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対面と言葉の弾丸

「うぇええ……ダメだ、また酔った」


 馬車に揺られること数日と数時間。

 僕一人乗っけた荷台はゆらゆらと揺れ続けている。

 ……あの、申し上げにくいのですが、口から出しちゃったんで、改めてご飯とか食べたいんですけど。


「大丈夫ですか、アルル殿」

「うっぷ」

「はい、袋新しいのそこに入ってるんで使って下さいね」

「あ、い」


 馬車引きさんに、ゲロの心配される指揮官とかあり得なくないですか。

 向かう先は何とかかんとか村。

 残念ながらババァは村の名前すら僕に一向に教えてくれなかった。

 そういう時は大抵ロクでもない場所に決まってるんだけど、新天地に心踊らないかと言われれば嘘になる。


「こっから砂利道なんで、また揺れますよー」

「ああええええええええ!!」


 ババァ、殺す。

 僕が乗り物酔いしやすいの、知っててやってるだろ!


「しっかし、王都の命令って言ってもアザル村ですかぁ」

「アザル、村?」

「ええ、人がいないもぬけの殻。モンスター討伐の最前線の中の最前線。もっとも戦闘が激しい場所ですよ」


 うん、知ってた!

 そりゃね。僕だって馬鹿じゃないもの。

 危険だもの。よく考えれば村に人がいる訳ないじゃないか。

 ……待てよ。村捨てて疎開させるぐらいに、危険な場所ってことだよね。

 え、今からそこに行くの?


「ゔん。ずいまぜん、びぎがえじでぐだざい」

「ダメです」

「どおおおじでえええええ」


 ガタガタと間抜けな音と蹄の軽快な音はただひたすらに前へ進んで行く。


 ☆


「はい。ここがモンスター討伐部隊の最前線。アゼル村、いわゆる第一支部です」


 にこやかな馬車引きと対照に僕の顔は引き攣っていた。

 何ここ、人が生活出来るような場所じゃないよ。


「他の人員は? 重要拠点なら他の指揮官とか居ますよね!」

「え? 重要拠点?」

「ババァ、ぶっ殺す!!!」


 そっかー、重要拠点ならこんなガラガラの村にならないよね。

 これってさ、もしかしなくても詐欺じゃないかな。


「場所的には、重要じゃないですよ。場所的には、ね」

「あ、そっすか」


 含み持たせるんじゃねーぞ。俺が馬車引き引きになってやろうか。


「あれが、第一支部ですよ」

「うん、ただの大っきな家ですよね!」


 民間を改修した適当な造りの支部に頭を抱える他ない。


「後は、はい。これアルルさんへの手紙が二通。確かに渡しましたんで、私はこれで」

 そそくさと撤退しようとする馬車引きの首根っこを捕まえて、ボソリと怨念を込めて呟く。


「……おい、ババァに伝えとけ。首洗って待ってろって」


 あまりに念を込めすぎたのかひえっ、と怯えた声を出して馬車引きは走って行く。

 ってか、僕のスキルのトリガー分かってますか?

 こんな所じゃ僕の魔力(性欲)は満たされないよ!


「ってもなぁ、とりあえず前任の引き継ぎもあるし。僕が頑張るしかないよね。本当にやばかったらトンズラも考えとこ」


 そして民家みたいな木造と石造が混ざって奇天烈な家の扉を叩く。


「誰かいますかー?」

「……はい!」


 甲高い声が家から聞こえる。

 ふむ、甘美な声だ。甘えて媚びるような、そんな、

あれれー?

 お、おっんっな、だとぉおおお。


「いや待て、これは一瞬喜ばせる為の夜翼の罠かもしれない。アイツらは平気でそういう事をする。顔を見ればゲテモン、もしくは女装した男なんて事も——」

「あるかぁあああ!」


 勢い良く開けられた扉からなんと足が飛んできました。

 反射的に顔にめり込む足を捕らえて、扉の奥へ投げ捨てる。

 ドガドガと転げ回る音がしながら、女の子は奥へ消えて行った。


「あら、ごめんなさい。お客様ね」


 入れ替わるように、少し大人びたお姉さんが奥から慌てて飛び出してくる。

 ウェーブががった長髪に、エメラルドグリーンの瞳。紛う事なき美人。

 お淑やかっぽい服装に、丁寧な物腰。

 良かった! 少しは話が通じそうだ。早速この人に経緯を説明して案内を——。


「姉さん、いきなりこの人が!」

「ウルセェッ!」

「は?」


 場を凍らす魔法、エターナルブリザード!

 あのドスの効いたお声はどちらから?


「……やだ、ついつい方言が……きゃっ!」


 ……いや、誤魔化せてないですよ。

 その声の持ち主は貴女でしたか。


「ごめんなさい。本日配属された上官殿ですよね。私はアラミスです」

「アラミスさんですね。僕がアルルです。宜しくお願いします」

「宜しくお願いしますね。あら、ランカちゃん! 何寝っ転がってるの? ちゃっちゃか上官殿を案内しなさい!」

「はい、姉さん! 失礼しました指揮官殿。急ぎ執務室にご案内します」

「ああ、ありがとう」


 おっ珍しい。よく見ればこのランカって子。

 金の耳に、膨らんだ尻尾。ああ『獣人』ですね。

 獣人は美人も多いし、人気も高い。

 城下町じゃ『ケダモノ☆フレンド』とかいうアイドルグループまであるらしいから侮れない。


 ぼうっと見ていると、視線に気付いたのかランカは下向いて呟いた。


「耳ですか? 変ですよね、ごめんなさい。千切ります!」


 手で握って、え、引っ張って——。


「わーっ、バカバカ! 誰が千切れって言ったよ!」


 ハッとして、ランカの手を慌てて耳から遠ざける。

 あのままなら本当に取れてたぞ。


「だって、獣人は見苦しいって……前任が」

「ランカちゃん、その話は止めなさい」


 分かってない。コイツは自身の良さをこれっぽっちも分かってない。


「前任が何を言ったか知りませんけど僕は獣人好きですよ? 顔も美人でエロいし。おまけにスタイル良いじゃないですか。発育も人間と違って素晴らしい。それと良い匂いしますよね。あっ、僕そもそも獣人の個性好きなんですよねぇ。忠実な所とか、可愛くないですか? 僕ギルドでよくそんな話をしてたんですよねー。それより、ランカさんは見た感じ狐種ですか? 尾とかどうなってるか服脱いで見せて欲しいんですけど。あっ、違いますよ。やらしい意味じゃないです。単に接続部がどこにあるのかなーって。後その白と赤の服、エロいっすね。特に太ももとか。ミニスカートみたいになってて、肉付きも最高にバランス……」


 ……しまった。これじゃキモイ奴みたいに見えるじゃないか!

 初めての獣人につい口が、違う違うんです。

 言い訳、早く言い訳を——。


「あっ、何でもないです」


 ……無理だわー。誤魔化せないわー。

 ドン引きしてる、ランカちゃんとか下向いてプルプルしてるし。

 ほら、スカート降ろしたもん。見られたくないから、下げたじゃん。


「さ、流石上官殿! ランカちゃんの悩みを見抜き、素早くフォロー! これが上の器よ! ねっ、ランカちゃん!」

「……あたし、へや、もどります。指揮官のエッチ!!!」


 ランカちゃん、ごめんね。

 心の中で頭を下げて、この残された気まずい空気を脱却する案を練るのだった。

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