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第10話 夜の空騒ぎ(後編)

首筋の急所の血管に当てられた爪が

背後の存在が気のせいでない事を物語る・・・。


以降は言葉の掛け合いだった。


「乙女の寝ている部屋に乗り込むとはいい度胸ニャ」

「えっ?」

「えっ?」

「なんだ。ナーニャか。」

「なんだとは、なんニャ?!!」

「えーっと、間違えました。」

「なっ!!誰と間違えて?!・・最低っ!」

「あ、いやいやそういう意味じゃなくて、同じ階の自分の部屋と間違えたって意味で、というかいい加減首のコレ怖いからやめて。」

首筋に当たっている手を手で取り振り向く。


ナーニャが憮然とした納得のいっていない表情ですぐそこにいた。

怒ったからだろうか顔色が少し赤い?


「この階は2部屋しかなくてだな。左右対称な館だから、考えごとしながら階段登ってたら間違えてしまったみたいだ。ごめん。」


「ふ、ふ〜ん?」


振り返って目に飛び込んできた

ナーニャの服装も寝る用の服だった。

スケスケとかそういうのではないが、どちらかと言うと十に満たない女子が着そうなフリフリが付いた生地が柔らかそうな寝やすさを追求してそうな寝間着だ。


「何をじろじろ見てるニャ?」


「ごめんごめん。」


ナーニャから視線を逸らして事の経緯を少し説明する。


・・という訳で、ナーニャの忠告に従って物陰から(透明化エンブレムは伏せて物陰から聞いた事にする。)2人の様子を探っていたら隠し通路からおそらく直接部屋に向かわれてね。どうしたらいいか考えあぐねていたんだけど、部屋にいないのは不自然だから、戻ろうとして今に至る。」


