第7話 適正テスト
早く来すぎたか・・・。
広場にはいかにもギルドのマスターのような雰囲気を醸し出す筋骨隆々なおっさんが腕を組んで立っている。
広場には張り切って叩き起こしてきたナーニャが隣にいる意外は誰もいなかった。
「「おはようございます。」」
声を揃えて挨拶する。
「おう。おはよう。お前らが1番乗りだ。早速、テストを始めるか。」
「えーっと、実技ですか?」
「おう。繰り上がり組は話が早くていいな。その分、テストに時間が掛けれる。どっちからいく?」
「はい!はい!私からいくニャ!」
強いヤツと戦いたい闘争本能でもあるのか速攻で名乗りをあげるナーニャ。
「まずは自己紹介といこうか。俺はギルド・・からここに派遣されている教諭の1人でガイルだ。」
「武闘家志望のナーニャにゃ。よろしくお願いします。」
ナーニャは両手を前に揃え頭を軽く下げて一般的な武闘家の挨拶をした。
「なかなか堂に入った挨拶だな。じゃあ、そこの白線の円の中に入ってくれ。」
地面には二重の円が描かれていてガイルは中央の小さい円の中に立っている。
ナーニャは外側の円の中に入った。
「それぞれの円から外に出た方が負けだ。手段はなんでもありだ。始めていいぞ。」
始めていいと言ったガイルだが、腕を組んで仁王立ちで突っ立っているだけだった。
ちょっとの間、ナーニャは構えて様子を、見ていたが拉致があかないと判断したのか攻勢に移る。
「はあああ!」
気合の声と共に身体に気を巡らせて物理面のステータスを向上させる。更に手を開いた構えの指先に気が集中していく。それは猫が攻撃の際に使う爪の如きだ。
「ハァ!!とりゃ!」
掛け声とともに爪をガイルに突き立て、切り裂く。
インパクトの瞬間、気の爪は大きくなり一本一本がナイフのような大きさに変化する!
ギャリン
ガイルの筋肉とナーニャの気の爪が接触したのだが、聞こえてきたのは金属のような音だ。
「そんニャ・・引っかき傷すら出来ないニャんて。」
ガイルは相変わらず腕組みして突っ立っている。
「どうした?もう終わりか?」
「ぐぬぬ・・。」
俺は自分の戦闘の参考にナーニャのステータスを見る。
ナーニャ
武闘家タイプ
獣人?(猫)
女性
Lv(総合戦闘レベル)14
HP (体力)132/132
MP (魔力)52/52
STR(物理攻撃力)32
VIT (物理耐久力)20
AGI (素早さ)32
INT (魔力適正)15
レベルは俺に劣るもののステータスのポテンシャルは非常に恵まれている。一回生の生徒になったところだが新人の冒険者を上回る実力を有していると言っていい。
にも関わらずガイルはその攻撃を、受けて無傷だった。
そしてガイルのステータスはと言うと、
全くわからない。
恐らくカイルは特殊なエンブレムかエンチャントアイテムを所持しており学園の観察システムを阻害している。
その後も色々とナーニャは技を試したりはしたが全て徒労に終わった。
ナーニャは気の爪によるの切れ味に加えてスピードで翻弄するタイプだ。攻撃が効かなかった以上無理のない話ではある。
最後に普通に押して円から出そうとしていたがガイルは微動だにしなかった。
「あんなの絶対無理ニャ」
大の字に寝転がり不貞腐れるナーニャ
既に円の外におり勝敗は決している。
「資質はあるな。体術や気の勉強もちゃんと基礎は出来てるな。幼少クラスは受け持ってなかったが気の鍛錬の教諭は俺だからみっちり鍛えてやる。これまで通り、体術と気の授業を中心に取るといいぞ。あと魔法だな。そっちの兄ちゃんもどうせ取ってるだろうから一緒にエンチャントの授業も取りな。」
「分かりました。ありがとうございます〜。」頰を膨らませながらもお礼を言う。
戦う前から見抜かれてるな〜。
俺も阻害系のエンブレムかエンチャントが欲しいな。なんとなくガイルはシステムではなく経験によって見抜いている気はするが、、、
対戦?相手の情報は少しでも欲しいので引き続き観測は断念しても観察と推察のシステムを使ってみてはいるのだが、
この、システムは佇まいや構え、服装、武器、はては見た目を元に既に観測してきた膨大な他の情報と比較し推理すろものだ。
その推理によるとガイルは達人クラスの武闘家の可能性が高いとレポートされていた。
レベルは不明だがナーニャが攻撃してまったく傷つかないところからみて少なくとも50は下らないのではないだろうか。
情報をまとめつつ円のに足を踏み入れる。
「マコトです。色々かじってます。よろしくお願いします。」
「おう。いつでもいいぜ。」
ガイルは変わらず腕組みしたままニカッと笑う。
今のところギャラリーはナーニャのみだ。
ここは全力で行ってみるか。
懐から筒を取り出す。
「ガイル先生は敢えて攻撃を受けてくれるようなので、研究中の欠陥魔法を使ってみます。」
俺もニヤリと笑いつつキーワードを口にする。
「展開」
筒が光の粒になり霧散する。
この筒は魔法の構築を補助する目的で作ったエンチャントアイテムた。その効果が切れる前に詠唱を開始する。
