第43話 皇帝
「ひぃぃ!」
勇者が悲鳴をあげる。
俺は勇者に素早く近づき顔の真横に蜻蛉切を突き刺す。ちょっと頬が切れて血が出ている。
「でかい声出すんじゃねぇよ…誰か来たらヤラなきゃなんねぇじゃねぇか。」
小声だがドスを効かせて言うと勇者が凄い勢いで首を振ってる。
「でだ、ちょっと皇帝のトコまで案内しろ。」
勇者は顔を強張らせ頷く。
「おっ俺を殺さないのか?」
…俺の家族に手を出したことは許さないが今のこいつには利用価値がある。それにまぁ…
「同郷のよしみで今回は見逃してやる。許した訳じゃねぇから今後の態度を気を付けろ」
「同郷…転移者なのか?」
蜻蛉切を少し傾け勇者をちょっと斬る。
「⁉︎」
「言葉遣いも気を付けろ。まぁそうだ。俺も転移者だ。」
「なぜ、あんな事ができるんだ…出来るんですか…」
「あんな事?」
「あんなに簡単に人を…」
あぁ〜俺にもよく分からん。無慈悲なる者は童貞捨てる前だし…勇者みたいになるのが普通だよな…
「よく分からん。ただ、臆病なだけだ。俺は弱いからな。ってかお前も同じ様な事をしようとしてたじゃねぇか。」
戦争に行ったんだからそういう事だろ?
「俺は…」
呟き、黙ってしまった。深く考えないで異世界無双とか思ってたんだろ?
「考えねぇから騙されんだよ。だいたい亜人達が何したんだよ?迷惑かけたか?」
だんだんイライラしてきた。
「獣人が復讐しに来るって…俺は加護で嘘は見抜けるから本当だと思って…」
バカだコイツ。
「バカだろ?獣人が復讐にくるかもしれないとか言ってなかったか?そりゃそいつの推測で嘘にゃならねぇよ。」
勇者は俯いて喋らなくなった。
「もういいから案内しろ。」
勇者を立たせて案内させる。
勇者の部屋を出て皇帝のいる場所を目指す。途中兵士もいたが、勇者が必死に説得していた。
「こっこの方は前の世界でお世話になった人で、きっきっと力になってくれます!」
苦しくないか?しかし、兵士は疑問を持ちながらも俺達を通してくれた。
いいのかそれで?まぁ余計な殺生しなくてすんだ。
「ここが皇帝の間です…」
目の前には大きな扉がある。
扉を開けて中に入ると白髪の恰幅が良く身なりの偉そうな中年のおっさんと兵士が数十名かいた。
「おぉ〜勇者様!具合はもう宜しいのでしょうか。」
勇者におっさんが語りかけてきた。此奴が皇帝だろう。意外と丁寧に勇者に話かけている。高圧的に従わせるんじゃなく、持ち上げて利用するタイプか?
「して、其方の御仁は?」
皇帝が問いかける。
「こっこちらは…」
「無傷の殲滅者と名乗れば分かるか?」
「⁉︎」
周囲がざわつき、兵士が武器を構える。
「ゆっ勇者様!何故⁉︎」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…」
勇者は俺に怯えて再起不能だ。
「おのれ…皆の者!かかれ!」
兵士が一斉に俺へと襲いかかる。
俺は蜻蛉切に魔力を込め、薙ぎ払った。一撃で数人の兵士が切断され、残ってる兵士も躊躇している。
勇者?俺の足元で震えている。
俺が一歩踏み出すと兵士達は後ずさりする。一歩、また一歩と俺は皇帝に近づく。
「くっくるな!」
間合いに入っり、勇者と同じく蜻蛉切を顔の真横に突き刺す。
「ひぃぃ!」
いい歳してお漏らししてやがる。汚ねぇな。
「肝のちぃせぇ皇帝様だな。」
「どうか、いっ命だけは!」
俺に懸命に命乞いをする。
俺は胸倉を掴み一回殴り飛ばす。
「テメェは亜人達にそう言われたらどうしてた⁉︎」
気にも止めてなかったろうな。
「あっ貴方様は人族ではありませんか?」
「だからどうした?」
「なっ何故そんなに亜人の肩を持つのでしょうか?」
「意思疎通が出来る相手を差別するのが胸糞悪いから」
「…」
「人族って何が偉くて亜人の何が悪いんだ?エルフは人より長生きだ。鬼人は人より強い。獣人は人より逞しい。」
「…人族は多種族よりも賢くあります。」
「臆病なだけだろ。人族より優れる者達に蹂躙される事を恐れて排他的になっただけだろ?俺も人族だから臆病だ。帝国に攻められ親しい人達が襲われるのが怖い。よってテメェらを排除する!こういう事だよな?」
「まっ待って下さい!もっもう差別するような事は…」
「テメェが違ってもテメェに準じる奴らは納得しねぇだろ?」
「あ、あ、あぁぁぁ」
「が、チャンスをやる。俺も国1つ殲滅するのは骨が折れる。」
「はっはい!」
皇帝にもはや威厳はない。
「これから亜人の街と俺のいる集落へ攻める事を禁止する。あと不当に奴隷にされた獣人、亜人の解放だ。解放された奴らは亜人の街か、俺の集落にでも寄越せ。奴隷が何人いて、そのうち何人解放したか報告書をまとめろ。期間は一ヶ月。できねぇとは言わねぇよな?」
「はっはい…」
「俺がここにいるので分かると思うが、転移が使える。考えろよ。千の兵と勇者を殲滅出来る戦力がいきなり城の中に現れる恐怖を。」
「⁉︎」
「理解できたようだな。一ヶ月だぞ。」
俺はそう言い残し帰ろうとした瞬間。
「父上!」
誰か知らないが扉から20代前半くらいの青年が飛び出して来た。
「ヘイダル!来るな!」
「族はお前か!」
青年は俺に斬りかかって来た。
蜻蛉切で武器を弾き、腹に蹴りをくれて吹っ飛ばす。
「ぐはっ!」
「ヘイダル!」
蜻蛉切でとどめを刺そうとすると…
「おっお待ちください!ご無礼はお詫び致しますから!息子なのです。どうかご慈悲を…」
皇帝の息子って事は王子か?
「テメェが人の親ねぇ…肉親を殺される悲しみ味わってみるか?」
「⁉︎」
「冗談だ。今回は勘弁してやる。例の件は速やかにこなせよ。」
「ありがとうございます」
皇帝が土下座してるよ。俺も偉くなったもんだな。
転移魔道具に魔力を込め、ハクアの城へと帰還する。
待っていたゲンジロウ達に事情を話し今後は安全と、一ヶ月過ぎくらいに帝都から亜人達がくるだろうと伝えた。
「お主は無茶苦茶じゃな…」
頑張ったのに呆れられた。皆殺しよりも健全な手段だったと思うのだが?
「そういえば、何故帝都の城へ転移出来たんじゃ?」
「あぁあれは、勇者を殴り飛ばした時にマーキング用魔道具で印を残したんだ。今回は皇帝にも印付けたし、城は行った事になるからいつでも行けるぜ。」
「本当に敵にしたくないのぅ。まぁ助かったはわい。ありがとう。」
「ユウマさん、ありがとうございました!」
「おぅ。たまに遊びにくるからな!」
「はい!お待ちしています。」
そう言ってゲンジロウ、レンと別れた。
「さぁ、サラ、リル、グボナ。帰ろうか。」
「「はい!」」『おぅ!』
俺たちは集落の我が家へと転移魔道具で帰還した。