「それで部屋を間違えた訳ニャね。確かに向こうに人の気配がするニャ。」


もう一方の部屋のある壁の方を見ながら

ナーニャが話を継ぐ。


「分かるのか。凄いな。」


「気配を抑える。気配を捉える。のは武闘家の基本にして常に高めるべき部分ニャ。」


「フフッ」


「でも、気配は話の2人だけじゃなくて、4つあるようニャ。・・・。」


「え??4人という人数から考えると思いつくのはクリスとラスクが来てる?」


「ところで私の寝間着の感想を聞いてなかったニャ。どう?カワイイかニャ?」


と、ナーニャが唐突に話題を変えて小首を傾げ、ずいっと1歩近づき質問してくる。なんだかいつもより距離感が近いぞ。ほぼ0距離でナーニャの吐息が頬に触れる。


「えっと・・、寝間着は普通かな。ナーニャ自体が・・可愛いから寝間着姿もカワイイけど」


しどろもどろで目を左右にキョロキョロさせながらもなんとか質問には答える。


「・・・。これは、部屋を間違えたのは結果としてよかったかニャ〜。」


あ〜。軽く迫ってみた訳ですね。


「・・・とりあえず、向こうの状況が気になるから見に行こうか。」


「わかったニャ」


───────────────


マコトが偵察に出た頃、

クリスは隣の部屋のドアをノックしていた。


「ラスクまだ起きてるか?マコトの部屋がどうなってるか見に行こうぜ。」

しばらくして目を擦りながらラスクが出てくる。パジャマにナイトキャップ姿で非常に愛くるしい姿だ。

「クリスは私が正しき行いを良しとする神を信仰しているのを知っていますよね?」

「知ってるぜ。物事の大小によっては小事はやむなしでもあるんだよな?」

「マコトの部屋をこの時間に訪ねる事が物事を正す事に繋がると?」

「かもしれない。」

「・・・殆ど口実ですよね?」

「だが、その可能性もなくはない。」

「分かりました。様子見に行くだけですよ?」

呆れ気味に了承しラスクが部屋から出る。

「ラスクはその辺柔軟な思考が出来るよな。いい司祭様になると思うぜ?」

ニカっと笑いウインクするクリスのテンションの高さに苦笑するしかないラスクであった。


コンコン


「どうも居ないようですね。」


ノックをしたラスクが少し眉を寄せつつ言うと、


ガチャ


「廊下で突っ立って待つのはしんどいし中で待たせてもらおうぜ。」


とドアを開けるクリス


「勝手に入るのは、良い行いとはとても言えません。」


首を横に振りクリスの行動に苦言を呈するラスク。


「この行動が後々に繋がるかも?」

「とりあえずそう言っとけばいいと思ってませんか?」


ラスクの眉が更に寄っていた。


更にソファに座り込み置いてあった寝酒に手をつけるクリスを見てため息しか出ないラスクであった。


───────────────


「なんだか、蒸し暑いな。」

「そうですか?」

春の温かい陽気で夜の今も確かに気温が高い気はするが、晴れが続いていて湿気は感じないのだが、とラスクが考えているといつの間にかクリスが近寄って来ていた。

「? どうかしましたか?」


「ラスクって可愛い顔してるよな〜。体格も華奢だし?」


「はぁ?何を言ってるんですか?

確かに司祭を目指してますし、華奢な方だと自覚はありますが・・・」


ラスクは返事をしつつクリスの異常な雰囲気に気付き咄嗟に後ずさる。


「クリスさん?なんか、おかしくないですか?」


相手は騎士見習い。そもそもラスクは回復系である。身の危険から入り口のドアまで後退するがドアノブに手を掛けたところで抱きつかれる。


「ちょ!やめて下さい!」


抗議の声を上げるが腕が解かれる事はなく、益々変な質問が飛んでくる。


「ラスクって実は女の子だったりしない?」


「んなわけがあるか!!」


目を覚まさせるべく耳元で目一杯の声でツッコミを入れる。

多少迷惑そうな顔はするが正常な感じはしない。目がトロンとしている。


「まあ、どっちでもいいからベッドに行こう。」


「いい訳ないだろ!!正気に戻れ!」


ラスクは抵抗虚しく引きずられながら必死に考える。

どう考えても正常ではない。考えられるのはさっき勝手に飲んでいた寝酒だ。何か混入していたのか?


「秩序を愛する神ジアスよ!かの者をあるべき姿へ戻したまえ。キュリス」

下位の祈りだが、軽度な状態異常ならなんでも回復してくれる魔法だ。余談だが風邪などにも効く。


が、どこ吹く風でクリスはベッドにラスクを押し倒した。


「解毒魔法が効いてない?!いや、集中できてなかったのか?うわっ」


上から乗られて押さえ込まれ、顔が迫ってきたのを必死に避ける。


直撃は避けれたが頰から伝わるレロレロされるおぞましい感覚に

普段の温厚なラスクからは想像できないほどの叫び声が出る。


「ギャァァ〜〜!!!」


───────────────


「ミシェルどうかしたんですか?なんだか騒々しいんですが?」

先に隠し扉から部屋に入ったミシェルが固まっている原因が分からずミシェルの肩越しに向こう側を見つつ声を掛ける。


「な、なんでクリスさんとラスクさんがいるんですの?と言うかアレは一体?!」


目の前ではクリスとラスクがベッドの上で攻防を繰り広げている。ラスクの服は所々破けておりシェリーは目のやり場に困った。なんとなくどういう状況かも分かってしまい頬が赤くなる。クリスは視野が狭まっているのか気付かず、ラスクも防ぐのに必死でこちらも未だに気付いていない。