「構築せよ。シールドサークル」
「おお?」
淡く光る魔法陣の描かれた壁がガイルを中心に円柱状に形成される。
「なんだ?」
ガイルが訝しげに壁を観察する。
円柱の壁がガイルを取り囲む形で出現する。
「凍てつけ!アイスブレッド!!」
アイスブレッドは氷の礫を意味する。
攻撃魔法にも使われるので耳に馴染みがあるのだろう。ガイルが僅かに身構えた気がした。腕はあくまで組んだままだが。
しかし、魔法はガイルには飛んでこない。実はガイルの頭上に氷の礫はある。が、攻撃の意思は込めていないので自由落下中だ。
「対流せよ。エア・リゾルブ」
そしてその位置を風の魔法で浮かして固定する。
「大気よ。大いなる恵みを畏敬と共に示せ!エンペラークムリス」
下準備の仕上げに
はるか上空に積乱雲を狭い範囲だが構築する。
最後に結界を上空へと伸ばす。
「伸びろ!シールドサークル」
ガイルを取り囲んでいた結界が(用意したアイスブレッドを上に乗せたまま)空へとどんどんと伸びていく。
「なっ、これは?」
攻撃が飛んでこないので観察だけしているガイルだが、上へと伸び続ける結界に呆気に取られて空を見上げている。
「はぁはぁ。」
補助のエンチャントアイテムを使用し魔力の消費を極力抑えているとは言え
連続して魔法を唱えた後にはるか上空まで結界を構築するのは非常にきつく肩で息をしてしまう。
ひとしきり空を見上げたガイルから質問が飛んできた。
「さっきから何をしている。俺も知らない珍しい魔法を唱えていたな。詠唱からすると天候を操る魔法か?」
「ふぅ。言ったでしょう。欠陥魔法だって、準備にやたらと時間を喰うんです。でもそろそろ来たみたいですよ。」
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ガイル視点
マコトと名乗った生徒はそう言って目線を直上の空へと向ける。
釣られて俺もさっきまで見上げていた空を再び見上げる。
白い点が見える。
さっき見上げた時には小さい雲が見えるだけだったんだが、雲に隠れていたんだろうか?昼でも見える星だろうか?などと俺はこの時まで悠長に考えていた。考えている間にも白い点がどんどんと大きくなっていく。瞬間、理屈ではなく本能的に理解していた。
アレはここに向かって落ちてきている!!!
拳に気と魔力を最速で集中して迎え撃つ。
「燃え尽きろ!フレイムバーニング!!」
咄嗟に魔力を炎に変換して放つ。
戦いの場で瞬間の時間が何十倍にも引き伸ばされたように感じる瞬間は偶にあるが、まさか一回生の適正テストで体感するとは微塵も思っていなかったが・・・。
降ってきたのは巨大な氷塊だった。迎撃がなんとか間に合い空中で俺の放った衝撃波で氷塊が砕ける。細かい破片から気に混ぜて放った炎が溶かしていくのが引き伸ばされた感覚でわかる。しかしその様を見ている余裕はなかった。
「ぐはぁ?!」
拳と氷塊のインパクトと同時に勝手に息が吐き出される。
(なっ?!)
背後から確かな衝撃と浸透系の気の波動を感じる。氷塊に気を取られている間にマコトが背後に回り込み氷塊の迎撃と同じタイミングで攻撃してきているの事をその衝撃で認識する。
(このっ!!)
背後から胸部を狙った気を混ぜた攻撃は行動不能を狙った一撃だ。
俺は攻撃に全力を傾けていたせいでまともに一撃を喰らっていた。ここから新たに気を練ったり反撃の行動を起こすのは厳しいものがあるのを一瞬で判断して、
半分意地で今氷塊に向かって放っている最中の気の放出を拳から身体全体に広げた。
身体全体から吹き上がる気の奔流は周囲の土砂とともにマコトをも巻き上げる。
「うおわっ!」
と情け無い声を上げながらマコトは瓦礫と一緒に飛んでいってくれた。
なんとかギルドマ・・講師としてのメンツは保てたようだ。
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マコト視線に戻る
「やっぱギルドマスターだよな?めちゃくちゃ強いな〜。イテテッ」
地面に落ちた時腰を打ったようだ。痛い。
幸い一緒に宙を舞っていた岩や木は直撃しなかった。
しかし氷塊はガイル先生が破壊出来て本当によかった。実はマコトの魔法は自然の摂理を利用しただけなので氷塊の大きさなどはかなり大雑把なコントロールで予想よりだいぶデカくできてしまっていたのだ。
1人同時攻撃を目論んで近づいてきていたマコトはガイルが氷塊を破壊出来なかった場合自分の作った魔法に巻き込まれて死んでいてもおかしくなかった。
結果はガイルの氷塊への迎撃は上手くいき、まんまと背後からの攻撃に成功した。背後から心臓と肺を狙った気をまとった一撃で決まれば相手は一時的に行動不能に陥る筈で、確かな手応えを感じていたのに、気が付いたら吹き飛んでいた。
「勝敗は俺の負けですよね?」
「あ?あ〜。多分な。」
地面はえぐれてクレーターのようになっており白線どころではなかった。