6/16
ポケットの中の君(作:葵生りん)
ベンチの背もたれに身体を預けて
ぼんやりと仰ぎ見た空には
ふわり ふわり と
降りてきているのか舞い上がっているのか
わからなくなるくらい ゆっくりと雪が降っていた。
「はぁ――……」
吐いた息は舞っている雪と同じ色
霧のように広がってから、雪のように消えていく。
冷たい風が強く頬を拭うように吹き付けて、
慌ててポケットに手を入れた。
強く握った拳の中には、
風に浚われないように必死に捕まえた彼女の温もり。
溶けないように、
消えないように。
強く、強く、拳を握る。
けれどコートのポケットの中に捕まえているのは
残された彼女の体温か、
それとも僕のものなのか。
溶けて混じって、そして消えて。
もう、わからない。
けれど無心に信じて拳を握る。
行くな
行かないでくれ
けれど強く握った拳の指の間から、
するするするりとぬくもりは逃げていく。
ぽたり ぽたり
頬を伝って落ちる滴が、コートに染みを作っていく。
短く吐き出される白い息が、
何度も何度も空に消えて。
固まれ
固まれ
氷のように
水晶のように
君を捕まえていられるように。