第3話 オリエンテーション
入学の式典はそのまま終了となった。
終了の前に各クラスで代表者が一名呼ばれ袋を渡される。袋にはさらに小袋が沢山入っており1つ1つに名前が書いてあった。
自分の分を取りエンブレムを身につけておくように言われた。
小袋にはエンブレムの他に学園の規則が書かれた小冊子が入っていた。
冊子はまあ、後で読もう。
校章のエンブレムを手に入れた!
学園規則の小冊子を手に入れた!
さっそく校章のエンブレムを胸の目立つ位置に付けた。
銅製で鈍い光沢を放っている。この世界においてエンブレムは非常にポピュラーな存在だ。例えば俺は幼少クラスの頃に学内の図書館に本を読みに入り浸っていたら本を開いた形のエンブレムを図書館の事務員に貰った。
これがあると受付なしに図書館の利用が可能になる。
学園が配ったエンブレムも学園内の施設の利用などに欠かせない事が簡単に予測出来た。
オリエンテーションが始まる。内容は実技授業の実演とギルドの紹介と勧誘だった。
見て回るのは初年度の1年で皆同じようにエンブレムを付けている。中には複数のエンブレムを見せびらかすように付けている人物もいる。ちなみに俺は襟の内側に付けていたりする。
実はエンブレムは大きく分けて2種類のエンブレムが存在する。1つは今説明していた施設などの利用許可するタイプだ。エンブレムを持っていると色々なシステムの機能なども使えたりする。もう1つは魔法に近く、そのエンブレムを使って固有の魔法のような能力が使える。魔法が使えない人でも使用は可能だが、使用には能力に応じて魔力を消費する。
エンブレムの所持を見せびらかすのは威圧になりかねないし、奥の手でもあるのでいただけない。と俺は思っている。
オリエンテーションだが、
色々と幼少クラス時のリードがあるわけで、既にギルドにも加入はしているので冷やかし半分で見るつもりでいた。
まず正面の1番目立つ位置で目に入ってきたのはリナファンギルドだった。既に会員数は、300名を超えているそうだ。
勧誘を受けたが年会費がバカ高くて断った。
続いて王国1有名な冒険者ギルドが陣取っていた。
入った方が得な事が多く。加入している人が多い。加入用に並べられた机と椅子の数もすごく圧倒されていると勧誘とは別に声を掛けられる。
「マコト〜。このギルドはいいニャ!入るニャ!!」
(口に魚の干物を咥えたまま器用に喋るな〜。)
「ナーニャはこのギルドに加入したのか?」
「うん。他のギルド入っててもいいし、魚をくれたのニャ!!!」
「おっと、お連れさん?」
どうやらナーニャを勧誘した女性が今度は俺をターゲットにしたようだ。
「この子イケメン店員に全然なびかなくて苦労したんよ〜。で色気がダメなら食い気で魚を出したら凄い簡単で。元々この学園限定の特典で学生のうちは年会費が100Gだからオマケなしでもいいよね?お兄さんも100Gだし入っとき?」
確かに100Gは破格と言っていい。魚の干物をあげてたら赤字かもしれない。
「俺も魚の干物は貰えるのかな?」
「欲しいの?あんまうまくないで?」
黙って目線を送る。
その先には涎が垂れそうな猫娘が目を輝かせてこちらを見ていた。
「なるほど。」
と言いながら勧誘の女性は奥へと干物と手続きの書類を取りに引っ込んで行った。
その後無事契約を済ませ
目ぼしいギルドもなく、なんとなく会場の端のほうでやっている屋台に来てしまった。
「お腹空いたニャ〜」
「さっき魚を2匹食べてなかったか?」
「魚は別腹ニャ!」
少しやるせない気持ちになったところで
トラブルに出くわしてしまった。
「ひ・・・、お嬢様を離しなさい!」
見ると、人気の少ない屋台の更にその影の死角ににりそうな位置に女性が引きずられて行っており、追いすがるようにもう1人女性がいる。声を上げていたのは追いすがっている方だろう。
引きずっているのは男でかなり体格がいい。身長は180ぐらいで横幅なんか俺が2人分くらいある。引きずられている女性も意識はあるようだが恐怖のあまり固まっていてそれ以上抵抗できていないようだった。
このトラブルに俺の心は踊ってしまった。昔よく読んだ本に出てきたヒーローモノの定番のシーンだ。変身モノは流石に不味いと最近思うようにはなったが、ちょと活躍してみちゃったりして。などと不謹慎な事を考えつつ近寄って女性達に声を掛ける。
