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ギルド筆頭、遂に飛ばされる

「お疲れ様です」


 ここは、下町アルカルーン。

 様々な人が行き来し、毎日夢を追いながら生活していた。

 で、ここからが大事なところなんだけど。


「お疲れ様です。変態様」

「あ、酷いなぁ……。ほら、違いますよ。アルル、冒険者のアルルです」

「本日の討伐は?」

「はい、ガオウルフ10体討伐しましたよ。これ、どうぞ」

「はいコアを確認しました。さよなら」

「ちょ、成功報酬はどうしたんですか!! 受付が詐欺すんな!」


 ほらほら、見てくださいよ。

 ギルドのこの塩対応はちょっと有り得ないですよね。

 言っときますけどガオウルフ、結構強いんですよ? ここらのモンスターの中でも一つ頭抜けてるんです。


「まーたやってんのか! おっす、最強変態!」

「……ぶちのめすぞ、豚野郎」


 変態とは、僕のことを指す。

 ええ、認めます。多少僕のスキルは変わっていると。

 でも、良いじゃんか。強いんだから。


「おーっす! ギルドの稼ぎ頭の最強変態さん! こんばんは!」

「こんばんは、じゃねぇよ。帰ってくるや否やディスるなよ。新人ゴラ! 顔張り倒すぞ!」

「しっかし、難儀だよなぁ。何がお前を歪めたのか」


 豚と新人はそんな最強の僕に怯えず話しかけてくれる優しいギルドメンバーだ。

 まぁ感謝はしてないし、寧ろ会う度に殴り殴られる仲だけど、僕は満足している。


「……歪めた、歪めたのは、やっぱり姉と妹、かなぁ」


「で、出たぁ! お得意の空想シスター! アルルさん、凄い寂しいっす」


「新人、ちょっと表出ろや」


「ってか、そろそろお前もクランメンバーでも集めろよ。ソロは効率悪いぜ?」


「豚、よく聞けよ。僕は孤高の人間、選ばれた男なんだよ」


 受付の側に置かれた丸机に、木のジョッキが置かれ、次いで温いビールが注がれる。


「まーたクソマズビールですか」


「飲まないなら返して下さい」


「返すとは言ってないですよ。要望、要望ですからね?」


「キールちゃんに、よくそんな口聞けるな。俺ァ怖くて無理だ」


「豚さんの言う通りっす。あのツリ目、怖いんすよね」


 ギロリと、キールの冷たい眼光が投げつけられる。

 おー怖い怖い。

 にしても相変わらずここの嬢は行き届いてねーな。たまには労いも込めてキンキンに冷えたビール寄越せ。


「マリサちゃん、今夜どう?」


「さっさと働けこの穀潰し!」


「……オゴッ、何も殴ることないだろうが!」


「しょっぺぇスライムばっか狩りやがって! キンタマついてんのか? アァ?」


「すいません」


 ……僕はそんなアホなやりとりを横目に、仕方なくビールを喉に流し込んだ。

 『夜翼』と呼ばれるこのギルドは、どちらかといえばダーティーな人間の集まる頭の悪いギルドだ。

 変わった奴ばっかりで、とてもじゃないが綺麗とは言えない。


「どうせなら『騎士』とかの大きなギルドとか行きたいよな」


「でもさ、豚もここの空気は好きでしょ」


「そう言う変態もな。まぁ、騎士が俺らみたいな変わり者受け入れてくれるはずもねぇわな!」


 豚はジョッキを一息で飲み干して豪快に笑う。


「アルルさん、マスターがお呼びです」


「ババァが僕をですか?」


「さっさと来いとの事ですけど。何をしたんですか? セクハラですか?」


「……マリサさんって頭悪いですよね」


 はぁ、とため息をついて呆れた顔でそう告げてやった。


「……殺す!」


「僕は女だからって容赦しませんよ。貴女のパンツをこのギルドに晒してあげますから、かかってきて下さい」


 顔を赤らめ、僕を見つめるマリサさんにくいくいと手で挑発を繰り返す。

 気付けば僕らを中心にギルドは円になっていた。


「サイテー!」


「女の敵よ! ケダモノ!」


「うっせぇよブス受付! 良いぞ変態! やっちまえ!」


「お高くとまりやがって! 男に相手にされない行き遅れ!」


 ……ほんと最悪だな。このギルドは。