「萌えるシチュですねぇ。ハァ」

何故かウットリとした表情で眺めるミシェル。若干涎が垂れそうに口が開いている。

「ミシェル??」

「ち、違った。えーっと」


「あっ、アレです。」

ミシェルがあからさまに動揺しつつ、

言い訳か説明なのか分からない態度なままサイドテーブルを指差す。


「あの机がどうかしたんですの?飲みかけの飲み物が乗っているくらいですが。」

「はい。一助にと媚薬を入れるように指示してました。おそらくアレをクリスさんが飲まれたんだと。」


「ええっ!?」


大きな声を上げたせいでラスクが女性2人に気付く。


「え?ミシェルさんに・・シェリーさんですか?っ!なんて格好を・・」


ベットの方が明るいからかラスクからは後ろに立つシェリーまではハッキリとは見えていないようだ。


シェリーは内心思った。ラスクも大差ないのでは?と。


「ぬおおお!いい加減にしろぉ!!」


およそ聖職者見習いとは思えない叫び声を上げてラスクがなんとか身体を反転させ掴まれた腕を振りほどく。


「腰を動かすんじゃねー!!」


腕は振りほどいたものの正気を失っているクリスがすかさず後ろからくっついてきている。


その時、急にクリスの動きが止まった。


「お、女!」


クリスはそれだけ言うとミシェルに襲いかかった。


「ミシェル!」


どう見ても盛りすぎの媚薬で自業自得な一面もあるが、だからと言って親友の身を案じずにはいれないシェリーであった。


「ハッ!」


気合いの声とともにクリスの身体が宙を舞った。


ズダンッ


「今のうちです。召喚魔法で拘束しましょう。」


確かに勢いよく背中を打ち付けたクリスは動けずにいる。


「わ、分かったわ。いでよ常冬の住人。スノーマン!!」


シェリーが短縮した呪文を唱えると

氷の属性の中位に当たる雪だるまの容姿の精霊がほとんどノータイムで召喚されその姿が形成された。中位の精霊がこの速度で呼び出せるのは非常に稀有な存在と言っていいかもしれない。


「かの者を凍れ」


命令通り雪だるまが力を行使し足回りに氷が現れ凍りついていく・・予定だったのだが、動揺からか出力が大きくなってしまったようで、氷がそのまま成長して腹回りまでの下半身すべてを凍りつける。


「俺は一体・・寒い・・俺は夢を見ているのか?みんななんで半裸・・な・ん・・・」


正気に戻ったぽいセリフと共にクリスが気を失う。


「だ、大丈夫かな?」

凍死しそうな感じで意識をなくしたクリスにミシェルが焦って顔を覗き込む。媚薬を盛る指示をした手前自分に原因の一端があると考えているのだろう。


チラリとラスクが一瞥する。

「生命の炎はまだその身に宿っています。まだ暫くはそのままでも大丈夫でしょう。それより何か羽織って下さい。」


───────────────


2人が備え付けのクローゼットからガウンを羽織った頃。マコトが部屋に戻ってきた。


「うわっ!?これは一体・・・」


クリスは顔面蒼白で意識のないまま歯をガチガチ鳴らしながら震えている。


「マコトさんは何処に行かれていたんですか?大変だったんですよ?」


ラスクが問いには答えないまま質問で返す。


「おお!これはすごいニャ!」


マコトが返事を返すより前に

マコトの背後からナーニャが部屋へと入ってきた。


クリスの氷漬けを見て笑いつつラスクを見やる。


「確かに大変な格好ニャね。ニシシ」


ハッっとして自分の格好を見たラスクは

「ちょ、こっちを見ないで下さい。」と女子のような反応で破れている服の隙間を手で隠す。


──クローゼット内──

ガウンを羽織りにきた2人はとなりの部屋のクローゼットにいた。


「マコト様はナーニャさんの部屋に行かれてたのね。」

気落ちした声でシェリーが呟く。


「くっ。ここは一旦引きましょう。流石にこの格好のままでマコト様と会う訳にもいきませんし。」


「クリスさん。大丈夫でしょうか?それにラスクさんも私達の事を喋ってしまうのでは?」


「・・消去法でも誰が氷付けにしたのかはバレバレですね。容姿に関してはラスクさんなら話さない気がします。この場は祈る他ありませんが後でお願いもしておきましょう。兎に角見つかる前にお早く。」


「分かりました。」


2人は静かに隠し扉から去って行った。

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