第11話 生徒会館へ
クリスを氷漬けから解放するのは、結構大変だった。
温めればいいのだが、直接火の魔法掛ける訳にもいかず
結局春先にも関わらず暖炉に火をくべて風魔法で熱い空気を循環させた。
溶けきるのにかなりの時間を要した。
氷が溶け出した時点でナーニャは部屋に戻り、
結局男子3名は全員、俺が案内された部屋でクリスの看護と睡眠を交互で取りつつ夜を明かした。
翌朝の朝食はギクシャクした空気が流れた。先にミシェルが話を切り出し、あの場にいて、クリスに襲われかけて無力化した事。襲われかけて怖かったので早々に退散したとの話だった。
ラスクは何も言わず首を縦に振って肯定している。行動としては事実そのままだしな。俺とナーニャも事実を知っているが、当たり障りなく話に乗っかった。
話題の主のクリスはあんな目に遭いながらもちゃんとかけ続けた回復魔法により完全に回復しているが、体力を消費したようで爆睡しているため暗黙のうちに放置されたまま朝食会は終わり御開きとなった。
それがかれこれ2時間ほど前の出来事だ。
シェリーとミシェルの寮を後にし、1時限の座学の授業を受けた後、ある建物の前に来て現在に至る。
座学の授業を他に知りあいで受けている者がいなかったのもあり今は1人だ。
目の前にある建物は昨日の寮と勝るとも劣らない大きな建物でここからは見えないがこちらの方が奥行きもあるので収容人数はこの建物の方が遥かに多い。それも当然だ。この建物は生徒会館。雨天時の全生徒による集会や非常時の避難所として想定されており学園の中でも1番大きい建物ではないだろうか?
むしろ、幅だけとは言えそれに匹敵する大きさの寮がある方がおかしい気がしてきた。しかもその寮を使ってる生徒は2名・・・。
「おや、そこに居られるのはマコトさんではないですか?」
建物を前に妙な考察をしていると背後から声を掛けられた。
振り返ると頭1つ分下の目線があった。
「こんにちは。パンナコッタさん。」
「こんにちは。やはり、マコトさんでしたか。昼食会にまではまだだいぶ時間がありますよ?」
生徒会の書記パンナコッタは恐らく同じ理由で来たであろう事を棚に上げて質問してくる。
「2時限目を取ってなかったので、早目に来てみました。そう言うパンナコッタさんも早いのでは?」
前に言われていた会合に出席するため俺はここに来ている。
「私は準備がありますからね。」
フッとはにかみつつ答えると、建物の入り口に歩き出す。パンナコッタは首だけ振り返りつつ話を続ける。
「折角ですし、建物の中をざっと案内しましょう。ついて来てください。」
中に入ると廊下が左右に続いており正面には両開きの扉があり扉は開け放たれているので入口から中を覗く。中はだだっ広く。机と椅子が規則正しく並べられている。奥側に一段高い部分があったり、別室の厨房もあるようで調理中なのかいい匂いがしてくる。
「ここは大講堂兼大食堂です。まあ大食堂の方が主ですね。雨天時に生徒が集まる機会があればここを使います。1階はほぼこの部屋だけしかありません。昼の生徒会の会合もここで行います。上に行きましょうか。」
廊下を歩くと上に続く階段があった。階段以外に奥へ続く通路があるが女子トイレがあるだけのようだ。
「男性用は反対側です。」
階段を上がりつつ説明が続く。
「2階部分も大講堂兼大食堂です。あの部屋は天井が高いので。一応2階の部屋もあります。大講堂を上から見れる貴賓席を想定した部屋です。」
2階に着いた。1階と同じように廊下があり、中央と思われるあたりに扉があるのが遠目に見える。
「でも、その部屋しかないので2階はスルーです。」
と言ってパンナコッタが再び階段を登り始める。足が早い。パンナコッタは生徒会が忙しいのかいつも機敏に動いている印象だ。しかし、率先して先に階段を登るのはどうかと思う。男のサガか目の前で揺れる制服のスカートと生足を目が追ってしまう。
パンナコッタは全く気付かないまま説明を続ける。
「3階は生徒会関連の施設が主になります。生徒会会長室、生徒会待機室、会議室、会計室、医務室、ロッカーと言ったところでしょうか。」
3階まで登ると廊下が今までの作りと異なる。建物の外側を隈なく廊下が巡っているようだ。
「まずはロッカーです。」
そう言って手近にあるドアを開ける。部屋の中を覗くと金属製の扉が沢山並んでいる。
「これが、ロッカーです。中に私物を入れて貰って構いません。ここのロッカーは普通は役職付きでないと使えないんですが、マコトさんは役職がなくても生徒会のオリジナルエンブレム持ちなので使えます。ロッカーにマークが入ってるのがあるで探してください。」
言われるがままにオリジナルエンブレムポーンと同じ模様が入ったロッカーを探す。ロッカーはどれも同じデザインで大きさも一定だ。
(なくないか?)
