜人の救済令を出したのだった。

 人と同じ権利を与え、その権利を守ったのが始まり。


「こちらが執務室です」

「ああ、このボロ部屋ですか。ありがとうございます」

「アルル殿は一言多いと言われませんか?」

「よく言われます。悪い癖ですね。……うわっ、クセェ!」


 ドンと置かれた箱のような机に、小さい食器棚がひとつ。

 カーペットはケバケバで、踏めば少し埃が舞った。


「ぷっ、まっこと面白か男じゃ!」

「は?」

「……方言です!」


 どっちかといえばアラミスさんも相当隙だらけに見えますけどね。

 まっ、うちの受付のキンタマ発言に比べれば可愛いもんです。


「では、引き継ぎの書類を下さい。急いで目を通すので」

「承知しました! 不肖このアラミスが任されました!」


 ピシッと敬礼をするとにこりと笑う。

 随分大人びて見えたが、まだ若い少女みたいで癒された。


「つまり、かわいい……!」

「っ、上官殿! からかわないで下さい! ッラァ!」

「ツッコミが拳!?」


 ある意味で強烈すぎて、目が眩みそうです。


 ☆


「さて、何から手を付けるか。まずは現勢力の把握とこっちの力の精査だよね。僕としては、何も知らされてない訳だし。……ファイルは、っと、これは後にしよう。多分覚えるの時間かかる」


 前任の引き継ぎはまぁそれは酷いもので。

 まともな敵の詳細もなければ、味方の情報すらない。


「……援軍も望めそうにないかな」


 加えて立地も悪く、いわば陸の孤島。

 不自然な程に周りはモンスターに陥されていた。

 この侵攻速度で考えれば、まぁ少なくとも賢い相手とは言えないか。

 うん。オークの豚野郎と、クソゴブリンの混合部隊と見た。

 あいつら指揮系統もクソもないからなぁ。僕にとってはやり易い。


「そうだ。それより手紙手紙」


 懐から手紙を出して、封を切る。

 まずは王都からの。


「はいはい、拝命しますよっと」


 内容は想像していた通り。

 王からの命だ、光栄に思えとの事だ。

 まぁ期待なんてしてないし、何より興味もない。

 ポイとゴミ箱に捨てて、次にババァからの手紙を読む。


「アルル、頑張れ☆ 夜翼一同!」


 何だこの手紙、燃やしてやる。絶対に燃やしてやるからな!

 痔になれ、死ぬほど痛い痔になってしまえ!


「……さて、手詰まり感がやばい」


 上着を脱ぎ、ちゃちい椅子に掛けると僕は目を瞑った。

 何だかんだ緊張していたからなのか、あっという間に睡魔に負けてしまいそうになる。

 あぁ、取り敢えず起きたらランカちゃんに謝ろう。

 それまで、少し——。


 ☆


「良かったんですかマスター」

「何が?」

「あの人ですよ、アルルさんです」


 アルルを送り出して、数日。

 ギルドはどことなく寂しくなった気がする。


「心配な点でもあるのかしら」

「そもそもあの人はボッチプレイヤー。指揮なんて無理でしょうに」

「あらぁ、言ってなかったかしら。あの子アレで中々やるのよ?」


 窓から覗き込む月を肴にビールを飲む。

 あぁ、このギルドの酒は不味いわ。


「孤高の天才って、強ち間違いじゃないし」


 ただ、あの子は背負い込む性質だからそこは心配かな。

 でも、それは向こうにいる子たちも同じよね。

 上手くやりなさい。きっとアルルなら出来るはず。


「……マスター? さっきからお尻をさすって、如何なされたんです?」

「うふふ、きっとアルルの呪詛ね」


 ……帰ってきたら、あの子絶対にボコボコにしてやるんだから☆

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