第12話 生徒会会合
そろそろ、時間だ。どうやって、話を切り上げて別行動で1階に向かうか思案していると、扉が開きパンナコッタが戻ってきた。
「時間ですよ?行きましょうか。」
1人でしゃべり続けるリナ・インパルスの話に被せるように発言するとスタスタと出口へ向かうパンナコッタ。
「了解です。と、このカップは?」
飲みかけのカップを気にすると、
「置いといていいわよ。後で片付けるわ。」
との事だったので、素早くパンナコッタを追った。せめてパンナコッタさんも交えて移動しないとファンクラブの連中から暗殺対象にされかねない。
再び一階の大講堂兼大食堂に着くと
さっきとは打って変わって人で溢れかえっていた。ざっと60人近い人数がいる。
ポーン(兵士)以外のエンブレム持ちは全員招集がかかっていそうだ。
大講堂の大きさからするとまだまだ収容可能なので、必然的に供給元の調理場のある奥側のテーブルに人が集まっている。
自然そこに近寄ると声を掛けられる。
「やあ、おはよう。マコト君はこっちのテーブルに来てくれ。」
「会長。会合の前に1度会長室にお越しくださいと言ったと記憶しているんですが?」
「ハッハッハッ。ごめんごめん。忘れてたよ。」
会長ヒート・ウィンとパンナコッタの掛け合いを聞きつつ勧められたテーブルの末席に座る最中ヒソヒソと喋る声が耳につく。
「おい。あいつリナ様と一緒に大食堂に入ってこなかったか?」
「おいおい冷静になれ。どっちかと言うとパンナコッタさんと並んで歩いてたぞ?会長からも声が掛かってるし何か用があって呼び出された口だろう。もし、リナ様と2人だけで並んで入ってきていたら死刑確定だがな。」
「そうか。なら今回はギリギリ無罪か。」
勝手に判決が下った。無罪らしいので問題はないが、やはり生徒会の中にもファンがいるようだ。用心して正解だった。
着席したテーブルは中央のテーブルで学園の顔と言える面々が座っている。
まずお誕生日席の会長ヒート・ウィン。その性格からキング(王)のエンブレムは隠す事もなく胸ポケットに付けてある。ゴールドに輝きを放っており、ゴールドランクのエンブレムが実在する分かりやすい実証として学園内でもよく話題になっている。キングのエンブレムは学園において実権も高い。学園内のあらゆる施設やシステムも利用出来るらしい。
次いでキングの予備の意味合いも持つクィーン(女王)エンブレムを持つ副会長のリナ・インパルスが会長から向かって右側の隣の席に座っている。学園のエンブレムで全権を持てるのはクィーンのエンブレムまでで、エンブレムの強弱では学園長のエンブレム>キングエンブレム>クィーンエンブレムの順番だと言われている。クィーンもゴールドエンブレムらしいが、目に見える位置にエンブレムは見当たらかった。
更にその横にはパンナコッタが座っている。なんのエンブレムを持っているのかは知らない。・・知らないが、
リナ・インパルスとパンナコッタの対面する位置に座る2名の男性がそれぞれ
襟首、胸ポケットの位置に
ナイトとルークのエンブレムを付けている事から推測するとパンナコッタはビショップのエンブレムを持っていそうな事は容易に想像できた。
末席は両側空いていたが、空気を読んで男性側に座る。
「あとで紹介の時間を取るけどその前に少しだけ紹介しとくか。ポーンのオリジナルエンブレムを任せる事になったマコト君だ。」
会長が喋り出した瞬間は一度静まったのだが、内容が突発的なのか、一瞬で騒めく。
「会長!勝手に進行しないで下さい!!」
パンナコッタが睨む。
「まったく!もっと順序立てて説明する予定だったのに・・・。」
「ごめんごめん。紹介が必要かと思ってね。」
その後はパンナコッタが取り仕切り
オリエンテーリングの反省会から始まった。その際に不審者を捕縛した者として紹介された。
次に今後の予定へと続き
1年限定の王都見学会が来週に続いて来月には大遠足会があるらしい。見学会は引率の生徒会パーティメンバーの選出が、大遠足会は救援と審判代わりのパーティメンバーの選出が行われた。
最後は学園を取り巻く情勢の話で、
帝国側の国境に動きがあり、
国から情報が入ってきている事や
あくまで非常時の話だが学園の生徒は非常呼集で軍部に学園ごと入る可能性がある話が出たりした。
同じくあくまで非常時を見越して学園の広大な土地の一部を間借りして、軍の駐屯地を作るため既に国の工作部隊が一部派兵されて来ているらしい。
軍の駐屯地の話の後、昼食会はお開きになった。周りのテーブルに座り話を聞いていた各部署の構成員は次の授業に向けさっさと移動を開始しているが、このテーブルだけまだ話が続くのか誰も立ち上がらない。
「さて、こんな感じでいつも会合が行われてるんだけど、何か質問はありますか?」
終始会合の流れを取り仕切っていたパンナコッタが尋ねてくる。
「会合の事ではないんだけどそれでもいいかな?」
「構いませんよ?」
「生徒会エンブレム付属のロッカーは呼び出して利用してもいいんだよね?あと、下って潜っ
「ストップです!!」
そこまで言ったところで質問を遮られる。
本当に慌てふためいていたのか眼前にパンナコッタの顔があり物理的に手で口をふさがれている。身長が低めな事もあり対面に座っていた彼女は机に乗り上げる格好になっていた。
パンナコッタはかなり真面目な方だと思われるがスカートの丈は他の女子と変わらず流行りの短めだが大丈夫なのだろうか?