そう内心思いつつ最奥に近づくとこの一角だけ様相が異なった。他のロッカーの倍以上の大きさだ。そこに並んだ数少ないロッカーにチェスと同じキング、クィーン、ビショップ、ナイト、ルーク、ポーンのマークがそれぞれ入っていた。
「最奥か。」
「持っているエンブレムをロッカーのマークに近づけてみて下さい。」
言われるがままエンブレムを近づけるとカチリと鍵の開く音がした。
キィ
小さく金属の磨耗する音が鳴る。まるで、長い事使われていなかった事主張しているような気がした。中には何も入っていない。いや、古ぼけた紙が1枚、物を置く前提なのか、無地の羊皮紙が敷かれて思わず手に取る。
「え?嘘。この前掃除した時は何もなかったのに・・。」
ロッカー内から冷えた空気が流れ出てきたのか手にヒヤリとした感覚が伝わる。
(いや、このロッカーにエンチャントが掛かっている?部屋自体か?)
なんとなく、羊皮紙を戻しロッカーの扉を閉める。
「掃除して頂いたんですね。ありがとうございます。紙は取り敢えず敷物代わりに使いますね。」
「は、はい。お任せします。」
「次は生徒会の役職付きが集まる待機室に行きますか。」
ロッカー室を出て廊下を出て新たな扉を開ける。部屋には先客がいた。
「ん。おはよう。パンナコッタ。とマコト君か。ようこそ生徒会の中枢へ。」
学園のアイドル。生徒会副会長のリナ・インパルスがソファでお茶を飲んでいる手を止めてそう声を掛けてきた。部屋は中枢と言うよりは客間で寛ぎやすいまさに待機室と言った感じだ。壁や家具が白基調で明るい。四方にドアがあり窓がないのだが、何故かリナ・インパルスのバックに陽光が輝いているような気がした。
「おはようございます。」
「おはよう。会長はいつも通りまだですね?」
「ではマコトさん。案内はここまでと言う事で。」
パンナコッタが右の扉を開けて去って行った。扉越しに、事務机がチラリと見える。
「パンナコッタは事務的すぎるのよね。せめて会合まではもう少し間があるのでここで待機してるといいですよ。とか一言あるべきだと思わない?」
「ふふっ。そうですね。案内して頂いて親切な方だと感じましたが、確かに必要な箇所の案内に絞っられていた感じもします。」
「じゃあ座っといて、紅茶入れ直すから。」
言われた通りに空いている対面の位置のソファに座る。
(これはファンクラブの面々に知られると
と血祭りに上げられるかもな。せめて待機室を出る時は別々に出れないものか・・・)
すぐに
暖かい紅茶とお茶受けにクッキーを持って
リナ・インパルスが戻ってきた。
「まあ、パンナコッタはいいのよ。仕事を1人で10人前はこなすし、言葉少なめでも控え目な感じでもあるし。問題はあいつよ!」
その後、会合までの時間暇を持て余す事はなかった。熱血馬鹿こと生徒会長ヒート・ウィンの愚痴を延々と聞かされるのであった。