2.80歳の弟子
はぁ…今日も何事もなく平和だな。
そう思った矢先、そいつは嵐のように現れた。
「ししょー!!」
「うるさい。」
ドゴッ。
いきなり現れたそいつの頭にゲンコツを振り下ろした。
「いきなりひどいですよ!」
「お前はもうちょっと静かにできないのか。」
この大声を張り上げている私を師匠と呼ぶこいつの名前は、エルマと言う。エルフの少女だ。
見た目は私より4,5歳ばかり年上にしか見えないのだが、なんと今年80歳になると言う。
人間の寿命50歳に比べエルフの寿命はその10倍の500歳と言われている。当然人間とは成長スピードが違うのだが、年齢を知ったときはさすがに驚いた。
「ししょー!ししょー!また魔法を教えてくださいよ!」
「もうお前に教えることはない。今まで教えた魔法を磨けば十分にエルフの中でもトップクラスの能力を発揮できるはずだ。」
このエルマとの出会いは20年ほど前になる。
私はその日、森の中へ魔物を狩りに行っていた。たまに魔物を狩って国に貢献しないと国を追い出されることになっているからだ。
ある程度魔物を狩り、引き上げようとしているときに大きな咆哮が聞こえた。ただ事じゃないと思った私は急いで咆哮の聞こえたところに向かった。
そこにエルマはいたのだ。
しかもそのエルマの目の前には黒いドラゴンがいた。
そうエルマはドラゴンに襲われ殺される寸前だったのだ。
私は即座に地面を思いっきり蹴り飛ばしドラゴンの顔付近へ飛び込み顔面を殴り飛ばした。
肉体強化魔法による威力の篭ったパンチはドラゴンを横っ面に命中し、ドラゴンはその威力を殺しきれずに横に倒れた。その隙にエルマを抱きかかえ町に戻ったのだ。
それから町でよくエルマに遭遇するようになり、ドラゴンの倒し方を教えてくれとせがまれ、魔法を教えてやることにしたのだ。
あれから20年、今もエルマはあの時と変わらぬ見た目をして魔法を教えてくれとせがんでくるが、私が20年間魔法を教えてきたのだ。その実力はドラゴンを倒すどころかこの国で10指に入るほどの魔術師になっていると言っても過言ではなかった。
「ね?ね?お願いですよ!もっと強い魔法を教えてくださいよ!」
もう教えることないのになぁ…あっそうだ!
「そういえばお前は彼氏の1人でもできないのか?」
私がそう質問した瞬間、ボッというような音がした。そして目の前には顔を真っ赤にしたエルマがいた。
「か、か、彼氏なんているわけないじゃないですか!!」
おや?少しは動揺すると思ったけど、これは予想以上に動揺してないか?
「もう80歳だろ?そろそろそういう話があってもいいんじゃないか?」
「あるわけないでしょ!ししょーのばか!」
そう言い残すとエルマはドアを乱暴に開け放ち、走り去ってしまった。
「まだまだ若いな…。」
今日も私の日常は平和です。