「大丈夫ですか?どうしたんですか?」
「俺は生徒会の関係者だ。コイツが怪しい動きをしていたんで、問い詰めるために連行しているところだ!邪魔をするんじゃない!!」
女性達に話しかけたつもりだったが返事は
予想外なところから飛んできた。
改めて男に目を向ける。
使い込まれた甲冑を身につけているが部分的で下には洋服を着込んでいる。背中には大きいバトルアクスを背負っている。
学園の生徒で生徒会と言うよりは歴戦の冒険者のそれだ。あからさまな口から出まかせだが敢えて乗ってみる。
「それじゃあ、朝早くから来られて警備されているんですね。ご苦労です。」
「フン。まあな。それよりそこをどけ。邪魔だ。」
(はいダウト。)
役員クラス以外は集合は掛かっていない。生徒会に所属する人は多いので覚えていないが流石に役員クラスの顔は覚えている。
(とりあえず何者なのか調べとくか)
俺は手持ちのエンブレムを操作する。
魔法に適切がない場合はエンブレムを触る必要があるが俺は適正があるので念じるだけで起動可能だ。半透明のモニターに情報が映し出される。これはエンブレムを操作している人にだけに見える。調べる対象者として視覚に映る全員に対しても半透明のターゲットが重なる。
冒険者にしか見えない男をターゲットして情報を検索する。
〈 ヒットしません。ギルドシステムで検索し直しますか? 〉
システムの機械的な音声が頭の中で響く。
(それよりは強さの推定を頼む。)
〈 了解しました。 〉
タイムラグなく推定値が表示される。
戦士タイプ
ヒューム
男性
Lv(総合戦闘レベル)19
HP (体力)120
MP (魔力)20
STR(物理攻撃力)40
VIT (物理耐久力)25
AGI (素早さ)15
INT (魔力適正)2
推定値は学園のシステムによる観測によって出た数値だ。何らかの手段で観測を妨害していなければかなり正確な数値が出てくるハズだ。
「おい!聞こえないのか?!」
回り込んだまま動かない俺に苛立ちを募らせながら再度声を掛けてくるが無視してどう無力化するかするかを考える。あと仲間が居ないかも懸念したが、システムを介して見ても近くに他に不審な人物はいなかった。
そろそろ痺れを切らしそうなのでこちらからも情報を出してみる。
「ところで、どこに行かれるんですか?オリエンテーション後の生徒会構成員の集合場所は壇上裏ですしそこで聴取すればいいんじゃないですか?」
一瞬相手の目が見開く。
(お粗末だなぁ。力技で解決してきたタイプなのか?)
「・・・チッ。めんどくせぃ!」
背中に背負っていた大きな斧を片手で振りかぶる。短絡的な行動に唖然としてしまいそうになるが、空いた方の手が不自然にズボンのボタンを触っている。ボタンが鈍く光ったような気がした。
(エンブレムか?)
次の瞬間、男の体躯が搔き消える。
が、システムのターゲットが合ったままで半透明のシルエットがそのままだった。
「姿を隠すエンブレムか?!」
(システム使ってなかったらやばかったな?
それにしても、戦闘中にシステムを起動していると、まさかここまで恩恵があるとは・・・)これまでエンブレムのシステムを起動した状態のまま戦闘する機会はなかったので知らなかったのだ。視界にはバトルアクスの未来軌道が描かれ半透明のカラーが赤に変わり警告を明示してくれている。回避する最短距離と方向の指示まで出ている始末だ。
自分も同じ判断だったのでタイミングを見切り斧を避ける。
同時に手をかざし唱える。
「電よ!」
雷系の初級魔法スタンだ。
詠唱が短く、そのせいで魔法名を唱える術者も少ない魔法で殺傷性も低い。ただ痺れるだけの魔法だ。
手から電撃が対象者へ飛ぶ。
「グアッ!」
「きゃっ」
冒険者風の男がエンブレムに触っている時点で両手を使っている訳で拘束は解けているので逃げている認識でいたが、まだそこまで距離を稼げていなかったようで、掴まれていた女性を巻き込んだようた。
謝りたいところだが、拘束を優先する。屋台から荷物用のロープをナーニャに貰ってきて縛った。
「隙あらば助太刀しようと思ってたのになにもする事なかったニャ〜」
「ありがとう。まあ、なんとかなってよかった。」
俺は加勢しようとしてくれていた。ナーニャにお礼を言い、「ふぅ」と一息ついた。無意識のうちに大分緊張していたようだ。