「お前たちはさっきから煩い! こらアルル、何やってんの! さっさと上に来なさい!」


 ☆


「で、僕に何の用です?」


「聞いたでしょ。クランの話よ」


「だから、それはお断りしたはずです」


 年齢不詳のギルドマスターは僕の返答に頭を抱える。

 机には書類が束になって置かれていて、アホな後始末に苦労してるんだなぁと少し同情した。


「アンタは夜翼(よよく)の中でも筆頭。それがいつまで経ってもフラフラとしてちゃ立場ないのよ」


「それでクランを結成しろと? 残念ながら僕は——」


「孤高の人間でしょ? もう分かってるわよ、その返事は」


 ……どうやらあまりふざける空気でもないみたいだ。

 僕は向き直って、マスターに伝える。


「僕のスキルを知ってるでしょう? いったいどこの誰が従ってくれるんですか。老衰もほどほどに、ヘブッ」


「……もう」


 台詞と行動が何一つ噛み合ってないんですけど。

 手の動き早すぎでしょ。拳が速すぎて見えなかったわ。


 まぁスキルとは、皆が持つ個性みたいな物だ。

 例えば『経験値倍増』とか、『狂化』とかがそれに類する。

 僕のスキルは正直変わっていて、それこそ人に伝えられる程良いものではない。


「『変態』ねぇ」

「嫌なんですよ。見られるのは」


 そう『変態』が僕のスキル。

 系統としては万能、魔術としても武術としても一級だと自負している。

 だけど、発動がシビアでありおまけに人も選ぶ。


「下ネタ及び性欲をトリガーとする、それが嫌だと?」

「例えば僕のコカン=ソード。だれが喜んでこの剣で戦うんですかね。それに魔力は性欲と直結ですよ。あり得ますか?」


 はい。皆さん僕が変態と呼ばれる理由分かりましたか。

 そうです、僕の剣はコカン=ソード。

 魔力は性欲、下ネタ発言で魔法使うんですよ?


 ファイア→ちん、こ!

 ウォーター→おっ、ぱい!


 もうね、アホかと。

 今時十歳の子でも言わないような発言ですよ。

 酷すぎませんか。


「……その代わり威力は最強でしょ?」


「まぁ、剣も魔法も騎士の奴らに負ける気はしませんね」


「そう自信はあるのね。良かったわ。……よく聞いてね。あのね、ここ潰されるかもしれないの」


 深刻な顔をするマスター。

 もしかしてこのギルドは経営がやばいのだろうか。

 そりゃそうか。アホしかいないんだもの。


「で、何すれば良いんですか? 軽く王都に襲撃仕掛ければ良いんですかね」


「常識人ぶってるけど、アルルも相当アレよね」


 それはそうと、一拍置いてマスターは話を続ける。


「なんて言うか、モンスターが最近活発に進軍して来てるの。簡単に言えば人間に宣戦布告ね」


「はぁ、今に始まった話じゃないですけど」


「遂に私たちにも、お国から仕事が入って来てね」


 凄い! 嫌な予感がパンパンしてる!

 死地に行かされるような、そんな嫌な予感!


「モンスターを押し返す、最前線の仕事」


「予想を裏切らないな……こんのババァ! まさか僕をそこに送るつもりじゃないでしょうね!」


「てへ☆」


「可愛くないわ! ボケ! 何勝手に約束結んでるんじゃ!」


 ババァの手には承諾の書類が。しかも、僕の名前と指印が押されていた。書類改竄しやがったな、このアマぁ!


「安心して、貴方を待つ部下がいるわ」


 おいおい、正気か。

 僕がこんな理屈で、あり得ない理不尽を押し通されるのか?

 ちょっと待てよ、部下、だと?


「これから貴方はモンスター討伐隊の指揮官! カッコイイ! ひゅーひゅー!」


「え?」


 指揮官、殿? それが俺の立場?


「指揮官殿? 次の指示を!」


「え? 何それやっぱりカッコいい」


「行ってくれる?」


「部下を守るのが、僕の役目ですから!」


 ☆


「どうして、こう流されてしまうのだろうか」


 それから数日後。ギルドメンバーにお見送りされ、僕は僻地へ飛ばされたのだった。

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