口に華奢な手が当たるまま視線を横にズラすと、
真後ろに近い後ろのテーブルにまだ僅かに男子生徒が残っており、その目線は一点に集まっていた。
「・・・。私とした事が。」
俺の目線から背後の状況を読み取りスカートの裾を抑えなが後退するパンナコッタ。
「エンブレムに詳しいとは思っていましたが、ここまでとは・・。そこまで知ってるのは生徒会でもごく一部ですよ?」
何もなかったかのように話を続けるのは流石だが、顔が真っ赤だ。
(しまったな。師匠との会話でこの辺は最早知ってる前提で気にしてなかったな。世間一般では知られていない事か・・。)
その後、同じテーブルに座る面子以外の全て人が出払ってから話が続けられた。
「なるほど、そんな機能がエンブレムに付いていたのか。」とはルーク(城)のエンブレムを付けた男ガイアだ。身長が190ぐらいありそうで横にもでかく正に城のような印象だ。役職は治安維持隊隊長。魔法の適正が低いらしい。
「まあ、ガイアに伝えてないのは使えない可能性が高くて可哀想って事でみんなで内緒にするって決めてたんだぜ?」
と唯一幹部でロッカーの呼び出し機能を知らなかったガイアをフォローするのはナイト(騎士)のエンブレムを持つマッシュだ。こちらも背は高めで180はありそうだ。ガイアに比べると細いが十分恵まれた体格だ。こちらは要人警護隊隊長だ。
話題にのぼっているのは俺が口にしたロッカーで先ほど案内された生徒会のロッカーの事だ。エンブレムを魔力操作すると学園内なら何処からでも対となるロッカーを利用する事が可能になる。要はどこからでもロッカーが使用出来る。
「ロッカーに関しては聞いていた人もいたのでいずれ気付く人も出でくるでしょうし生徒会内には次の機会に通達しましょう。」
「パンナコッタは何故今まで情報を伏せていたんだ?」
ガイアは自身に情報を伏せていた事ではなく生徒会内でも情報を伏せていた点で聞いていた。
「悪用されないかが心配です。便利な機能ですからね。」
「まあロッカーの話はそれくらいにして、下の存在を知っているとはね。どこで知ったんだい?」とテーブルに両手を置き前のめりでこちらを注視してながら生徒会長のヒート・ウィンが問いかけてくる。
「エンチャントギルドで師匠と研究の一環で調査している。」
「エンチャントギルド・・ゲヘナ・リベレッジ?あのギルドは私物じゃないんだ。」
副会長のリナ・インパルスが物騒な事を呟く。聞かれていたら大変な事になっていただろう。
「確かに構成員に名前がありますね・・マコトさん1名のみですが・・」
いつの間にかエンブレムを使用して生徒会の資料にパンナコッタがアクセスして閲覧しているようだ。
当人以外から見ると単に空中を見つめているようにしか見えない。
「・・あの方の教えを享受しているのならなるほどですね。」
資料を見たまま呟きパンナコッタは勝手に納得してしまった。
「ああ。回答がまだでしたね。下への入口は厳重に封鎖してありますので入るのは無理です。と言うか入れても危険過ぎて承諾出来ません。」
「単独ではだろう?機会があればこのメンツで入ってみるのもいいかもしれないな。」
「生徒会長は軽はずみな発言は控えて下さい。」
そんな
会長と書記のお決まりのやり取りで会合はお開きになった。