ポテト王国の日々 6 〜ナイト〜
馬達の世話や家事を終えた俺は、街中にある冒険者ギルドに来ていた。
ど田舎の小さな国にも冒険者ギルドはある。
基本的に国から一歩出れば、魔物が歩いているようなこの世界。国から国へと渡り歩くのは、冒険者と商人がほとんどで、その冒険者や商人達に立ち寄ってもらう工夫が必要になる。
観光業が盛んだったり、凄い特産品があるなら別かもしれないが、ポテトも例外ではなく特に魅力溢れた国ではない。
そんな国でも、冒険者ギルドがあれば旅人達は立ち寄ってくれる。冒険者ギルドには冒険者ギルドのネットワークはあるが、運営費の半分以上は国が負担をする。
冒険者ギルドでは、国民の依頼を受け、依頼という形で、冒険者へ仕事を提供する。冒険者は依頼を達成すると報酬金が貰える。
また、他国や周囲の魔物に関する情報提供や、魔物から取れる素材やアイテムの売却によっても金を手に入れることができる。
冒険者ギルドや国にとっては、珍しいアイテムの入手や情報収集、国民ひいては国家の悩みの解決、冒険者が宿や武器屋や食堂を利用することでの観光による収益等、かなりの利点がある。
冒険者にとっては、収入源なのはもちろん、情報交換や国内の宿を格安で斡旋して貰えたり、国の案内所的な意味でまずは立ち寄りたい場所だ。
俺もレベルが5に上がった時点で、冒険者ギルドへの登録資格を得た。
冒険者ギルドは誰でも利用できる訳ではない。例えば、物凄く強い魔物を討伐する依頼を、実力も何もわからない人に頼んだとして、その人が亡くなってしまうとギルドや国も困るし、何よりその冒険者の家族も報われない。冒険者は身元と実力を証明するためにギルドへ登録し、ギルドはその内容を元にレベルに、冒険者のレベルに見合った依頼を発注する仕組みになっている。
この制度は世界共通で冒険者ギルドで統一されていて、冒険者の情報も同時に各ギルドで共有されているそうだ。
ポテト王国でも、平和とはいえ依頼はある。ソイルさんにお願いして、時間に余裕のある日は依頼をする時間に充てている。
冒険者や商人などの旅人は国に入るのが難しい。許可証や身分証をもとに審査が必要だからだ。一方国民にとっては、危険とされる国外に出ることの方が難しい。
依頼の為という名義があれば、国外に出ることができる。レベル5になるまでは、アイスのようにどこからか国内に迷い込んできた魔物と遭遇しない限り、魔物と闘う機会も少なかった。レベル5になってからは、少しでも国外に出る機会を得るために、なるべくギルドへ通っている。
カラン。
ギルドの扉のドアベルと共に、中に入る。
「ようこそ。冒険者ギルドへ。」
3つ並んだ手前のカウンターで、見知った顔の女の子が、反射的に挨拶をしてくる。
「って、なーんだ。ナイトか。あんたもこの場所好きだねー。それともあたしに会いにきたの?」
俺を見るなり態度を変えてくるこいつは、「会話・池」。トークの父親とソイルさんは仲が良く、俺とトークは小さい頃はよく遊んでいた幼馴染だ。
名前通り、話好きかつ話の上手いトークは、比較的黙々と作業をする農業は性に合わなかったらしく、その話術を活かしてギルドの受付嬢になった。
もともとサバサバした性格で、誰とでも打ち解けられる話術があるので、今はポテトでは有名な看板職員だ。
「依頼を紹介してくれないか?」
俺の質問に、はぁーっとため息をつく、赤髪ポニーテールの幼馴染。
「相変わらずつれないな〜。三日振りに会った幼馴染に対して、元気かとか、今日もいい天気だなとか、何か無いわけ?」
「見るからに元気そうだし、外は快晴だ。」
そういうことじゃなくて〜と言いながら、台帳を開いて依頼を探している。
最近は何故か依頼の数が激減している。日や時期によって多い少ないの差はあるが、ここ数週間はほとんどゼロだ。
トークに理由を聞いてみても、平和な証拠じゃない?と返されて終わる。
俺も最近ではギルドの常連になりつつあるので、理由があれば幼馴染のよしみで教えてくれるだろうが、本当に理由はわからないらしい。
「うん、今日は依頼はあるけど、あんたが出来る依頼はなし。毎度ご利用ありがとうございました〜。」
営業スマイルで退散を命じられる。
「ちなみに今ある依頼ってどんなやつ?」
「Fランク冒険者様にお伝えすることは出来ませぇん。」
む、内容すら教えられないってことは極秘依頼か。
依頼にも種類があって、訳あって公開出来ないものを極秘依頼と言う。公開できるものは掲示板にも張り出されているが…確かに今は何もない。
あと冒険者には、S、A、B、C、D、E、Fの格付けがされていて、駆け出し冒険者にあたる俺はFランクになる。格付けは依頼の達成度、難易度、冒険者のレベルやスキルから、ギルド側の判断で決まる。
「じゃあランクだけでいいから教えて。」
ランク最下層の俺が受けられない依頼があるのは当たり前だ。ただ、依頼のレベルは掴んでおきたいから、受けられない依頼でも、いつもランクを聞くようにしている。
「ランクをお伝えすることも出来ません。お引取りくださいー。」
ん?ランクもダメなのか?
極秘依頼でも、ランクから内容がわかる訳ではないので、ランクを伝えてはいけないというルールはない。
依頼主からランクすら伝えることを止められている?
でも、なんでだ?
「あ〜もう、考えないで!探らないで!何言われようが教えられないんだからね。さぁお家へ帰るんだ!」
明らかに態度のおかしいトークに、強制的にギルドから追い出された。
さすがにあの態度じゃ教えてくれないだろう。
「どうすっかなぁ。」
時間が出来てしまった。
社交性がある方ではなく、友達も少ない自覚はあるので、昼間から尋ねる先もない。
ふと、街の広場の方向に目をやると、人だかりが出来ていた。よし、あそこを覗いてみるか。何も無さそうなら帰ろう。
そうして広場へナイトは足を進めた。
ーーナイトの去ったギルド内
「はぁ〜。それにしても何なのよ。この依頼。」
トークの手にする極秘依頼。
依頼者: 太陽・芋
ランク: A
依頼内容: 王国周囲100km圏内に点在する焼け野原の調査
詳細:ーーーーーーーー
… 尚、ドラゴン等の凶悪な魔物の関連性が否定できず、国民の混乱を避ける為にも本依頼は内容及びランクについても極秘扱いとする。…